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八話 ダンジョンの道迷い


 昨日は酷い目にあった。


 結局あの後はギルドに向かい、ギルド寮でゆっくり寝た。清潔な環境がいかにありがたいか。あれは酷かったもんなあ。


 ここにも、いるのかな……


 今日はまた気晴らしにダンジョンへ。毎回毎回同じふうに適当に歩いて目についたものを狩るだけというのも芸がない。試しに、より入り口から遠い場所に行ってみよう。今のところ結構余裕もあるから、こういう風な冒険というのも悪くない。


 なるべくまっすぐ、直線で進む。


 ぐにゃぐにゃと曲がりくねっている道も多いが、なるべく前後の通路とかで調整して、まっすぐ。さっき右行ったら今度は左ーって感じで……





 2時間ほどが経過すると、突き当たりぽい場所に当たった。二、三個となりの部屋にいってみたが、そちらも同様……


 うーん、だめだ。何も考えずに進んでも進展しないみたい。あんまり魚人、魚人、魚人だけではうんざりしてくるから、いい加減違うものがみたいんだけどなあ。


 まあ、今日はいい。今日は弁当があるからな。それも、このあいだのサンドイッチとは違うぞ。なにしろ、トドロキ亭を見つけたからな。


 店主に頼み込んで弁当を作ってもらったのだ。たまに、あそこに来ている冒険者が依頼してくるらしい。通だね。


 まだ十時だが、ちょっと小腹が空いたな。まだ中身も見てないが、どれ、一口行ってみようか。鞄の中を開けると、あ。


 しまった、入れ忘れた……!宿の冷蔵庫に入れたままだった。出る前に冷蔵庫って見ないから、ついうっかり。


 ああ、戻るしかないか。まあ、ここでの成果は何もなかったから、支障はないけどね。

 


 


 




 ギルドの寮に入ってから、受付に戻ってくると、ロビーは人で賑わっていた。時計を見ると昼の12時。


 お昼には人が集まるのかね。わたしは朝早くに出るから、こういう時間にギルドにいることはないんだが……みんな、昼夜逆転?




 受付はキララだったが、忙しそう。たまには頑張ってくれ。


 ロビーでは、設置してある椅子やテーブルが全て埋まるほどの冒険者が集まっている。ダンジョンの中にいるとあまり実感はできないが、冒険者ってこんなにいるんだね。


 誰か、わたしの知り合いでもいないかな。グラントは――――、いないか。その時の、ぼこぼこになってたやつも。あいつは冒険者を続けてるのかな?


 ああでも、わたしには冒険者の知り合いがもう一人いた。今日は仲間と一緒かな?


「う…ん…?おい、ちょっと…」


 こないだ、わたしが投げ飛ばしたやつもわたしの知り合いに当たるでしょ。


 どう?元気?


「いや……勝手に話かけてくるなよ」


 そう言わないで。今日は人が多いですねえ。


「ルビー、話してあげなよ。知り合いなんでしょ?」


 名前も覚えたよ。

 

「クソが。覚えとけよ。……」


「……今日はみんな帰ってきてるからな。そりゃ昨日よりは多いだろ。」


 帰ってきてる?


「そらみんな出稼ぎなんだから。普段は冒険者でやってても、収穫期になったら戻らないと。お前はちがうのか?」


 わたしは本業だから。なるほど、そうだったのか。全然人がいなかったのが異常だったんだな。


「この子どんな子なの?なんで知り合い?」


 受付でトラブルにな


「知り合いの友達!一回会ったことがあるの!」


 連れは不審そうにわたしとルビーとやらをみているが、知られたくないんだな。そんならそれでいいけど。


 どう、ダンジョン攻略は?

 

「…」

 

「そうだねー。そろそろ魚人には全く苦労しなくなってきたし。地図も埋まってきたし、今日か明日には……」


 ルビーが首を掴んで静止した。


「うちらは先に行く。お前も冒険者になったなら自分で行くんだな。」


 そういうと、仲間ごとどこかに行ってしまった。嫌われてしまったかな。ただ、そうか……地図を作ればいいんだ。





 紙とペンを用意して、またダンジョンに向かう。


 ダンジョンに入って初めての部屋からは、3つの道が出ていた。この部屋の右から一本、奥に二本出てる。こう書いて、と。まず右のところから………


 右の道を進んで行ったら、そこでさらに分岐。これを書いて…どっちにしよう。片っ端から埋めて行こう。右!


 そこからは分岐せずほかの部屋に。この部屋からでる道は一個だけ。迷わずそこに行ったら、行き止まりに。ううん……


 帰ろう。さっきの部屋に戻って、通路に入ろうとしたが……


 さっきの部屋にはもう一個道があったらしく、……どっちからきたんだっけ?本当に全く記憶にない。とりあえずこっちと仮定して、次の部屋が違ったらまた考えよう。「ここには三つ道が」……きた道をのぞいたら二つか。

「二つ道がある」……


 戻った結果たどり着いた部屋には、3つほど分かれ道があった。さっきの表記とは一致してるけど、こんな部屋だったかな…?二叉路どっちも三つ分かれ道の部屋に続いてる可能性もあるけど…わたしが書いてた地図にはやっぱりどっちからきたかは書いていない。入り口にも戻れなくなるかも……


 みたいなことを繰り返して、完全に迷ってしまった。地図作ってんのに迷うなんてことあるのか?


 幸いなことに、そこまで時間をかけずに他の冒険者に出会うことができた。よ、よかった!これで帰れる……!



 

「あ、あれえ?」


 うん?怪しいな。


「あっ……人!ちょっと道をお聞きしたいのですが。」


 わたしもを見て目を輝かせて近づいてきたが、ご期待には応えられないだろう。先んじて手でバツを作る。


「えっ……あなたも」


 はい。迷っております。

 

 彼女はヒトカ。魔術師で、五人パーティを組んでダンジョンを攻略していたが、一人ではぐれてしまったらしい。外にでることもできず、合流もできないので立ち往生していたそうだ。


 この周辺には冒険者もよりつかなさそうなので、お互いで協力して脱出することにした。


「あ、見覚えある!私こっち通ったよ!」


 ほんと?そっち行こう。……次の道はどうだった?右?

 

「うん!………あれ?えーっと……こんなとこだったっけ?違ったかも…」


 そっか。戻る?さっきの部屋に……さっき進んだのはどっちだったか。似たような道でわかんなくなったな。


 ………悪化してる気がするけど、気のせいだよね?


 こいつが道に迷った理由がよーくわかる。今後、こいつに道案内はさせないようにしよう。


 迷いに迷って、わたしたちはとある道を進むことにした。そこからは、なぜか妙な清涼感のような空気が漂っていたため、長い迷子による閉塞感で、気が参っていたわたしたちはそれに救済を求めたのだ。


 その道を進んでいくと、最初はコツコツという乾いた足音だったのが、、ピシャリと何か高い音が混じるようになっていった。足元がまばらに濡れているようである。一体なぜ……?


 さらに進んで広い空間に出ると、その理由を知ることができた。


 空間の真ん中には、堂々と清流が流れていた。対岸が見えないほどの長いはばがいて、右から左へと悠々と流れている。水の源泉を辿って右をみると、渓流のようになだらかな坂を、水が降ってきている。どこから湧いているのだろうか?


 なるほど。ここにはどこか水の気配があると思っていたが、もしかして鍾乳洞のような場所だったのか、ここは。


 「へー。しばらくここにいたけど、気がつかなかったなあ。こんなところあったんだ。今度くじらたち連れてきて遊ぼうかな?」


 察するに、くじらというのはヒトカのパーティメンバーなのだろう。

 さっきまで揚々と道案内してたくせに……。呑気なものだ。


 

 ただ、そう言わせるだけの理由はある。この川の水は極めて透明度が高い。まるで渓流のように、自然そのままの岩が残っており、それによって川の流れが作られている。どこかから刺している薄暗い光が反射しているのも相まって、幻想的な風景だ。今度、わたしもグラントと一緒にここにこようか。

 

「しっ。」


 そのように考えていると、ヒトカが急に口に手を当て、わたしの注目を集めた。わたし、しゃべってはいないけど……


 注文通り黙ってあたりを見渡すと、川の中心、特に深くなっている部分に、魚の背鰭のようなものが見える。


 ここの川には魚がいるのかな、などと呑気なことを言っていられないのは、その背鰭の大きさからだ。この大きさから想像できる魚は、それらの中でも特に大きい、鮫か、鯨か。


 ヒトカ、さっき自分を腕利きの冒険者だと言っていなかったか?お前なら倒せるんじゃないのか。そう聞くと……


 ヒトカは、魔力を視覚で捉えることのできる魔眼を持っているといい、それにより普段から目の前の獲物の力量を測っているそうだが、……


 これは、特別だという。今まで、このダンジョンで戦った中で、一二を争うほどだと。

 

 魚人とは、比較にならないと。


 それは洒落にならない。


 逃げよう。気づかれないよう、なるべく静かに音を立てずに退がる。ゆっくり、一歩ずつ。足元は水浸しだから、すり足してても水滴の音がするかもしれない。慎重に、慎重に……


 パキッ!


 振り向くと、ヒトカが足元で細い鍾乳石を折ってしまっていた。両手を合わせてハンドジェスチャーで謝っている。ごめんじゃないよ。


 件の魚は、今の音で完全に気がついたようだ。


 一度水面から沈み、勢いをつけて水上へと上がってきた。


 凄まじい水飛沫を上げ、わたしたちの目の前に現れたそれは、わたしが想像したよりもさらに奇妙なものであった。


 一般的に鮫で想像できる、細い尾の部分からだんだん太くなっていき、頭部で完結する雫状のものでなく、むしろ飛魚やうなぎ、ウツボなどと類似した、細長い形状。


 そして最大のものが、ちょうど中心部程度に生えた、たくましい二本の足。全く、今日は変なものをよく見る日だ。



 

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