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九話 ツインフットシャーク VS


 うーむ、でかい。足で立っているわけだが、その影響で、それの頭部はニメートルほど浮いている。そして、頭から尾までの全長は十メートルにも及ぶほどの長さだ。


 口は半開きになっていて、牙が外に見えるようになっている。抑えの効かないその口からは、しとどに液体が溢れ出している。



 どうする?何か指示とかはある?


「一分待ってて。一撃で仕留めるから。」


 一分かけて、魔法の準備をするのか。それの時間稼ぎをしろと。しかし、さっき言っていたような化け物を一撃とは。かなり自信があるようだ。 


 この……これも、見ようによっては魚人と言えなくもないか。……サメでいいか。このサメがどう動くのか。


 ……?動かない?


 だが、両の目はこちらを見据えている。何が起こっているんだ。


 わたしも刀を抜刀して構えている。どこからか、奇妙な音が聞こえてくる。カチ、カチ、…

 

 


 サメは前駆兆候なく、足も一切動かさずに、首だけを動かした。わたしの手はサメの口内に有った。


 



 あぶねっ!


 すぐに引っ込めるが、右手の前腕部の皮膚がかなり持っていかれ、血がが噴出する。筋肉が傷つかなくてよかったよ。


 サメはくちゃくちゃとわたしの皮を噛んでいるが、どうにも不思議がっている。あのサイズで、わたしの腕の皮膚を持ってったくらいじゃあ、ろくに噛めもしないだろうよ。


 その隙に距離をとって、わたしの服の余りの部分を千切って巻き、止血する。右手を握ったり回したりして確かめると、めちゃくちゃ痛いが動きには支障ない。不意を突かれてこうなったが、分かっていればそう上手くは行かないはずだ。


 今度は出し抜けに噛みついてくる。また出遅れてしまったが、今度は刀で受け止める。


 咬合筋が凄まじい。両手で刀を握っていても、わたしごと後ろに押し込まれてしまう。それに、モーションがなく、こちらにとっての体感速度が早く、対応が遅れてしまう。


 クソが。片手を離して、必死にサメの顔の適当なところを殴ると、刀を離した。刀が食べられないことに気がついたのだろうか。


 ちょこっと怯んでいるようだ。そんなに鉄を食ったのが嫌か。


 でも、隙だ。懐に潜り込み、足に切りかかる。


 サメはわたしを首で追うが、身体構造的にここまでは届かんだろう。このまま突っ込んで脛を切る。


 と、刀が足に触れた瞬間に悟る。


 まず、皮が切れない。分厚く、軽く触っただけでは金属か何かと勘違いするほどに凝縮されたゴム質。


 わたしの力で切り掛かっているのだから当然凹むが、そうなると逆にゴム質が邪魔になり、切れない。そして、このサメの表面からは、粘液が滲出している。刀をまるで包みこむようだ。

 

 さらに悪いことには、わたしがこれの構造について無知であったことだ。サメは、足に切り掛かっているわたしの耳のすぐ横まで顔を近づけていた。


 すぐに飛び退き距離を取ると、サメは足の間から首を出し、こちらを覗き見ていた。柔らかいなー。それに、伸びる伸びる……


 どうしたものか。


 

 サメは、またゆっくり歩いてきて、わたしの少し前で止まる。さっきのか……


 いつ来るのかがわからないが、その瞬間を見逃さないように集中してサメを観察する。


……


……


 よーく見ると、サメの顎が少し震えている。ああ、さっきのカチカチという音は、歯と歯が触れた音だったのかあ。


 !

 

 あぶねって。危ないよ。変なこと考えてたら、まあた首を伸ばしてきやがった。さっきとは一瞬だけ反応が早かったようで、今度は傷はつかずに逃げることができた。


 サメはじっくりわたしのことを観察して、集中力をなくした瞬間を狙って噛んできてるみたいだ。小癪な……


 間髪いれず、その伸ばした首を、自在に軌道を変えてわたしのことを襲う。


 わ……速すぎて、回避が追いつかなくなりそう。刀で弾こうにも、向きを自在に変えられるので、できない。危ない。


 やばい、必死に避けてたら、転びそうだ。これ以上避けるのは無理!


 ハンドスプリングの要領で飛び込んで距離を出し、サメとの距離をできるだけ空ける。


 まいったなー。現状ギリギリ負傷せずに渡り合えるようだが、とてもではないが攻撃はできない。どうにか大きい隙を作りたいものだが、作ったところで、切れないから……


 どうやってダメージを与えようか……


 刀で切るのでダメだったら……うーん、うーん……

 

 ……あっ、そうだ。ヒトカが、一分待ってたら攻撃すると言ってたじゃんか?今は攻撃せずにサメの攻撃を回避し続けられればいいんだ。


 となれば、ヒトカが攻撃を喰らわないように、サメのヘイトをわたしに溜めればいい。


 刀の射程距離よりも遠く構える。この距離は、あちらはギリギリ届く距離だろう。


 こちらに首が届くより前に、後ろに下がる。そして、限界ギリギリまで刀を長く持ち振る。


 殺すなら、臓器か大きい血管をきらなきゃ意味ないけど、その目的でないならやることはいくらでもある。わたしの刀は、サメの歯茎に向かって飛んでいった。


 確かに、サメの口内を数センチ切った手応えがある。


 サメの方を見ると、サメの口の左脇から血が流れ出し、口腔の淵に少し溜まっているのがわかった。


 口内を切られるのは、それは激痛だ。生きていたならば明日酷い口内炎になるだろうな。


 尤も相手は野生の生物。痛みに対する耐性は強いだろうが、これで終わると思うなよ。


<ここまで>

 

 サメはわたしに

 

 これを四度行った。わたしもよく学習しないものだと逆に感心していたが、口が血まみれになり、地面についに垂れ始めた頃、怒るように咆哮を上げた。そして、足を折り曲げ、太ももに当たる部分の筋肉を隆起させている。

 

 怒りのあまり、足に自罰的に力を込めているのだろう、とわたしは推測していたが、結果から見るに全く違っていた。


 サメはその直後、足の筋肉を突如として全て解放して、上空に飛んだ。天井ギリギリまで飛んでいる。


 そのまま、上から落ちてくる。 


 あまりのエネルギーに、その場には岩の破片できた砂嵐がまきおこる。サメの落ちたところを見ると、サメの体が地面にめり込んでヒビが入っている。


 恐ろしい。巻き込まれたらただじゃあ済まないぞ。


 ただ、こんな大きいモーションでは、ナマケモノでも喰らわんて。


 あまりの威力にサメ自身も多少は衝撃を受けているようで少し呆けていたが、気がついて起き上がるようなので、どいた。


 そして、またすぐその姿勢に入ろうとする。いいだろう。余裕で回避してやる。


 ……って、ここは……


 いつの間にか、ヒトカが魔法の準備をしている場所に戻ってきているのに気が付かなかった。位置的に、跳ばれたらヒトカに当たるよな。ヒトカに移動を促すには、もう時間がない。


 ここでわたしが止めなくては。刀に手を添える。


 ただ単に切るだけでは、こいつの薄皮一つ切れない。何か、弱点、弱点……ここまでの攻防に何かヒントになるものはないか?一瞬で思い出せ……




 今!


 居合の要領で放たれた剣撃は、サメがちょうど跳躍しようと足に力を込めた瞬間に()に直撃する。


 サメは、後ろずさり横から倒れる。ギリギリで最初のことを思い出してよかった。現実の鮫は、鼻に重要な感覚器官が有って、敏感だから鼻を触ると逃げていくというような話がある。


 一番最初の最初に、サメがわたしから逃げたのを思い出したの。あの時、鼻を触っていたような気がしたから。


 「よくやった!どいて!」


 ちょうどいい。声に気がついて、すぐ飛びのいた。


 ヒトカは、いつ取り出したのか巨大な本を目の前に広げている。


 わたしが動いてから一拍おいて、魔法が発動される。



 「廃卿(ハ・マラヒム)


 ヒトカの後ろの、何もない空間に魔法陣が浮かび上がる。緑色に光るそれからは、じわじわと火の粉が液体のように垂れており、ヒトカの足元を赤色に照らす。


 ヒトカの合図で、それからは、整形されていない球状のものが湧き出してくる。比喩的に言えば、まるでコップに氷水が入っていたときに、中身をそのまま溢したようだった。


 その火の塊にぶつかった鮫は、質量に負けてその場に倒れ込むと、そのまま廃卿(ハ・マラヒム)の火に飲み込まれていった。


 鮫を丸々包み込んだあと、廃卿(ハ・マラヒム)の火はまるで生き物かのように流動し始めた。それはまるで蛸が捕食しているようにも、波が繰り返し押し寄せているようにも見える。


 祝子にはその形は包被型植物のように見えた。幾重もの炎が重なって丸くなり、中のものを覆い隠そうとしているふうに。


 いずれ鮫の姿は見えなくなり、ただ灼けて苦しむ断末魔の声のみが聞こえてくるようになり、数分ほど経つと、骨だけになった鮫の姿がそこにはあった。


 《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》


ハフリ ユメ

職業【神巫】

Lv:9

HP85/85→90

MP85/85 →90

筋力:85 →90

魔力:85 →90

速度:85 →90

防御:85 →90

抵抗:85 →90

【スキル】

:【剣術】Lv.4【経験値アップ】Lv.1



 すごい火力だな。もう、骨しか残っていないじゃないか。わたしも使いたいなー。


 ただ、魔法を打ち終わったヒトカは膝をついて息をあげている。威力がすごいが、負担も大きいようだ。


 大丈夫かな。


「ふー。ありがとね。まだ規模の大きい魔法を使うには魔力が足りないから、疲れちゃうわ」


 肩を貸してヒトカを壁まで誘導して休ませる。


 


 

 サメを討伐したからといって特にいく当てもないわたしたちは、当てずっぽうでダンジョン内を進んでいるわけだが……


 あるところで、わたしは地図を途中まで書いていたことを思い出した。正確には、景色を見て、過去に自分がそこで地図を書いていたことを思い出したのだが。


 ここで書いていたのは、この地図だったはずだ。ついさっき、通ってきたのがこれだから……複数枚の地図の情報と、現在地の付近の情報と擦り合わせての現在地を割り出す。

 

 「あ!ここ、見たことある!ここ、あれでしょ……」


 ちょっと今はこっちやるから。


 もし現在地がここなら、右の通路を進めば、この部屋に出るはず。


 「あれ?違ったなあ……」


 わたしの方は合ってた。生還しなければ死ぬという極限状態が、不可能だったマッピングを可能にしたのだろうか。とりあえずこれで攻略するよ。



 


 その三十分後くらいに、ついにダンジョン入り口部に到達することができた。


 「はー、ようやく脱出できた。祝子ちゃん、ありがとー!」


 いやいや。今度魔法教えてね。


 


 全く大変なことになったが、地図作成の一助になった。これで、攻略ペースを上げられるといいが……

 

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