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蓮花祝の大権現   作者: 終わり
36/51

三十六話 黄泉の方形と享保秤 終


 「え?え?り、龍が……」


 ザクロにとっては、倒せない、災害のような者だったのだろうか。冒険者というのを見たことがなければ、こうもなるだろう。まあ、こういう存在だから。慣れて。

 

 そこからもしばらく歩くと、遠くの方に建物の屋根らしきものを見かけた。


「っは。そ、そうです。あそこが私どもの……」


 山道から降りると、道の近くのすぐに、豪華な旅館らしき建物があった。


 ザクロは先にその建物に入り、程なくして中から女将を連れて戻ってくる。

 

「ようこそいらっしゃいました。このたびは、村のザクロをお助けいただき、ありがとうございます。粗末なものではありますが、今夜はぜひ当館で休んで行っていただければと思います」


 その旅館の女将が丁重に挨拶をする。

 

 山小屋を出たのは朝方だったが、もう日も少し傾いている。早く地上に帰りたい、というのはやまやまだが、魔物も倒したし、昨日はあまり休めていなかったこともあり、意外と疲れている。今日はここで休むことにしよう。


 総意が取れ、女将に部屋を案内してもらう。旅館は静まり帰っていて、わたしたち以外の宿泊客はいないようだ。


 わたしたちの部屋は和室の大きい一部屋だった。布団を敷くスペースのほか数部屋があって、暖房もよく効いている。


 まず、荷物を置いて、着替えてしまおうか。

 

 外套は部屋の外で脱いだが、中の服にも散々雪が入ってしまっている。いつ入ったのか……昨日干したとき、なかったと思うんだけどな。


 

 「おーい!お風呂あるよ!」


 旅館の間取りを見て回っていたカフカから声がかかる。一言だけ話してすぐ走っていってしまう。待ってよ!


 着ていた上着だけを脱ぎ、荷物を置いてそちらへ向かう。

 

 この旅館の最上階の、奥まった部分にお風呂があった。着替えて入る前に、浴場の方をを覗いてみると、非常に大きい浴槽が見える。


 木で浴槽が作られており、サイズとしてはニ〜三十人程度入れるくらい大きそうだ。


 浴場部の端に扉がある。外はよく見えないが、おそらく外に露天があるのではないか。こりゃいいや。雪山で一晩も遭難してたことだし、パパッと入っちゃおう。


「祝子ー。どんな感じだった?」


 カフカが上裸で後ろから近づいてきて話しかけてくる。お前、脱いでる途中で動くなよ。はしたないぞ。


 綺麗だし、結構でかいよ。外に、多分露天も……と話している途中で、浴場の方に駆け込んでしまった。落ち着きがないな。

 


 わたしも脱いで湯船に浸かると、冷え切った体に染み渡る。やはり冒険者だから、普通の人より寒さに強くなっているとは思うが、やはり体は堪えているようで、実際体を温めてみるとたまらなく心地いい。


 サットサンガたちも、引き続いて入ってくる。


 「ふー……いい湯……」


 レギウスが浴槽に浸かると同時に声を漏らし、恍惚とした顔をしている。この雪山を降りてきたあとにこんな温泉に浸かり、さすがのレギウスも口少なになるようだ。

 

 「なかなかいい設備ね。サウナが無いのが残念だけれども、広いし、露天もある。それに湯質もいいわ。」


 サットサンガは温泉が好きなのかな。湯船に浸かりながら、手でお湯を掬って、嗅いだり上から零したりしている。


 カフカは、わたしたちより先に入っているわけだが、じっとしているというのも性に合わないようで、わたしに湯をかけてきた。ぎゃ!


 「暴れるなら、外でやりなさい!」


 と、サットサンガに叱られる。ごめん、さすがにわたしも普通に入りたい。



 カフカは、少しシュンとして、ドアを開けて露天の方に出ていった。素直なのか素直じゃないのか。


 でも、露天はわたしも気になるな。あとで、ちょっと出てみようかな。

 







 

 ドアを開けて外の浴場に行くと、寒い!ひえ〜、濡れたわたしの体に寒風が叩きつけられ、痛いほどだ。早く早く……

 

 小走りで湯船に近寄り、サッサと入る。


 ふーー…また、遭難してからあったかいお風呂に入るのを疑似体験できた。無限にできるな、これ。


 ふと外を向くと、ここから外を見られるようになっているようだ。上階に作られているだけあって、街が一望できるようになっている。そして、家々の上に、頂上まで雪が降り積もり、白く染まっている山が見える。おー……


 ここって、どんな街なんだろう。


 屋根は、基本瓦造り。それで、それ以外の場所は木造で。どことなく和風だな。


 あそこの建物、なんだろう。二つ、明らかに民家じゃないものがある。


 一つは、青いお城のようなもの。もう一つは、赤い、門?


 なんだろう。ここから見ても、なんだかわからないな。あとで、旅館の人に聞いてみよう。

  

 この寒さとこの湯のおかげでいつまでも入れそうだが、きりがないからここまでにしておこう。さっきカフカも上がったし、わたしも上がるとするか。


 浴場を出て脱衣所に行くと、カフカはもういない。どこに行ったんだろ。

 

 着替えてとりあえず外に出る。……あ、ザクロだ。旅館の正装かは知らないが、和服を着ている。水の入った桶を両手で持っていて、旅館の仕事をしているようだ。


 「あ、こんにちは。お風呂上がりですか?」


 うん、そう。あれなんだけど、カフカ知らない?逸れちゃったんだ。

 

 「カフカさんなら、中庭の方に走って行きましたよ。」


 中庭。おっけー、ありがと。


 「祝子さん、お風呂上がりに、アイスでもいかがですか?」


 アイス……食べたいけど、時間をとっているとカフカがどこに行くかわからないので、遠慮しておくよ。


 中庭に行くと、カフカと会うことができた。


 「あ、祝子。ここ、すごいね。ダンジョン内とは思えないよ。」


 すごいよねえ。露天の窓から見ただけだけど、ここ、街ごとあるよ。


 「さて、これからどうしようかな。」


 そうだ。カフカ、卓球しない?旅館といえば卓球でしょう。


 「タ、タッキュウ?」


 卓球を知らないの?あの、これくらいの球をラケットで打って、相手の陣地に落ちたら勝ち、っていう。


 「知らないけど、やってみよう!道具は……」

 

 温泉旅館なら、どこかにあるでしょ。


 あ、女将さん、卓球台ってある?

 

 「タッキュウ?」


 あら。女将さんも知らないかー。


 ないなら作ろう。二、三本木を削り、平らに、卓球台のサイズに合うように作成する。


 「早っ。一瞬じゃん。」


 【木工】が成す技だよ。


 さ。台と、ネットは素材がないから木で最低限向こうが見えるように格子を作った。


 球も木製で、バウンドするかは怪しいけどとりあえずやってみよう。


 ほら、これ……サーブ、こっちから打つ時はこっちの陣地で一回バウンドさせてから向こうに打つんだよ。


 カツンとゆっくり打ち出す。はい、それを……


 「あれれ。」


 カフカは思い切りラケットを振ると、ラケットに当たった打球は、あらぬ方向へ飛んでいってしまった。ワハハ、初心者狩りは気持ち良い。


 最初は難しいと思うから、一、二回試してみてからでも……


 と言っている間に、豪速球が飛んでくる。ちゃんとわたしの陣地でバウンドしてから、後ろの木の壁にめり込んでいる。


 「コツ掴んじゃった。楽勝かな?」


 調子に乗って……わたしに勝てると思うなよ。






 ふー。つい熱中して、結構な時間やってしまった。途中から点数とか数えていなかったが、とにかくカフカの反射神経と、体力がすごい。どう打っても返してきて、ラリーが一向に終わらなかった。


 汗だくになっちゃったし、もう一回お風呂にはいろうかな。


 お風呂場まで二人で歩いていると、その途中でサットサンガたちとすれ違った。肌が上気していて、お風呂あがりだ。さっきから、ずっと入ってたの?長風呂だなー。


 「普通に二回入っただけだよ。祝子たち、汗ビショだねー。何かやってたの?」


 卓球を。


 「タッキュウ?」


 卓球、この世界には存在しないのかな。

 


 二回目のお風呂からあがり、部屋に戻ってくると、すでに食事が配膳されていた。もう六時だから、そんな時間か。


 主菜として魚の煮ものと刺身類が多く用意されている。それ以外にも、薄く切られた、ローストした牛肉、鶏肉とお魚のホイル焼きなど、豪華な品揃えだ。


 さて。











 



 夜更け深く、周囲は深く寝静まっている。


 大部屋には、布団が四つ横に並んでいて、それが一つ一つ膨らみを持っている。この旅館に来た旅人はこの部屋で皆就寝しているようだ。長旅でよほど疲れているのだろう、部屋には全く動くものの気配がない。


 その部屋に一人。招かれざる客が現れた。


 深くローブをかぶっており、顔あ窺い知れない。片手に黒い鉄器を下げている。旅人の足元に立って、その鉄器に鉄箸を当て、音を奏でた。


 そして、そのまま、旅人の寝ているであろう布団に近づき……

 

 




 

 そこに、後ろからそこで寝ているはずの旅人が現れる。


「な…」


 ずいぶん熱中していたみたいだね。わたしだよ。祝子。


 はっとなったように、ザクロは部屋の布団をはがす。膨らみは、予備の布団や枕類でそれらしいように作ったものだった。


「で、でも、この黄泉竈は……皿は空になっていたはずなのに……」


 ザクロは、手に持っている鉄器を出す。鈍く光っており、本来はあれに反応してどうにかなるんだろうか。

 

「それは、私が処理した。レギウスの感知法でも、軍用の調査キットでも異常な反応が出ていたからな。見た目も香りも正常だったが、中身は完全に腐敗していたな。」


 心苦しいけど、料理は焼いて廃棄しておいた。そのまま皿は返し、わたしたちが食べたように見せかけるようにね。


 ……最初から、サットサンガたち二人は怪しんでいた。どちらとも、山で生活するこのような集落を見たことがなかったし、この街とザクロから、生活感を感じなかったからだ。


 ここには、道中であったイルベガンのように強力な魔物が多数生息するというのに、ザクロは全くそれを気にするような素振りもなく一人で山行していた。それに、街と山との境目に関所がなく、山道にそのまま面する形で旅館が接してあった。まあ、くる人もいないのに、旅館があるということ自体が不自然なのだが。


 わたしがこの異常を確信したのは、露天で街を眺めたとき。妙な建物が二つ……


 巨大な青い城と、門……よく見ると、寺のようだったが。この三階層の様子に、明らかに合致しない建物だ。何か意図があるのかと思ったが、少なくとも自然に発生したわけではあるまい。

 

 ……わたしたちの話を聞いて、ザクロは俯いて、こちらを無視して独り言を始める。


「……ていれば…そのまま……の仲間となっていたものを…まこと……しい……」


 その口調は、わたしたちの知っている、十代も前半の少女のものではな。そして、それと共に、ザクロの体も異形と化していく。上半身が風船のように膨らみ、どんどん大きくなる。体の端々から、無用な手や足が無数に生えているのが確認できる。


 「……を引き潰し、口に……り詰め込み、そちらをざい……とする……それしかない。」

 

 サットサンガは、ホルスターからハンドガンを取り出し射撃するも、肉塊はそれに構わずさらに大きくなっていって、天井を突き破る。

 

 肉塊の膨張に触れることにより、梁や柱が折れ、天井が落ちる。カフカたちは急いで建物の外に出て、ザクロの様子を外から見ると、ザクロはそのまま旅館と合体し、大きな異形の怪物となっていた。


 そして、いつからか、旅館と同一化したザクロの背には火がついている。これは延焼し、町中の家々に広がっていった。全ての家屋は倒壊せずそのままの形を保ち、ただ延焼させるという役目を果たし続ける。最後には、あの城と門へと行きつき、この街全ての建物に火をつけた。


 火のついた家は、ひとりでに動きだし、一箇所、元々旅館があった場所に集結する。


 まず一箇所、地面に接する部分に多くの建物が集まり、縦に長い円錐形を形成する。そして、左右に太くながい二本の曲がった円柱形を、先端には五つの小さい同様のものを接着させる。そして最後に、旅館を頂に着地させた。


 左右の二本の円柱や、その先端の五本のものは、大きく分けて半分ほどの部位で分かれ、自由に動く。行動するたびに旅館の玄関口が動き、全体がゆらゆらと揺れる。まるで上半身だけの巨人のようだった。


 サットサンガは打ち尽くしたハンドガンを捨てて、箱を起動させようと構えるが、レギウスがそれを制止した。







 

 わたしは、まだ巨人内に残っていた。巨人形成の過程で建物の中身はシェイクされて現在は旅館からは離れてしまい、巨人の右腕部にいる。巨人は建物が連結して作られただけあって、内部は通路が残存しており無理をすれば通ることができた。


 右手前腕部の団子屋から出発し、一般家庭の居間、無数の火の見櫓と奉行所を通り、胴体の心臓部にたどり着いた。


 心臓部にあたる場所では、先の寺と城が両者ともに並立されており、三階で接続されていて両者を行き来できる。


 城の城門から入り、中の階段を登って最上階まで上がると、展望台のような場所に、先端に桶の括り付けられた縄が垂らされている。これを登ることで旅館へと辿りついた。



 


 旅館の玄関口から入り、幾つか部屋を見て回る。わたしたちが宿泊していた部屋に、元のままのザクロが首を吊っていた。




 


 「わ……た…しが…も……や…し…ま…」


 首が重力により異様に引き伸ばされている。すでに事切れているように見えるのに、未だに声を発し続けている。縄で声帯が潰されており、掠れてほとんど聞き取れない。


 もう大丈夫。土に還りな。

 






 刀で首を切ると、ザクロは全身から蒸気を噴出し、溶けて消えてしまった。




《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》


 ハフリ ユメ

職業【神巫】

Lv:25→26

HP 170/170→175

MP170/170 →175

筋力:180 →185

魔力:170 →175

速度:170 →175

防御:170 →175

抵抗:170 →175


【スキル】

:【剣術】Lv.6 ▼【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1【木工】Lv.1【魔眼】Lv.3




  ザクロが消え去ってすぐ、わたしは旅館の外へ飛び出したが、それとほぼ同時に巨人はもがき苦しみ始める。巨人を覆っていた火の火力が増し、巨人それ自身を焼き尽くして、指先からボロボロと崩れ落ちていく。わずか数分で、巨人の体は全て崩壊し、そこには黒く焦げた残骸を残すのみとなった。








 巨人の焦げた残骸に残るのは、ただ一つだけ。


 一つの井戸。直感的に、あの旅館に備え付けられていた井戸であるというのがわかる。

 

 井戸は暗くてそこには光が全く通らず、底の部分は全く透見できないようになっている。


 わたしたちがそれを目にしたとき、全員、なぜか突然するべきことが分かり、一人、また一人と井戸の中に身を投じていった。












 長い暗闇を、まるで滑り台を滑るかのように通り抜けると、突然重力が反転したかのようになって、下からぴょんと飛び出した。


 周囲を見てみると、わたしが二階層で元々いた洞窟のようだ。

 

 石碑はまだ残っているから、次回以降からはここから来れるのだろう。


 



 三階層。これまで以上に苦戦しそうだ。


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