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「大丈夫だ。集会所に祭りの準備のために人が集まってるから。誰かに頼んでおく」
「うそ……ユズちゃんはどうするの? ねえねえ」
「わたしは迎えに行くやつができるから、してもらう」
「ぐふっ、病弱設定でそんな属性まであるの……? めっちゃ見たい……。儚い系だと最高じゃないの~」
「は、はかない、けい……」
困惑してる一号に、まずいと思ってしまう。どうして変なところで一号ってこう、ニブいんだよ!
「美人だったら色々捗りそう……!」
なにをとは訊き返さない。俺も四号も視線を逸らしている。五号はしょっちゅう、一号が男だったらいいのに~とか言ってるし。でも一号が女の人だから、あの距離感でもあるとは思う。
「美人……まあ、顔はいいんじゃないか? よくそう言われて困ってるしな」
「ええっ、ちょ、マジで……。そんな二次元設定が適用されてる三次元がいるの……? あ、会ってみた……いやいや、だめだめ。
元気になったらぜひ! 会いたいかな!」
おおっ、五号……なんとか堪えた! 仮にも……行ってないけど大学生ってだけある。ていうか、大学って行かなくていいものなのか? 五号見てると、進路の参考にならないんだけど……。将来かぁ……全然想像がつかない。
*
公民館て書いてあるんだけど……。と、思いつつ、一号が案内を終えて中に入ってから誰かに頼むと、さっさと居なくなってしまう。はやい……行動が。
しかしあの林って、きちんと道があったとは。獣道しかないと思ってたのに、一号がふつうに歩くからびっくりした……。まあその先は移動してきた時に見た通り、ほぼ山と田んぼしかなかったわけだけど。五号が「資料資料」と言いながら写真をすごい撮ってるのはなんだったんだろ……。
浴衣を着せてもらってから最初の部屋に戻ると、色々準備をしている人たちの中で、ちょこんと正座をしてるナナサンの姿がある。も、ものすごい置物感……。
「ナナサン……なんでそんなすみっこに」
「三号」
かっちり七三分けで瓶底眼鏡つけてるし。それに明らかに外国人の体格だから、着せてもらってる浴衣のサイズが合っていないんだが……まあ背が高いからサイズはこれが精一杯だったんだろうな。
横に体育座りで並ぶ。
「お祭り、そんな楽しみなの?」
「こちらの文化に触れるいい機会だ。それに、そのうちこちらで活動もできなくなる」
「え?」
「異世界から来ていると言ったが、精神体だからな」
びっくりしていると、ナナサンが笑った。
「やはり説明していなかったか。猫と植物を媒介にして、実体を作っている。こうして活動できるのも、こちらに我々の世界の空気が混じっているおかげだ」
「え、と……じゃあ消えちゃうってこと?」
「ああ」
「なんで? だって俺たち、まだ虚獣を全部やっつけてないよ! 全部やっつけるまで普通はいるだろ!」
「そう言われても、元々こちらに無理に介入しているし、ある程度操者が成長するまでしか居られないのは最初から決まっていたんだ」
「む、無責任じゃない? 一号だって怒るよそれは!」
「いつまでも助けてやれない。我々はこの世界に居てはいけない」
「…………」
そ、か……。確かにそうだ。虚獣だって、この世界にとって悪い存在だから俺たちが倒してるわけだし……。というか、あれは生物ではないな、そういえば。別の世界か~、想像できない。
「いつ頃消えるの?」
「そう長くはない。だが死ぬわけではない。元の世界に戻るだけだ」
こっちにたった一人で来てるわけだし、戻りたいよなふつう。俺だってそう思う。そっか。
いつか帰っちゃうから、一号は本名を教えてくれないのかな、もしかして。いや、そこまで考えてるようには思えない。ムカツクからってのが理由だな、絶対。
「こっちの記憶って残るの?」
「おぼろげに。まったく違う文化だからなるべく触れておきたいというのは私の希望なのだが、一号が嫌がってな」
「それくらい許してあげればいいのに」
「彼女の判断は正しい。神殿の命令でこちらに来たが、悪いのは我々の世界だからな。こうして私が手助けをするのは当然で、義務で、責任だと言われた。むしろ、尻拭いを自分たちでしろと言われた……」
「…………」
それができてれば、操者はいないんだけど。
相変わらず一号はナナサンに辛辣だ。ナナサンだって、自分でなんとかできれば、やってると思うけど。
「でもさ、操者って今までもいたってことだよね? 選ばれたって言うんだから、そういう例はあったってことだし」
「神殿側は間欠泉ができてしまうと、こうして派遣をする。だが肉体を移動させることは不可能だ」
「そうなの? まあ、そっか。できてたら、ナナサンが全部やっちゃうか」
「それだけではない。精神体だからこそ、余計なことを考えなくて済んでいる。我々使者は、あくまで操者を導くだけだ。それ以上のことをができないようになっている」
「ん? どゆこと?」
「私にとってはこちらのことは夢を見ていることと同じなのだ。大きくこちらの世界に悪影響を与えないように、ただ使命だけのためにいる。意志が強すぎる場合や、悪意が強ければこちらの世界を夢ではなく、現実と認識する。それはあってはならない」
「なんで?」
「こちらの世界の概念にないから説明が難しいが……私は猫と植物であって、私という人間ではない。あくまでこちらの世界の存在であって、元の世界の私ではない。
だが、夢を現実としようとすると、虚獣のようになる」
「???」
さっぱりわからない……。俺、確かにあんまり頭はよくないしな……。四号ならわかるかな。
「こちらの人間になろうとする、というのが近い。だがそれは無理だから、虚獣ではなく、虚人になる」
「キョジン?」
「そう。虚獣のように意志がないのではなく、人間のように思考できる存在になる。三号たちの世界にとっては、最悪の敵になる」
「敵……」
「夢だと思っている者と、現実とわかったうえで動く存在……どちらがよくないかは明白だ」
「わ、わかんない……」
ぜんっぜん、わかんない。時々ナナサンの言ってること理解できないけど、四号だけがなんか通訳してくれるけど! うまく翻訳されてないのか、もしかして。
「レンズのピントを合わせて天体を観測するか、そうではないかの話だ」
「……ごめん、やっぱりわかんない……」
「それは当然だ。専門用語を使っているから、おそらくうまく伝わっていない」
「なんだよそれー」
「こちらの世界に存在していない思想や、言葉はうまく通じないはずだ」
なんか難しいことを言われてる。よくわかんない。けど。
「つまりは、異世界の人間が肉体もって現れるのと同じみたいな感じ?」
「近い。こちらの存在になることはできないから、媒介は必要だし、存在を確立するために捕食する」
「え? えぇ? うーん?」
「私は猫と植物を媒介にしているが、どちらも人間ほど強固な意志はない。本能、生物としての生存サイクルに従っているが、人間は違う。意志があり、自身で様々なことを判断するが、それが生存するために必要とは思えない感情だけで行動を可能とする……」
「待った待った! ナナサン、なんか言葉がおかしくなってる! え、と? いや、うん……話し方? なんか文法がおかしい感じ?」




