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蓮花祝の大権現   作者: 終わり
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四十八話 海亀のスープ 5




 今夜は、被害者のでないように寝方に工夫をしていた。


 昨日の、ソフィアたちがやっていたような見張りはなく。メンバー内に犯人がいるということを前提に、部屋の中で泊まっているメンバーをお互い見張ることにした。

 

 そうする都合上、なるべく多くのメンバーを同じ部屋で寝かせたいので、荷物は全てほかの部屋に移して二つの部屋に全員を収めることにした。


 そして、五人の中から二人、三時間交代で見張り番を立てる。万が一誰かが部屋の外に行きたくなったら、五人の中から新しく見張りを立てるという決まりとなっていた。


 だのに……

 

 「アルベルト。貴様、見張りはどうした。」


 「ち……ちょっと。落ち着いてよ。わたしもずっと見てたけど、いつの間にかいなくなってたんだよ。」


 「貴様……!」


 落ち着いて、落ち着いて。


 やばい。いよいよ収拾がつかなくなる。昨日で落ち着いたと思ったのに、殺人は起こせないと思ったのに……


 まず、整理しよう。事件がどう起こったのか、誰が可能で誰が不可能なのか、把握しないと。ここでアルベルトを問い詰めても何にも……

 

 ……だめだ。わたしの言葉はユリアンには届かない。ちょっと、冷静にさせよう。えーと、ノア。ユリアンを鎮静させるのを手伝って。わたし一人だと、怪我させちゃうかもしれない。


「あ、ああ。」


 数分ほど宥めた結果、なんとか静かになった。


 だが、静かになったというだけで、呆然としてしまっている。さっきのあの空間でも、みんなかなり参っているようだった。昨日比較的平静だった、アルベルトでさえ相当動揺していた。


 雪の中強行軍することにはなってしまうが、すぐにでも帰還しよう。ね、ノア。


 そう言って、元の部屋に戻ると……


 

 

 ……


 ……?ここにいた、エリザはどこに…?それに、グラントも。アルベルトも。全員……どこに行った!?


 「……」


 ノア?なんで、こんなところで立ち止まっているの?早くみんなを……


 ………!



 


 

 


 まずい。四人目……全員すぐに呼んで、帰らないと。最悪の結果に……


 「……この状況は、だれの責だろうか?」


 ノア!そんなことを言っている場合では無い。早く、全員集めて……


 ……ノア?

 

 振り返ると、ユリアンが血を流して倒れていた。


 そのそばにノアが立っている。両目の瞳が協調して動いておらず、彼女の精神が正常に機能が働いていないことがわかる。



 その瞬間、わたしの目には唐突に眩く煌めくものが映り、質量に流されて屋外へと飛んでいった。

 







 

 ゲホッ、ゲホッ………。油断して、モロに受けてしまった。ノアの、何かの技だろうか。犯人は、ノア?まさか……


 どちらへの対処も急務だろう。ひとまず、どこにいるのかがわかっているノアを鎮圧するのが一番だろう。

 

 「ねえ。なんで!?なんで!!私じゃ……」







 そう考えている時、近くで金切り声がする。そこには残りのメンバーが揃っている。


 アルベルト、グラント、カヤ。もみじとアレキサンドルはいないようだ。


 この金切り声を挙げているのはアルベルト。紡がれる言葉を聞いても、意図はよく掴めない。しきりに頭を掻きむしっており、こちらも錯乱しているようだ。

 

 グラントはカヤを後ろに隠すかたちで立っている。まさか、アルベルトがカヤを襲ったのだろうか?あんなに仲が良かったのに、なぜ……







 ノアは、破壊した山小屋のかべからでてきて、こちらまで向かってくる。






 

 ノア……!


 前と後、どちらも難敵に囲まれていて、困った。


 瞬時にあたりをつけ、ノアの対処をすることに決めた。あっちにはグラントがいるし、ノアに不意を突かれたらたまらない。


 まずはノア。そう思っていると、ノアの動きが妙な変化を見せた。


 ノアが振り返る刹那、彼女の体に隠れて、アレクサンドルの顔が見えた。


 ノアが振り返る直前に、アレクサンドルは飛び退いた。ノアの背中にはポツンと赤いしみができている。

 

 どうやら、短刀か何かで不意打ちして、ノアに傷をつけたらしい。ちょうどいいから、共闘しよう。


 アレクサンドルと協調すべく、わたしは、間を空けずにきりかかる。が……


 わたしの刀は空を切った。




 わたしの視線の先には、すでに事切れているアレクサンドルがいた。彼女と共闘する、というのは、ノアにとって彼女が意識を向けるまでもない実力であったという点で、理論的に破綻していたのだ。






 ……もう、ノアは全く正気ではない。もう討伐するしかない。


 ノアは、剣を構えなおす。その剣は眩く輝いている。おそらく、さっきの技だろう。技の正体については、当たりがついている。

 

 「祝子!下がっていろ!」


 声が聞こえると同時に、ノアは横方向にすっ飛ぶ。



 

 「祝子!大丈夫か!?」


 もみじは、わたしに襲いかかるノアをみて、咄嗟に飛び蹴りをかけたらしい。ノアは結構な勢いで飛んでいき、十数メートルはいっただろう。

 

 行き先を見ると……


 ……あっ!まずい。


 ノアの肉体はグラントと接触して、それを弾き飛ばした。


 それすなわち、アルベルトにとって、カヤを殺す障害は何一つなくなるということだ。


 ゆっくりと手を伸ばし、カヤの頭部を掴んで粉砕した。



 


 ノアは、衝突後、雪煙が上がる中起きて、アルベルトの方へと向かう。アルベルトの方も、ノアに気づいたようだ。


 お互い、構えたままゆっくりと歩みを進める。

 

 二人がお互いの射程距離に入った次の瞬間、目の前には、胸部を激しく破壊されたノアと、レイピアで胸を貫かれたアルベルトが居た。






 


 その後、現場を検証した結果、グラントはノアが衝突した結果意識を失っていただけで、すぐに回復することができた。ユリアンは出血多量によりすでに息を引き取っており、そのほかも同様であった。


 生き残ったのは、わたし、グラント、もみじだけか。


 「一体、なんでこんなことに……そんな、昨日はこんなこと、なかったのに……」


 ……


 「アルベルト君と、ノア君……唐突に気が違ったように見えた。雪山は低酸素、かつ、低気温。さらには閉鎖環境……ストレスは計りしれない。犯人は、この雪山なのかもしれない。」





 いい感じにして、逃げようとするなよ。殺人犯は逃さない。そうだよな。葛城。


 「え?でも、アルベルトとノアが……」

 

 「……そうだ。全員で見ただろう、あのおかしくなった彼女らを。」


 でも、おかしくなる前からずっと殺人は起こっていただろう?


 一つ目から、振り返ってみよう。


 最初の事件。死亡者はソフィア。


 四人で一緒にいたのが、アルベルト、わたし、グラント、アレクサンドル。


 二人で一緒にいたのが、ノア、ユリアン。


 アリバイがないのが、ミカ、カヤ、エリザベート。

 

 両者共に、強いアリバイがある。特にアルベルトは、わたしたちも見てるしな。


 「わたしも、ノア君たちに見られているよ。」


 それは、間接的な目撃だろう。例えば、窓の外に出て移動し、ソフィアの死亡場所の付近で窓から出て、バルコニーに帰れば見られずに済む。


 「まあ、不可能ではない、か。だが、証拠もないが?」


 確かに。じゃあ二人目。


 あの時の見張りは、あっちがアルベルトとお前、こっちがエリザベートとアレクサンドルだったな。


 「うーん。あの時は、気づかなかったが……」

 

 じゃあ、最後ね。

 

 さっき、ここで外に出ると、アルベルト、グラント、カヤが外にいた。そこから、アレクサンドルともみじが後で出てきたわけだが……


 グラント、ここで何が起こった?


 こうなった時、当時者はアルベルト、グラント、カヤ……


 残ったアレクサンドルか、もみじしかエリザは殺せないだろう。なぜ山小屋に残ったの?


 「なぜって、アレクサンドルと一緒だろう。ノアの後ろから、不意打ちを……」


 もみじにその必要性はないだろう。アレクサンドルとは違い、お前は正面切ってノアと戦える。その証拠に、さっき一撃でノアに大きいダメージを与えていたしな。


 「いや、やっぱり不意打ちした方が確実だから……それに、祝子がいなくなってからすぐアルベルトが暴れ出したから、一回避難してから、戻ってきて祝子と同じ状況だったんだよ。」


 状況に矛盾はないが……

  

 「すぐ?」

 

 グラントが聞く。


 「え?ああ、すぐだろ。あれは驚いた。」





 「アルベルトは、しばらくカヤと話しあってたよ。会話の途中で、急に怒り出したんだ。」

 



 「……あーあ。面倒そうだから、帰そうと思っていたのに。」

 

 もみじは着ていた赤いポンチョを脱ぎ、態度を変貌させた。


 手を胸の前で交差させると、背中を上にして、急激に身長が伸び始める。


 身長は三メートル近くなり、赤いポンチョの下の白いシャツが顕になった。

 

 “雪男”。


 いや――――雪女だったか。

 


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