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蓮花祝の大権現   作者: 終わり
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四十五話 海亀のスープ 2


 いやー、助かった。まさか、こんなところに家があるとは。


 「いらっしゃい。二人で来たの?」


 あ、はい。よければ、泊めてもらえませんか?


 そう言ったわたしの肩を、グラントは後ろから掴んで、耳の近くで、小さい声で話し始める。


 「祝子、つい入っちゃったけど、あんまり信用しすぎると危ないよ。さっき、わたしに教えてくれたじゃない。旅館の……」


 あっ、そっか。確かに。この人も、もしかしたら魔物かもしんないのか。


 ちょっと、慎重に話そう。こ、こんにちは。

 

 「こんにちは。こんな所まで来る人は久しぶりだ。お茶でも飲むかい?」


 お茶……


 わたしらは自前のがあるから大丈夫。わたしたちは、祝子と、グラント。あなたは?

 

 「わたしは葛城もみじ。ここで生活してる冒険者。君たちもかな。」





 

 冒険者。


 冒険者か。三階層で生活している、という時点でザクロは怪しかったが、冒険者というならここにいても不自然ではないな。信用していいのか?でも、わたしこいつに会ったことないしな。


 あなた、なかなか見かけないよね。普段、何やってるの?


 「普段。普段、というのがどういうのか知らないけど、わたしは主にここら辺を探索してるよ。そこで――――」


 普段、ていうのは、地上とか。地上であんまりみないから、どうかなーって。


 「私、ここ数年は帰ってないよ。前に帰ったのはいつかなぁ……」


 い、一年!?そ、そんなにここで何を……

 


 「お、気になるかい?ここら辺に、雪男、っていうのがいるっていう話があるんだ。雪男っていうのは、平たく言うと、めっちゃでかい類人猿のことで。わたしは、これを探してるんだ。」


 へえ。実は、わたしたちも――――


 「雪男の特質たる所以は、まず大きさだよね。人間、というか生物、動物だけど。大きくなると、重さはその三乗で増えてくんだ。それなのに、面積、つまり、骨の断面積は二乗で増えるわけだから、大きさっていうのは限界があるんだ。それなのに、三メートルだよ。これは――――」


 えっ!?ちょ、ちょっ……


 「それに、この環境。森林限界もとうに超えた標高でしょ?魔物を討伐して生活できるならともかく、あれは魔力がないから、できようがないんだよ。降りてくれば、なんかの実がない訳ではないけど、それが……」


 やばい、止まらない。あ、ああ……






 落ち着いた?


 「はあ、はあ……すまないね。雪男の話を聞くと、どうにも抑えがきかなくなってしまうんだ。」

 

 そんなに雪男が好きなんだね。


 「祝子、この人は大丈夫そうじゃない?」


 確かに、すごい人間味だ。この山小屋に、ありがたくご一緒させてもらうことにしようか。


「ああ、そう言えばここの説明をしてなかったね。ここは、小さめなロッジみたいなところで、広めな個室が五つある。別に私が占有する権利を持ってる訳じゃないから、自由に使ってくれ。一応、私は一部屋もらってる。」

 

 個室はなかなか広めで、わたしたちの荷物を全て置いてから、布団を敷いてもスペースはまだ余る。もみじは、ここで行動するため道具をたっぷり持ち込んで一部屋占有しているが、わたしたちは一部屋を二人で使ってもまだたっぷり余っている。


「へえ、君たちも、雪男を探してるんだ。今日は雪がすごいけど、明日は多分止むから、一緒に探索しない?」


 いいね。雪男捜索のプロに助けてもらおう。






 

 そこで呼び鈴が鳴る。玄関の方を見ると、三人組が立っていた。


「あっ、お邪魔します〜?」



 


 彼女らは、地上から、冒険に来たと言っている。ここに来る人はほとんどおらず、わたしたちで久しぶりだったそうなので、珍しい。


 だが……


 「ここのダンジョンに、雪山が出てるって聞いてね。遊びに来ちゃったんだ。」


 「やっぱりあの計画は無理があったのよ。ここに、ちょうどよくこんな山小屋があってよかったわ。すいません、ここに一晩泊めていただけませんか?」


 ちょっとふざけたような感じだ。こんな軽い感じで、ダンジョンに立ち入れるものなのかなあ。


 葛城がこの山小屋の構造と由来を説明すると、三人は安心して、自分の部屋と決めたものに荷物を置いてから広場に帰ってきた。


 「よろしく!アルベルトです!」


 一際身長が高く、整った顔立ちをしている赤髪の少女が、いの一番に挨拶をした。


 「どどうも。カヤです。よ、よろしく。」


 この、癖っ毛で毛量の多いのがカヤ。

 

 「ちょっと。もっとはっきりしゃべりなさいよ。……どうも。ミカと申します。短い付き合いかも知れませんが、どうぞよろしくお願いいたします。」


 この、ちょっとしっかりした、青髪でストレートの子がミカ。


 三人とも、よろしくね。






 

 へー、あなたたち全員、カインゼルの出身じゃないんだ。


 「そう。今スヴィに住んでて。スヴィ国立の学生やってるんだけど、今冬、いよいよ卒業だから。最後に、思い出作りにね。」


 スヴィ。カインゼルと隣接している国、らしい。


 カインゼルでの一般的な生活スタイルは、木造で電気も無いというかなり前時代的なスタイルだが、スヴィでは大違いで、国内だけだが、ネットに近いものすらもあるという。こっちにもデパートに結構電化製品だのなんだのがあるが、そういうのは大半スヴィ由来らしい。


 「何せ、うちにはダンジョンなんて無いし、気候的にも雪は結構遠くまで行かなきゃないから。こんな近くにあるなんて最高だよ!なんで知らなかったんだろう?ニコ達にも教えてあげなきゃ。」


 アルベルトは、両手でバタバタとジェスチャーをしつつ語る。この調子がちょっと違和感あるんだよな。ここ、ダンジョンの三階層だよな。こんな簡単にこれるとこだったか。

 

 「そそれに、ハムエルンは聖地ですから、一回は行っておいた方がいいかなって……」


 聖地?

 

 「あんまり、普通のひとに通じない話し方をしないの。……聖地っていうのは、お話とかの舞台になった場所のへんな言い方で、最近ここを舞台とする映画がヒットしたからです。なんか、古くから伝わる祭りとかで……」


 ああ、ヘクト祭か。この後ちょっとしたらやると思うけど。どうなの?


 「え!?ずっとやって無いって……」


 うん。だから、今年再開するの。今、前夜祭の真っ最中で、屋台ももう結構出てる。後二十日くらいで本番やると思うし、見に行ったら?


 「二十……う。出席が……」


 「ははは。行ける、行ける!休もうぜ。」


 「ちょっと、やめて!カヤ、ちょっと単位が危ないんだから。」


 



 


 と、もう一度、呼び鈴が鳴る。来客が多いな。もみじの話だと、ほぼここには人が来ないということだったが。


 ドアが開くと、外にスレンダーで黒い服装を着た、金髪の鎧を着込んだ人が立っていた。


「ユリアン・ルーカス・ゲオルク・フォン・オルデンブルクというものだが、ここは宿泊が可能だろうか?五人いる。」


 葛城は同様の説明をすると、ユリアンは礼を言って、後ろの人間を通す。


「ノアだ。よろしく頼む。」


 それに引きつづくようにして、残り三人が入ってきた。

 

「アレクサンドラでーす。よろしくね。」


「エリザベートです!よろしくお願いします!」


「ソフィア、と申します。一晩、この家を間借りさせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。」


 さすがにこの人数を入れるということになると、荷物が多そうな人もいることだし、しっかり部屋割りをすることにした。人数的に、五部屋あるうちの二部屋を軍人らに、そのほかは一集団に一部屋という割りになった。


 軍人らは一度部屋に入った後しばらくして、二人だけ広場に戻ってきて、わたしたちに話しかけてきた。

 

「どうも!改めまして、アクサ軍属、士官候補生のエリザベートです!どうぞエリザと呼んでください!」


 初めまして。士官候補生。軍学校というのがあって、それの所属らしい。それで、そちらの子は……


「アクサ軍属士官候補生、ソフィアです。」


 よろしく。


 彼女らは、スヴィのさらに隣の、アクサという国からやってきたらしい。アクサ国軍に従軍していて、今回は雪中訓練としてこのダンジョンの攻略を行なっているらしい。


 先ほどの説明では、ノア、ユリアン、アレクサンドラ、エリザベート、ソフィアの五人で行動しているようだが。早速話そうとすると、わたしの肩越しに、アルベルトが首を伸ばす。


「初めまして!アルベルトだよ!もしかして、アルコン家のお嬢様じゃない!?」


 おお。アルコン家、とは?


  「はい。ご存知の通り、アルコン家の第十三子の、ソフィアと申します。」


 アルコン家。アクサは王政をしばらく前に辞めたが、その前に、アクサおよびその周辺諸国の王として君臨した家だそうだ。今でも権力は絶大で、親族に何人も国会議員がいるとか、国内の要職には全てアルコン家が絡んでいると囁かれている。スヴィ国内でもアルコン家は有名で、外交に関係する学科を学んでいるなら、アルコン家の本家の人間は暗記させられるらしい。


「アルコン家、と言っても、わたしはまだ軍学校の生徒で、若輩ではありますが。同様の学生と同じようなものと考えて下されば。」

 

 名家。すごいなあ。リムジンとかで迎えにきたりするのかな。


 


 エリザは結構ゴシップが好きらしく、メンバーの噂をいろんなと教えてくれた。

 

「こんなかで一番偉いのが、ノアさんだね。めっちゃ若いのに、めっちゃ偉いんだよ。確かまだ三十いってなかったと思うけど、それで少将なんだよ。めちゃくちゃ優秀で、実力もピカイチ。軍であの人のことを知らない人なんていない、超有名人だよ。」


「で、次に偉いのが、ユリアンさん。ユリアンさんは中佐で。あの人もめっちゃ偉いし、確か今年で三十だからめっちゃ若いんだけど、まあ、ノアさんがいるから、ちょっと影が薄くなってるかも」

 

 「アレクサンドラさんは……」


 少し歯切れが悪い。明るくて気安そうな人だったが、何かあるのか?

 

 「いや、優しくて強くて頭も切れる、いい人なんですけど……。年齢の割に立場が低いので、さっきまでの流れで言うと、いいにくくて。実際、あんまり昇進しようっていう気概が感じられないので、どうなんですかね。」


 「確か、ユリアン様と同期でいらっしゃったと思いますけど……」


 「そうなんだよね。ユリアンさんと比べても、負けないくらい優秀な人なんだけど……」


 あんまりそんなようには見えなかった。昇進しようという気が感じられないというのは、見た目をみると、確かにという感じはある。

 

 全部聞いて、言っちゃ悪いけど、へんな人ばっかだね。


 「まあ多分、ソフィアちゃんがいるから、強い人を集めたんだろうね。」


 ソフィアちゃんが?


 「実は、わたしが軍学校に入るということになった際、少し家の人間の方で騒ぎがおきまして。それで、過保護に軍の優秀な人間を集めて訓練することにしたんだと聞いております。」


 へえー。やっぱり、お金持ちなんだ。


「……あっ、今話したこと、全部秘密ね。秘密……特に……」




 



 「エリザベート、あまりはしゃぐなよ。体調を崩すとよくない。」


 いつの間にか、音もなくノアが後に立っていた。一言だけ言い放ち、窓際に座る。


 ノア。一番偉い人か……。


 エリザは、あまりの恐怖にもうノアはいないというのに、まだ固まってしまっている。落ち着きなよ。面白い話ししてあげるから。アルベルトが。


 「え⁉︎」





 


 こうして、歓談しつつ夜が更けていった……

 

 これが、この奇妙な十人での、最初で最後の穏やかな夜だった。





 山荘一階の、廊下で悲鳴が上がる。ほどなくして集まった山荘の十人は、この暮らしを終わらせるものを見た。


 そこには、首の無い死体があった。


 

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