7-1
雨が、ひどく打っている。地面を、そして、仲間の、冷たくなったその身体を。
なんで。
そう思う。
なんで。
悲鳴をあげた。絶望の、声を。
「あぁ、みんな……」
涙が止まらない。一番弱い自分だけが残っても、どう戦っていいかすらわからない。
雨が降っているせいか、寒い。吐く息が、しろい。
数分前は、みんな生きていたのに。
神様、カミサマ! お願い! お願いだから!
「あたしじゃないよ! 生き残るのは!」
最初にやられたのは、二号だった。彼女の防御壁がまるで紙っぺらのように、貫通された。光の帯に。
そしてその光はそのまま、二号の身体を両断していた。なにも、できなかった。悲鳴をあげたのは三号だった。
もう無理なのに、駆け付けようとした三号が、いくつもの光の棒によってその場に串刺しになって、瞳から光が消えた。
年少組がなすすべもなく、殺された。目の前で血が舞うことにあたしは、咄嗟に動けなかった。だけど、四号が武器の鋼鉄の糸を素早く敵に向けて伸ばした。その速度ならばいつもは、相手が穴だらけになるのに。すべて、弾かれた。
遠距離攻撃がダメな時でもいいようにと、五号が距離を詰めている。その怪力で放たれる拳は、相手を粉々にする破壊力があるのに、敵が受け止めた。
驚愕する五号の顔面に、容赦なく敵は拳を振り下ろした。にぶい音をさせて、五号の身体がおかしな形にまがる。
敵の瞳がぐるんと動いて四号を捉えた。その四号を突き飛ばしたのは、八号だった。彼の腕が破裂する。
慌てて止血しようと能力を使おうとした彼を、レーザーのような敵の攻撃が狙う。彼を庇ったのは一号だった。だけど。一号が両腕を交差して、武器を構えてその衝撃を受けたのに、無情に武器が粉微塵にされて、一号がその場から吹っ飛ばされる。八号がなにか叫んだ。彼女を助けようと手を伸ばす。残った方の手まで、破裂した。
四号が鞭を取り出して、相手を拘束しようと動くけれど、逆に鞭を掴まれて一気に引き寄せられ、そのまま地面に強く叩きつけられた。ぐしゃ、と嫌な音が聞こえた気がする。
吹っ飛ばされた一号がすごい速度で戻ってくるけど、あたしは、止めようと走り出す。だめだ。勝てない。無理だ。無理だ!
カッ、と光が放たれる。目で追えない光の弾丸。一号は見えていたのか、素早くなにかを出現させたけど、それが破壊されるのも本当に一瞬で。片足が貫かれる。一号がバランスを崩す。
すべてがスローモーションのように、みえていた。
あたしはなにか、叫んでいた気がする。だけど、雨の音できこえない。
八号が身を乗り出して一号を庇った。あぁ! 彼だけは守らないといけないのに!
あたしの祈りのような思いに呼応したかのように、一号が素早く反応した。八号を力任せに押し出す。そのせいで。
一号の身体が無数の光の矢を受けた。ぐら、と彼女が膝をつきそうになる。八号が泣きながら一号を癒そうと能力を放とうとする。彼の身体が見えない力を受けたように、ひしゃげた。ああああ、そんなそんなそんな!
一号が傷まみれの身体で八号を抱きとめようと手を伸ばす。目の前に、絶望しか広がっていない。あたしはどうしてこんなに弱くて、足が遅くて、みんなみたいに戦えないんだろう?
でも。
一号が目を潰されながらも八号を受け止めて、貫かれてほぼ脚の形をしていないそれを動かして一気に跳躍し、あたしのところまで後退してきた。
「六号」
潰れた一号の声に、あたしは涙が溢れる。一号、一号! もう喋らないで!
「頼んだ」
彼女は八号の亡骸をぐっと胸元に抱き込む。だめ……そんなにたくさんの命を八号に与えたら一号は……!
そして八号を離すと、小さく息を吐いて地面を強く蹴った。地面すれすれに跳んで、すごい速度で敵へ攻撃を仕掛ける。
だめ……そんな、そんな! 一号の命はもうほとんどないのに!
敵の攻撃よりも速く、彼女は眼前に移動した。誰もできなかったことを、一号だけは成し遂げた。敵の頭に拳を一撃振るったのだ。ごしゃ、と気持ち悪い音が響く。それは、あたしを絶望の底に叩き落とすには充分な光景だった。
相手の頭が吹き飛ぶのと同時に、一号も同じように……頭蓋を吹っ飛ばされていた。血しぶきが、雨の中で舞う。
「あああああああああああああああああああああああああああ!」
信じられないほど大きな悲鳴が、あたしの喉から迸った。
一号まで……! 八号を、涙でうまく見えない視界で探す。彼は微かに息を吹き返していたけど、やっぱりだ。足りない。一号のあれほどの生命力を分けられても、ダメだった!
でも彼さえ、彼さえなんとかすれば。
目の前で、八号が踏み潰された。
え、と思った時には、あたしは反射的に腹部を庇うように両腕をおろす。ひどい衝撃と痛みに、攻撃されたと思った時には、なにかにぶつかって、そのまま地面に落ちた。
それが、すべての顛末だった。
意識を取り戻したあたしは、雨に散々打たれて冷たくなっていたのだろう。手足の感覚がない。がちがちと寒さに歯が鳴る。きっと唇も紫か、白色だと、おもう。見えないから、わからない。
「はっ、はっ」
惨めな気分で起き上がって、立つ。腕が、折れてる。でも、痛覚が麻痺しているのか、なにも感じない。
ずいぶんと、飛ばされた。駆けたいのに、できない。苦しい。はっ、はっ、と息を吐きながら、雨の中、ひたすら進む。
爆心地みたいになっているのは、一号が死んだ場所だろう。……荒い息を吐きながら、うろうろする。荒廃してしまったその場所を、さまよう。
先に、五号の死体を見つけた。呆然と見つめてから、また歩き出す。次に見つけたのは、四号だった。ほとんど原形がない。あの長いマフラーが、欠片ほど、落ちていたからわかったようなものだ。それはもう、死体と言うことすら、難しい。
また歩き出して、八号を見つけた。四号ほどではないけど、こっちも酷い有様だった。
そしてまた歩き出す。次は、三号と、二号だ。二人とも、あの瞬間の姿のまま事切れていた。一番損傷がなかったのは、二号だった。
残るは、一人だ。ごめんなさい、一号。八号を頼まれたのに……助けられなかった。守れなかった。
「う、うっ」
嗚咽がもれる。息が苦しい。喉が痛い。
「あっ、う」
うまく、泣けない。
歩き回って、やっと……見つけた。
ぼろぼろの、頭のない、一号。
身体のいたるところに穴が空いている。脚も腕も、その形をそう称していいのかわからない。
膝から崩れ落ちた。もう、無理……。
出来事は、それほど時間がかかっていない。本当に、数秒のことだった。その間に、仲間の命がすべて、吹き飛ばされた。抗えない濁流に呑まれたように、命が奪われた。
あれほど強く。あれほどしたたかで。あれほど頼りになっていた仲間が。
まるで邪魔な虫を潰すような、そんな非情さで、しんだ。




