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「ユズさんのこと、好き、で」
懸命に伝えた時、唖然としている彼女の表情に、振られると思った。
「せっかく元気になったんだから、おまえ、モテるだろうに」
「嫌だ! ユズさんがいい! ぜ、全部最初は、好きな人って決めてる。こんな顔してるけど、一途だよ。アピールするところ、あんまりないけど、欲しいのはユズさんだけだから、あ、え、と言い方おかしいよね。どうしよう、言い訳みたいになった……」
「おい……なにも泣くことないだろ」
「だ、だってユズさんモテるから……僕なんか、こんなに好きなのに」
「モテたことない。わたしを好きとか、勘違いとかじゃないのか?」
怪訝そうにする彼女の両手首を掴み、見下ろす。
「ど、どれだけすれば本気だってわかってもらえるの、ユズさん。ほかの人にモテても意味なんてないよ。欲しいのはユズさんだけなんだから」
「お、おい……泣き止め」
「ご、ごめ……なんか、本当に男としてやっぱり見られてなくて……情けな……。ぐすっ」
「……そんなに好きなのか? わたしなんかが」
「好き。大好きだよ。好きすぎておかしくなりそう。わたしなんかって、言っちゃだめだよ」
「えぇ? どうすればいいんだ……? すごい泣くんだな、おまえ」
「ユズさんと結婚を前提にお付き合いしたい、です。お、お互い、その、高校生なのにって思うけど、ほ、本気だし……!」
「あー……。まあ、それで気が済むならいいけど」
「僕は本気なのに! 投げやりだよ、ユズさん!」
「あ、いや、恋愛経験ないからよくわからなくて……。まあいいよ。じゃあ今日からお付き合いっての、始めるか」
「ま、待ってユズさん! そんな簡単に決めたらダメだよ!」
「どっちなんだよ、おまえ」
「だ、だって僕、ユズさんの全部が欲しいから……ほかの男に目移りしたらなんかひどいことしそうで……! よく考えて!」
「両手で顔隠して言うことじゃないだろ」
「こんなこと言うの初めてなんだって……!」
「ふーん。まあ、勇気を出してくれたのか。なんかわたしができることがあるなら、遠慮なく言え」
「か、考えておくね!」
「ふっ。まあ有効期限ないから、お好きにどうぞ」
アハハと思わず笑い声を出された。滅多に見せない笑顔を目にして、相当参ってしまったのは自覚があった。
「ユズさん、を、僕にください」
返事など待たずに、どうしたっけ……。
こんなやり取りしたっけ?
「大事にします。一生愛します。ユズさんしか欲しくない。ユズさんがいればいい」
そして。
「まあいいけど」
「ユズさん! ちゃんと考えて! い、今のプ、プロポーズ、だからね」
「ははっ、泣きながら必死に言われたら、まあいいかなって」
「もう……お。お願い、思いついた」
「ん?」
「ユズさん、僕を――――絶対助けないでね」
は、とした。このやり取り、いつしたっけ……?
今の関係は、なし崩しみたいに始まった。あとで告白は正式にしたが、こんな会話、ではなかった気がする。
勝手に記憶を捏造してる……? いや、今のは妄想? それとも夢でもみた? ひぃぃ、恥ずかしい!
そんなに四六時中彼女のこをばかり考えてるとか、明らかにおかしいだろ!
「ユズさんがかっこいいからっていうのもあるけど、好みっていうのが最初の印象で」
本当の最初の印象は痴女だったけど。
「ゆ、ユズさんは前向いて。恥ずかしいから」
「…………」
「今さらって顔してもダメ!」
「じゃあおまえも揉むのやめろ」
「それだよ! ユズさん、そうやってちゃんと僕を叱るんだよ?」
「叱られる前にやめろ」
優しくユズさんの顔を前に向かせる。こっちは見ないで欲しい。
背後から彼女を下心なくぎゅう、ともう一度抱きしめた。
「ユズさんを好きになったから、好きなんだよ。理由は僕にもわからないから」
「お、おい……なんでそんながっちりホールドするんだ……」
「ユズさんに伝われ! ぼ、僕の愛!」
「……はいはい。わかったよ」
「ユズさん、僕、頑張るからね。絶対にユズさんの助けになれるように頑張る」
「…………頑張らなくていい」
声のトーンが明らかに変わった。どんな表情をしているのか、さっぱり予想がつかない。あまりにも、なんだか苦痛を我慢しているような響きが、あったから。
「今でも充分だ。おまえは、頑張るな」
「どうして? 僕も操者なんだよね?」
「……病気が悪化するだろ」
なにか隠したような、躊躇いが混じったものを感じた。なにか悩みでもあるのだろうか。
確かに、操者として戦うとなると、この身体には負担は大きいだろう。でも、それでも、好きな女性を守りたいを思うことは、いけないことなのだろうか?




