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蓮花祝の大権現   作者: 終わり
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五十話 火道神事の例大祭 前夜祭 2




 雪山から下山し、地上に帰ってきた。今回潜っていたのはわずか数日だが、異常な空気感と雪山の閉塞感が相まって、何か疲れたな。なんというか、三階層はああいうのがあるから困る。

 

 と、今日は巡回の番があるんだった。休む暇もないよ。


 「あ、祝子さん。調査の結果がきてますよ。」


 委員会の建物に行き、名簿を受け取った。


 それで早速巡回に行こうとすると、ついでにシスタに声をかけられる。調査の結果?なんの?


 「例の、違法薬物の件ですよ。下手人からの聞き取りの結果が出たんです。昨日運営のメンバーには周知したんですが、祝子さんはいなかったので。」


 ああ、忘れてた。ただでさえ気分が沈んでるのに、正直これ以上滅入るような話は勘弁してほしい。


 調査結果、その男自体は大したことのない個人のブローカーだったようだ。ただ……


 その仕入れ先は、反社会的勢力……つまりヤクザ。白山會というらしい。


 ハムエルン外部でも有名な反社会的組織で、かなり前からその手の者が現れているという噂があったとか。


 このような組織はちょくちょくあるが、白山會は特に狡猾で、なかなか尻尾を見せないやっかいな組織だそうだ。名前だけは出るが、正体がよくわからない。意味不明な行動をすることが多く、資金が豊富であると予想されることから、なんらかのフロント企業の存在が疑われているそうだ。


 聞くと、祭中でもこういうのを見かけているのはわたし一人ではないそうだ。何回か違法な物品の仕入れがあり、しばしば取り締まってはいるものの捕まえられずに逃すことが多く、今回のように捕まえられてもトカゲの尻尾切りになる。厄介だなー。

 

 屋台で違法薬物なんて売られたら、祭りが台無しだ。早くどうにかしないと。何か、情報はないの?


 「うーん……憲兵の方でも無理なので、こちらからできることは……」

 

 えー……。どうしようもないな。


 まあ、とりあえず巡回に向かおう。わたし以外の巡回者にも、目を皿にしてそういう人を探すようにしてもらっているが、大丈夫かな。


 ええ、前回と巡回範囲は同じだから、また同じように行くか。







 


 許可証、よし。じゃあ。


 ここはいつも通り順調だな。さすがに、大通りに違法薬物をだす馬鹿はいないだろう。


 次は……ええ!?


 とんでもない行列ができていて、店が見えない。前回はこんなものなかったはずだ。名簿を見てなんの屋台だったか思い出すと、またもう一度驚く。ここは……


 グラントが出している料理屋台じゃないか!昨日帰ってきて、雪男の肉は取れなかったから何もとってないはずなのに。


 客が殺到していて、グラントの姿すら見えない。屋台の厨房の方に入らせてもらって、取り合えず許可証だけ見してもらおう。


 「あ、祝子!おはよー。ごめんね、今ちょっと手が離せなくて……巡回だよね?」


 昨日は結構妙なことになったけど、元気そうでよかった。許可証だけ見せてもらっていい?


 「うん。そこの書類の束のそこの方にあるから、勝手に見て。」


 はーい。確認しました。こんなに人気になるなら、巡回じゃなくてこっちの手伝いしてたんだけどねえ。


 「わたしも、こんなにウケるとは思ってなかったよ。炊き出しの時の簡単な肉まんだから。」


 あれか。確かに、あれ、結構うまそうだったよな。結局、ああいうのでよかったってことか。雪山行かなくてよかったな。


 「ま、そうなの。じゃああとでね!」


 あいよー。さー、次のエリアは……





 


 そう思って歩いて移動すると、後ろから、爆音がなり響く。


 ば、爆音!?一体何が起きたんだ。


 振り返ると、そこらへん一帯が全て煙に撒かれる。爆発で土ぼこりが舞いすぎて何も見えない。


 「何も見えない!誰か助けて!」

 「きゃあああ!わたしの子はどこ!?」

 「一体、何が起こったんだ!」


 それに、グラントの屋台のせいで行列ができており、人混みでパニックが起きている。鎮める……いや、早く元凶を叩いたほうがいいな。大声でグラントにパニックを抑えてくれと言ってから、犯人を追う。

 

 たまたま持ってきていてよかった。「魔力感知機」。


 これで、大小さまざまな魔力反応を見てとれる。地図上で、妙な動きをしている反応はないか?


 ……あった!この反応は、現場から一目散に逃げている。パニックを起こしている風とも違うし、ひとまずこの男を犯人候補としよう。


 ここは人混みで動けないので、横の家に登ってそっちから進む。


 周囲は全て土埃でいっぱいだが、それがようやく途切れたようなところに、全速力で走る男を見かけた。あれが下手人か?


 屋根の上をつたって追いかけると、その男はつけられていることに気づいたようだ。こちらをちらりと見て、わたしのいる道とは逆側の家の屋根に登る。


 わたしがすでにいるというのに、わざわざ屋根に登るとは。何を考えているんだ?


 なるほど、その男は高低差のある場所の移動に慣れているようで、地上を走っているのと大した速度の差もなく登る。確かに、これだから登ったのか。だが、わたしの筋力なら、隣の家にも飛び移れる。これで、もう逃げ場はなくなる。


 足に力をこめ飛び移ろうとした瞬間、足元に穴が空いて、ずるっと足ごと引き込まれた。わたしの踏み込みに屋根が耐えられず、足元が崩壊してしまったんだ。


 足を抜いて、もう一度追いかけようとするが、またしても足がはまってしまう。その間に、もう屋上まで登り、軽い足取りでぴょんぴょんと逃げていく。


 屋根の硬さも考えのうちか。

 

 誰か、その男を止めてくれ……!


 「いーよ。死んでも文句言うなよ。」

 

 男の目の前に唐突に人が現れ、屋根に頭からめり込んだ。




 

 「祝子ー、久しぶり。なんか、困ってんじゃん?」


 








 

 「この人が、ですか……」


 目の前には、フードを深く被った男が倒れている。これが拘束したテロ犯だ。


 カフカが祭の屋台を巡っていて、偶然手助けしてくれたらしい。ここにも暇だからついてきたらしい。いいけど。


 フードをかぶっている以外には黒いダウンにGパン。なんというか、あっち風の服装だな。


 「スヴィ出身かな。ここらへんの人っぽい服装じゃない。」

 

 スヴィ……そういえば、あのデパートにある現代風のものは大体スヴィ出身だとか言ってたな。じゃあ、こういうのはスヴィ風っていうのか。


 さて、このテロリスト。一体どうしようか。


 個人的には、数日前に大麻のディーラーが出て、今日これ。一連の出来事の首魁はなんとしても特定したいところだ。


 というわけだけどあなた、誰が主犯なのか教えてくれる?

 

 「……」


 その男は黙って何も言おうとしない。困ったな。


 ……殴っていい?


 「ちょ……ちょっと。暴力は……」


 だめかあ。


 「いや、いいんじゃない?」


 カフカ。そのまま話し続ける。


 「この祭り、国家と関係があるみたいじゃん。これを妨害するためにテロをしたって言ったら、国家反逆罪に問われてもおかしくないよ。どうせ死ぬなら、腹とかにいくら傷ができてもバレないでしょ。爪とかも見ないだろうから……」


 カフカの話を聞いて、男の顔から血色が引く。今なら話してくれそうだ。


「……白山會だ。それ以外は……」


 白山會!これもか。

 

 因みにカフカ、これって国家反逆罪になるの?


「知らなーい。適当言っただけ。」


 小声で言う。悪いやっちゃなあ。


 






 白山會……やはりそこか。ただ、そこの実態は掴めないんだよな。それで?


 「それ以上は何も知らねえ。ボスから指令が来て、それに従ってるだけだから……」


 そのボスって誰なのさ。それに、拠点はないの?


 「拠点はねえ。指令は、次回の指令の受けとり場所がその回に指示されるだけで、ボスも誰一人顔も知らねえよ。」


 ……一発いっとくか。


「ほ、本当だ!だれもボスを知らねえ。皆が皆、指示に従ってるだけなんだ。お願いだ。信じてくれ。」


 ふーん。結局、わからずじまいかあ。じゃあ、白山會全体について教えてよ。内部からわかることに限らず、全部。


「多分、他の人間と大差はないが。白山會は、三十年前にここに来たらしい。噂されている通り、指令人を介して指示出しをして、ボスは決して姿を現さねえ。これは予想だが、指令人の構造も相当入り組んでいると思うぜ。俺も指示を出す側と出される側、どっちもやったことがあるからな。」


 じゃあ、一部の幹部が指示を出してるとかじゃなくて、適当なそこらのチンピラが指示を出すこともあるのか。それで組織として成り立つのか?

 

 「そういえば、あんたはここ出身なの?スヴィじゃなくて。」


 「ああ。ハムエルン市内出身だ。」


 そーなんだ。服装はスヴィ風だけど……まあ、デパートとかあるし、そこで買ったんじゃないの。


 「いや、ちょっと手がかりになるかもよ。あのデパート激高で、こんなのが買えるわけないもん。なんでか知らないけど、ハムエルン、あのデパート以外ほとんど大規模な輸入業やれてないみたいだし……」


 どうなの?

 

 「……前集団テロの計画の際に、味方と敵の区別をつけるためか知らないが、ボスが服を用意してきた。それを捨てずに普段着として使ってるだけだ。」


 ふうん。組織が服を用意するなら、スヴィの服なのか。そしたら、ボスがスヴィの人間?確実じゃないけど、ちょっとしたパーソナリティ特定には……


 うん?ちょっとなんか、今、違和感が……


 白山會は、巨大なフロント企業があると推測されている…… 


 この服を自然に用意できる……


 ここはデパート以外では輸入品はあまりない……


 あのデパートの主人が、白山會の首魁なんじゃないか?




 


 


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