五十一話 火道神事の例大祭 終
「デパートを白山會がやってるってこと?」
そう。なんか違和感があったけど……言語化が難しいな。
こう、服がもったいないっていうか……
「あ、確かに。部下の人に着させる服をわざわざスヴィ製にするのは、いくらスヴィ出身でも高価すぎてもったいないだろう、ってことですか?」
あ、そうそう。
「それで、業として輸入してるところなら、余りがあるだろうから、それに使ってももったいなくない、ってことか。」
それが言いたかった!そう!
あそこのデパートの代表は一回あったことがあったな。確か………
「まさか、ヤオヨロズさんが……」
そう、緑髪で長身の、綺麗な人だった。
はっきりと疑いがあるわけではないが、ヤオヨロズについてちょっと調べてみよう。
あら、アキさん。こんにちは。
「おはようございます。珍しいですね、祝子さんがこんなところに来るとは。」
確かに、冒険者が商工組合の会合所に来るのは奇妙だ。でも、わたしも一回だけ来たことがあるんだよ。
魔力感知装置の商売をしようとしてた時、シロネに押し付けられて。あの時は大変だったな。わたしとは関係ない、鍛冶屋としての売買の処理がめちゃくちゃだったらしくて怒られた。
ここにはちょっと調べ物をしようと思ってきたんだ。
そうだ、アキさん。あのデパートって、いつごろできたか知ってる?
「私の店が入っているデパートですか。わたしは、最近ここに出店したので詳しくは知らないのですが、確か三十年前とか言っていたと思いますよ。」
三十年前!
白山會の参入と、ちょっと合致してしまうな、これは。ここの組合のデータベースに入って調べる価値もあるというものだ。
「調べものというのは、デパートのことだったんですか。それでしたら、いっそ直接聞いてみてはいかがですか。」
直接、いや、ちょっと……
「ヤオヨロズさんは優しい方ですから、答えていただけると思いますよ。最近は、商工組合の実質的なトップになったから、何か融通してやろうか、とかおっしゃっていました。さすがにお断りしました毛度…。」
商工組合のトップがヤオヨロズ……?
ちょっと、用事を思い出したから失礼する。ここで調べるのはまずいかも師れない。それに……
あ。あのデパートについて調べてたことは内緒にしてもらえる?ちょっと、厳守でお願いしたいんだけど。特に本人には。
「?……まあ、わかりました。」
直で、かつヤオヨロズと関係がないと思われる人に聞くしかないな。ヤオヨロズがトップの組織で聞き込みとか、絶対やめたほうがいい。
ミコトさん。確か、六十代だったよね。若い頃は、確か憲兵だったとか。教えて欲しいことがあるんだけど……
「はい。祝子さんなら、なんでも答えますよ。」
ヤオヨロズってご存知?外国からの輸入業の最大手で、巨大デパートのオーナーとして有名だと思うんだけど、確か三十年前にデパートができたから、その頃には活動が活発になってたでしょ。
「ああ、知っていますよ。あの緑髪の人でしょう。」
お、知ってる。で、どう?
「昔、旅の行商として話題でした。何せ、不思議な品物をたくさん持っているもので。少しして、ただの行商がいきなりデパートを建て始めたので、びっくりした覚えがあります。確か、私が25とかの頃ですから、35年前のことでしょうか。」
来てわずか五年で、あのデパートを建てたのか。すごいな。
「他には特に。うーん、綺麗なかただったというのは覚えていますが……」
確かにあの人は綺麗だったけど。それ以外に何かないの?本人じゃなくて、デパートのことでもいいんだけど……
「あ!確かあの頃は、商業組合がものすごく荒れていたと思います。商業の流れを乱すーだとか言って、あのデパート排斥の動きがあったり……」
ふんふん……
「でも、デパートが建つ頃には、とんと止んでいました。確かその頃、強盗が頻発したり、豪商の不祥事も起きたり。あの頃は忙しかったですよ。それで、嫌がらせをする暇もなくなったんでしょうね。」
へえ……強盗と、不祥事かあ…それって、デパートにも?
「どうでしょう、私には……。そういう話を聞いたことはないです。」
うん?そうなんだ。デパートには来なかった……?
……そういえば、ヤオヨロズって、三十年前って、綺麗だった?
「はい。とても綺麗な方でしたよ。それが何か……」
いや、情報ありがとう。この調査については内密でお願いね。
「で、どうだったの?」
正直、怪しいような情報しか出てこなかったよ。
あのデパートができたのはヤオヨロズが来た五年後で、三十年前。白山會の発生とほぼ同時。
強盗について調べたけど、その五年間で豪商に入った強盗が七十二件。調査対象にした豪商は二十五人だったから、大体みんな、五年で三回は経験してる。
案の定、ヤオヨロズのあのデパートには一回も入ってなかった。
ヤオヨロズがなんらかの違法行為を行なっているのは状況証拠的に間違いない。だが、白山會かどうかは……
悩んでいると、カフカが話しかけてくる。
「それなら、直接調べたら?」
いや、そしたらさ。本当だったら、何するかわかんないじゃん。ただでさえ、何するかわかんないのに……
「いやいや、直接話すつもり?」
?
その日の深夜。わたしたちは、デパートの裏口に立っていた。
「じゃあ、入るでござるよ。」
彼女は、カフカと同じトリエン生のナグモという。黒装束を着用しており、役割は、【忍者】。名前の通り探索系で、
「これで開いたでござる。さ、中に。」
カチャリと音を立て、鍵が開く。【鍵開け】などの探索系スキルが充実しているのが特徴だ。
わたしの狙いは、デパート内のオーナールーム。現状どこにあるかもわからないが、デパートを運営する企業はここ以外に登記を持っていなかったから、おそらくデパートの運営はここでやっている。それなら、必ずどこかにデパートの管理を行なっている部屋があるはずだ。
デパートの裏口から入って廊下に出ると、すぐライトの光が見えた。懐中電灯を持って警備員が巡回しているらしい。
見回すと、あちらこちらに監視カメラまで配置してある。すごい警備だ。
「大丈夫でござる。【対光遮蔽】」
ナグモの手から光が発され、わたしたちを覆う。
これは……?
「光魔法の初歩だよ。わたしたちに来たり、反射する光を操作して、周囲から見えなくする。明るいところで凝視されるならともかく、こんな暗いとこでチラ見されるだけなら、全くバレないと思うよ。」
なるほど、迷彩か。
警備員のまっすぐ先にわたしたちが居て、どう考えても警備員の視界内にいる状況になっても、それでも警備員は気づかなかった。なるほど、これは便利だ。
廊下に貼ってある社員向けの説明書きを確認すると、社長室は五階にあるらしい。よし、行くか。
階段を登って、五階へ。
五階は、大きい会議室と警備室、社長室のみで構成されている。その社長室の周りには、ドアの脇で全く動かないで仁王立ちをしている警備員がいた。ここまでされては、これを潜り抜けて、入るのはちょっと……
「うーむ……では、鍵を拙者が開けてから、あの警備員を遠くに引き寄せるでござる。その間に入ってくだされ。適当なタイミングでもう一度引き寄せるので、その時帰ってくだされよ。」
そう言って、ナグモはスイっと行ってしまう。
見えないからわからないが、ナグモはわたしたちと反対の方向へ向かったらしい。しばらくして、警備員は何かに気づいたようなそぶりを見せ、そちらの方へ行ってしまった。
どういう原因だったのかわからないが、ナグモがひきつけてくれているらしい。ありがたく、社長室に侵入させてもらおう。
社長室は十畳ほどの大きさで、壁にずらりと並んだ本棚、机、ソファがあった。
そうだな。まず、机を見てみるか。
引き出しには鍵がかかっているが、非常に簡単なものだ。専門家ではないが、カフカが開けてくれた。
開けると、いくつかの書類が目に入った。
『スヴィ・アクサに対する広告・宣伝について』
アクサはわかるが、このデパートはスヴィの輸入物がメインなのに、スヴィに広告してどうするんだ。ただ、おそらく今回の事件には関係しないだろうな。
『砂糖の取り扱いについて』
砂糖……デパートは砂糖の取り扱いはしていなかったような?ケーキ屋にこぞってみんな行ってたもんな。でも、今回の件とは関係ないよね。
『カルトン工業との交渉の進行』
カルトン工業。名前だけ聞いたことがある。
たしか、巨大な製品に特化した会社。ハムエルンで需要はないと思うが、確かギルド職員が外部から引っ張ってきたという。
なぜ、デパートがこんな会社と交渉を?レポートを捲る。
『カルトン工業の当国代表、プリヤ氏との交渉は順調である。カルトン工業の本国、シンドへの数多い出張や当国での接待により、当社はいくつかの案件を任せてもらえることがあり、それも通じて、信頼関係を構築できていると思われる。』
『プリヤ氏を含んだ、カルトン工業のハムエルン社員全体とも密接な関わりを持てており、Xデーは二年後と予定することを推奨する。』
二年後……この書類は、一年半ほど前に作成されている。あと半年か。
『ヘクト祭について』
来た。ヘクト祭についてだ。
『ヘクト祭の開催時期と、Xデーが大きくずれ込むことが予想される』
『また、新規冒険者の参入から、ヘクト祭開催直後にダンジョンの攻略も行われると予想されるため、妨害工作が必須』
『巡回に見つからぬよう、指示を出す。』
ついに来た。だけど……
「ヤオヨロズは、ヘクト祭を妨害して何をしようとしてるんだろう?単純な利益誘導とかじゃない気がするんだけど……」
確かにそうだ。金なら、ヘクト祭はやった方がいい。祭なら当然財布のひもはゆるくなる。デパートがやってる屋台はお粗末なものだったしな。
Xデーというのが何かもわからないし、もうちょっと調べよう。ここの机はもう見るものはなさそうだから、本棚の方へ行くか。
本棚は、ほとんどがバインダーとなっている。一番古い『ハムエルンデパート No.1』と書かれているものには、AW.170との記載があり、30年前の草創期からずっと記録し続けていたようだ。
とりあえずそれを手にとり、適当なページを開いてみる。
『ヘクト祭代表者との会合。重要な情報を確認。対処に移る。』
ヘクト祭代表者……もしかしたら、ミコトかもしれない。だが、この書類の大部分は黒く塗りつぶされており、確認することができなかった。検閲?誰が。
『冒険者ギルドが接続に使用する工業会社がカルトン工業に決定する。使者を送ること』
ギルドとも関係があるのか。そういえば、メムとキララには、ヤオヨロズはいやに丁寧な対応だった。
この接続というのはなんだろう。カルトン工業っていうのはさっきのだよな。点と点がつながりそうで繋がらない。何か、致命的な情報が不足しているような……
「うるさいと思ったら、なんか入り込んでるね。」
夢中になってバインダーを読み込んでいたら、いつの間にか、一人の女が後ろに立っていた。暗くて顔はよく見えない。
「忠告しておくよ。私達には関わるな。君達は、ただ傍観していればいい。」
そう言って手を振りかざすと、一瞬にしてその女は消え、本棚も机も全て消え去ってしまった。




