四十二話 未踏峰への挑戦
ぽぷりは、後ほどヒトカが回収しました
うーん、あともうちょっと、もうちょっとで……
「ちょっと、祝子何してんの?」
グラント。この、ジェルの中で輪投げをするゲームにご興味が?
「あるわけない。お祭りがあるのにそんなんでいいの?朝からずっとソファでそのゲームをやってるだけって……」
いいわけないでしょ。暇なの!
本番まで後一ヶ月もあるから、まだ屋台とかも準備中のとこが多いし、あんまり何回も見に行っても煙たがられるし……
グラントと仲直りしたのはいいけど、家でずっと、なんか料理してるし……
もう攻略にむけてすることもないから、ここでずっと寝てるってわけ。
あーあ。せっかく祭りだっていうのに、また暇だよ。
「そしたらさあ。わたしの料理の食材、取ってきてよ。」
料理の、食材?なぜそんなことを?
「わたしも、ヘクト祭に屋台だそうと思ってるんだ。それで、料理の材料が欲しくて。」
グラントが、ヘクト祭に屋台を……?
面白そう。ちょっとばかし、手伝ってやるか。
ギルドの地下に向かう階段を降りていくと、向こうから声が聞こえてくる。降りていくにつれその音は大きくなるが、これはどうやら運動場の中から鳴っているようだ。前は、ここで素振りをしている冒険者衆が似たようなことをしていたが、今回は違う。
ドアを開けて運動場内部を覗くと、大きい石に丸太をつなぎ、持ち手にしているものを数人で担いでいる様子がみられる。掛け声としてビデオテープを出し、そこからの音声に合わせて動いているようだ。
この担いでいるそれは、端材で作って形状と質量を合わせた、レプリカというやつだな。そう。
ヘクト祭の神輿運びの練習を、ここでしてもらっているのだ。
ギルド地下の運動場。ここなら冒険者なら皆立ち寄るし、あのスラムはここから近い。そのため、ギルドの許可を取ってここで練習させている。もしかしたら許可取りとか大変かもなと思っていたのだが、いざ言ってみたら、誰も使っていないからいつ使っても全然OKとのこと。まーた上海が泣くぞ。
ドアから顔だけ出して、中に声を掛ける。
ごめんくださーい。ポルタ、いる?
「あ、はーい。」
ポルタは運動場の端で休憩していた。わたしの反応を見てドアの方に近寄ってくる。
そして、運動場の先頭にいる男もわたしのことを見つけたらしく、一旦全体を休みにして、こっちに来た。
「や、祝子さん。お久しぶりです。今回は、ヘクト祭の復興に尽力していただき、大変ありがとうございます。練習は順調ですよ。一ヶ月後には十分間に合います。」
ミコトさん。タメでいいんだよ。さっきみたいに……
ミコト。以前ヘクト祭再興のためのイベントで鍵を渡してくれた老人だが、三十年前は何度か神輿衆を取りまとめるリーダーを務めていたらしく、今回も彼らの統制をとってくれるらしい。
前会った時はヨボヨボで帰るのにも家族の助けを借りていたくらいだったのだが、ヘクト祭開催決定の知らせを受けて一気に若返って、現場で神輿運びもできるほどになったという。さすがにこの彼に任せるのは危険だからやめておくけどね。
ミコトさんは、指導者をしているときは声を大きく張り上げて多少荒い口調になる。初めて会った時からミコトさんは丁寧な口調でとても優しく接してくれているのだが、やはりこういう時は昔の癖が出るのだろうか。
「ははは、お恥ずかしい。実は、乱暴な口調が原因となって、大切な娘に出ていかれてしまったことがありまして。以後どんなことがあっても穏やかな対応を心がけているのですよ。ただ、神輿を目にするとヒートアップしてしまって……以後気をつけます。」
へー、そんなことがあったのか。それはお気の毒に。
「ちょうどヘクト祭が中止になったころですから、三十年前ですか。申し訳ないことをしてしまいました。……で、御用は……」
ああ、そうそう。このポルタを、ダンジョンの攻略に少し借りたいんだけど。いい?
「大丈夫ですよ!ポルタ君はとても覚えがいいので。今すぐヘクト祭に出してもいいくらいです。」
よかったー。あとでお土産あげるから、楽しみにしててね。
運動場からポルタを連れ出す。道中で、ポルタが不思議に思ったことを聞いてくる。
「祝子さん。ダンジョンの攻略、って、なんですか。祝子さんは、一人で三階層までの攻略に成功しているじゃ無いですか。わたしがお手伝いできるようなものなんて、あるんですか?」
まあ、ちょっとね。
「鞄、持ってきました。」
ああ、ありがとう。今からめちゃくちゃでかいものを狩るから、わたし一人じゃあとてもじゃないけど持ち運べないんだ。それに、特別な事情もあるしね。
「そういうことだったんですね。納得です。」
「しかし、でかい魔物ですか。ここでだと、ミノタウロスですか?それとも、二階層に……?」
ポルタはまだあまり二階層の攻略を進められていないので、少しの期待を持ってこちらを見る。残念だけど、今日は一階層の魔物だよ。でも、二階層の魔物を見るのと同じくらいすごいものを見せてあげる。期待して損は無いと思うよ?
彼女はあまりピンときていないようで首をかしげる。当然だ。一階層にあんなものがいるなんて一般には知られていないしな。ここは、いきなり実物を見せてびっくりさせてあげよう。
と、いうことで、一階層の川に再び来た。ここにくるのはだいぶ久しぶりだ。
よしよし。普段と変わらぬ清流が流れている。
ポルタは、ここも多分知らないだろう。ほら、綺麗でしょう?ダンジョン内とは思えないような絶景!上手くすれば、観光地にできるね。
……と、その川から、唐突に例の足のついたサメが飛び出してくる。まあ、こいつが出てくるからな。やっぱり、観光地にはできないです。
「足が生えてる魚……一階層にもこんな魔物がいるんですね。知りませんでした……確かに大きいです。収納は任せてください!」
両断されたサメを見つつ、ポルタが話す。ああ、ちがうちがう。運搬をお願いしたい魔物は別にいるから。
ここから行けるんだ。
川のある場所から登っていって、ミノタウロスの広場の近くの壁にある小さな穴を指差す。この穴を這っていって、進むの。
「へぇー、こんなところに穴があったんですね。気がつきませんでした。」
わたしも、地図を作るという目標がありながら気がつかなかった。普段目にしている視線の下だからね。なかなか……
ということで、二人で這いつくばり穴を進んでいく。
しばらく進むと、穴の向こうの景色が見えてきた。
向こうの景色については、わたしはもう知っているが、念の為もう一度言っておこう。
穴を出たあと、わたしたちは小山ほどもある地面の隆起を目にした。珊瑚のようなものが段々になっていて、上から絶え間なく水が湧いている。先ほど確認したのは、あそこに水があれば亀がいることが間接的に証明できるからだ。
わたしたちが来たのを確認してか、その湧水の中から全長1.6メートルほどのトカゲが何匹もわらわらと出てくる。
ということで、例の魔物とのご対面となった。一応下流で川が流れているのを確かめてから来たから、いるとは思っていたけど……いなかったらどうしようかと思ったわ。
そういえば、ここはそれとは別に用途があったのだった。この、トカゲみたいな魔物。魚人と大して強さも経験値も違わないのに、大量に現れるから経験値効率がいいのだ。前のわたしでも狩れたから、ポルタにも行けるだろう。
ポルタに指示して、トカゲを倒して見てもらう。……うん。軽い動きで、トカゲを次々と倒していっている。楽勝だな。問題なさそうだ。
「ここ、いいですねー。魔物が次々出てきて。一人とか二人だったら厳しそうですけど、パーティ組んだら効率めっちゃ良さそうです。」
うん。これだけだったら、初心者にとってはめっちゃ効率いいんだけどね。でも、ここはどうせ使えないんだ。
しばらく待っても出てこないので、痺れを切らして濡れている地面に【雷魔法】を放つ。とめどなく流れてくる湧水を辿って本体に電撃が届き、それは、無事目を覚ましたようだ。
巨大な山がゆっくりと動き出す。殻の下から、ゆっくりと五つの塊が這い出てきた。
わたしたちの方向へ、一つ。それ以外の四つは、その山を支えるために超巨大な柱が生えてきているがごとく下から出てくる。
全てが出終わった後しばらくすると、そのうちわたしたちの方へ伸びているそれに、二つの黒点が現れる。
そう、これは山ではなく、山のような大きさを持つ、亀。リベンジだ。
動き出した亀を見て、ポルタが目を丸くしている。ここまでのサイズの魔物はなかなかお目にかかれないだろう。大きさだけなら、どの階層のものよりもこれが一番だよ。
亀は、顔を持ち上げ、早速水球を放ってくる。
以前食らった時は、岩でできた地面を砕くすさまじい威力で手をつけられなかった。だが、今はこの水球にも魔法回路が見える。見えてさえしまえば、この速度。余裕で切断できる。
回路を切って、そっくりそのまま跳ね返す。
亀の顔面に直撃して、少し困惑している様子だが、あまり効いている様子はない。まあ、水だからね。
やはり、リベンジの相手でもあるし……これほどの魔物には、わたしの最大の秘技を持って相手をするのが一番だろう。
刀を握り、【闘気】を出す。そして、さらに力を入れて、その【闘気】をもっと巨大にする。
三階で詰まっている間に【闘気】スキルのレベルが上がり、チャージというのができるようになった。普段から、出す時によって多少出力のばらつきがあったが、それを人為的にコントロールできるようになったのだ。
気を落ち着かせて、より大きい闘気を出すための準備をすることで、通常よりも増した量の闘気を発せられる。別の言い換えをするなら、『気を練る』というやつかな。
わたしの刀を軸として、手に眩い光の塊が形成された。
これを斜め下に構え、思い切り振る。
十数メートルに及ぶ光の斬撃は、わたしが刀を振る時とそっくりそのまま、同じだけのスピードで、まっすぐ亀の頭部へと向かった。
その速さに、亀は全く反応できず。その頭部が七割以上を切断され絶命した。
切れた、切れた。やっぱり、あの亀も今のわたしの敵じゃないね。
結構わたしもあれから強くなったと思うが、甲殻は数メートル程度しか切れていない。頭は切れているから絶命させられたものの、甲殻を破壊しろと言われたら厳しいぞ。前のあの甲殻を抉ったのは、なんだったんだろう。すごい威力だよな。
それは置いておいて、ここからが本番!
グラントから頼まれたのは、亀のうち、後ろ足らへんにある希少部位。そこのほんの一部分だけ、全身の組織がうまく混ざりあって絶品らしい。
グラントからその食材の概要を聞いているので、その通りに探せば見つかるはずなのだが、何せこの亀は山クラスのサイズだ。見つけるだけでも困難と言わざるを得ない。
亀の首が出ている部分から、肉を切ってすすんでいって探す訳だが、そのお目当てにたどり着くまでに一時間もの時間を要した。
「ほえ〜。綺麗ですね〜。」
亀の体内で、一部分だけ口紅のように真紅で、しっとりとしている部分があった。まるでマグロの赤身か、馬の刺身のような色だ。聞いている特徴にこれに間違いないだろう。
肉塊を周りから切り出し、引きずり出す。そして、それを半径三十センチくらいのサイズに切り分ける。
ポルタに、洞窟のことは事前に話していた。今回の案件、亀が巨大なのもそうなんだけど、一番はこの出口が嫌。こんな狭い口から、どのようにこれを運び出すかというのがわたしは難問だと思っていた。
この難題に答えるべくポルタが用意していたのは、シュラフを入れる袋をずっと長くしたようなもの。
ほそ長いそれに肉を詰め込み、ソーセージのようにして、固まった形に。そして、それをポルタの腰につないで外に出てもらう。
するするするー。ポルタが進むにつれ、チューブが穴の中にどんどん入っていく。この様子、ちょっと面白いな。
それを何度か繰り返して、全ての肉をあちらに戻すことができた。
穴から出て、すでに出て準備していたポルタと再び合流する。
回収した袋を、ポルタが持参した鞄に入れる。長い袋は、綺麗にポルタの鞄に詰め込まれていく。
丁寧に折りたたまれていき、リュック内にはもうほとんど隙間がないほどだ。そして、リュックの構造を理解した詰め方により、リュックはどんどん膨らんでいく。すごいな。何回か往復することをすでに覚悟していたというのに、一回で済みそうだ。
最後に、ぎゅーっときつーく締め上げ、リュックの封を閉じる。これで、ポルタの体よりもはるかに大きいサイズの鞄が誕生した。
「さ、帰りましょう。グラントさんが待っているんですよね?」
ポルタは、それを軽々と背負い、帰宅を促す。いや、すごい絵面だ。大丈夫?ちょっと持とうか?
「大丈夫ですよ!【荷物運び】の本領ですから!この程度、田舎では普通ですよ!」
すごいな、田舎って。わたし、元の世界でこんなもの持てるような気がしないよ。




