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蓮花祝の大権現   作者: 終わり
35/51

三十五話 黄泉の方形と享保秤 3


 一晩経って、翌朝になった。


 あの後、部屋の上部に、雪は入り込まないように、採光窓をつけようという提案があったためつけてみたのだが、そこから綺麗に朝日の光が覗いている。綺麗で、気分がいい。あれは正解だったな。


 それに今日は、昨日の豪雪が嘘のように晴れている。絶好の行楽日和だ。行楽とか言ってる場合じゃないのを除けば……


 さ、起きよう。


 起き上がって小屋中を見渡すと、一人、わたしも前にすでに起きている。だれだ、とよく見ると、昨日の少女ではないか。


 よかった、目が覚めて。昨日は結局、目が覚めなかったからな。心配してたんだ。

 

 話しかけようと立ち上がり、その子の方へむかうと彼女もわたしの方に気づいた。そして、そのまますぐ座って、流れるように手をついて土下座のような姿勢をする。え?

 

「ど、どなたか存じませんが、助けていただき誠にありがとうございます…」


 そんなにかしこまらなくても。何があったの?

 

「はい。わたくしはザクロと申します。いつもはここに来て、果物を採って帰って来れるんですけど、今日は大雪が降ってしまって……本当に助かりました…」


 いつもここを通る……果物って、なんのこと?この付近に果物?


 そういえば、あまり冒険者には見えない格好だし、魔力もほとんどないみたいじゃない。


 「ん……祝子、なんかあったの?」


 話しているうちに、カフカも起き出してきた。昨日遭難してた子が、起きたみたいなんだ。


「ふーん。よかったね。祝子、この子のパーティメンバーは誰か聞いた?あんまり強く無いみたいだし、早く帰らせてあげないと。」


「パーティ、メンバー?」


 カフカ。もしかしてさ、この子……

 

「すいません、あなたたちの話が分からず……三階というのはなんのことでしょうか?攻略、というのも……」


 もしかして、三階の中に住んでいるんじゃないのか?この子。


「えっ!?」




 

「わたしの住んでいるところですか?ここの麓の集落です。……家の形?なんと表現していいかわかりませんが、瓦屋根の、木造の家です。」


 ほら。少なくとも、ハムエルンにそんな家は無いよ。木造はあるけど、瓦屋根の家なんてないし、ダンジョンの三階から直で地上につながってたら、怖いなんてもんじゃない。


 信じがたいことだが、ダンジョン内に集落を持っている集団がいるんだ。


「ちょっとわたしの理解の及ばないところもありますが、この度のご恩には、心を尽くし礼をさせていただきたいと考えております。わたしのこの身でお礼差し上げるのは難しいため、是非わたしどもの実家に来ていただきたいのですが……」

 

 わたしは遭難してて帰路も分かんないし、悪くはないと思うけど。


 「わたしも、帰宅するとなるとここの山を越えなきゃなんないから、ちょっとよしたいな。他は……」

 

 そろそろ、サットサンガたちも起きたようだし。意見を聞こうか。

 

 「いいんじゃないの。私は普段行ってるとこからかなり離れちゃったから、階層の出口が今分からないし。好都合よ。祝子たちもそうなんじゃなかったかしら?」


 「そう、そう。そうなんだよねー!困っちゃうねここ。ほんとほんとほんと。ここ、迷いやすいよねー。」


 決まりだね。



 

 ザクロに連れられて山を降りていく。森を抜けてしばらく進むと山壁が見える。そこの部分から下りの山道になっていて、そこから下山できるんだとか。


 「祝子、それ何?」


 これね。まあ、見てみ。


 今はバスケットボール大だけど……


 転がしていけば、ほら。どんどん大きくなっていく。


  「あ!いーな。わたしもやろ。」


 カフカも、道の横にある雪塊からバフッと両手で掴み、硬めてもつ。ああ、それだと、ちっちゃくなっちゃうよ。最初はふわふわでいいの。


 「あなたたち、やめなさいよ、みっともない。」


 えー?面白いよ。ほら、もう、こんなに大きく。


 「はあ。まあ、遅れないようにしなさいよ。」


 サットサンガは、遊びながら進むわたしたちに呆れながら言う。せっかくの雪なんだから、楽しまないと。





 


 

「そこは右です。左の方にも道はあって、そちらの方が早いので以前はそこを使っていたのですが、落石によって塞がれてしまい、通行不能なので……」


 ふむ。落石か……


「左の方が近いの?近いなら、岩どかしてそっちいこうよ。」


 うん。


 ザクロは戸惑っているが、ショートカットできるならそっちの方がいいだろう。



 問題の箇所に来ると、わたしの身長の数倍はありそうな岩が道に転がっていた。確かに、意外とでかいが。


 カフカが両手を広げて力を込めると、岩は真上に持ち上がる。ぽいと横に投げ捨てた。


「え……え?」


 一般人からすると、こういうのはかなり奇特に見えるだろうな。でも、冒険者ならみんなできるでしょう?


「私は無理だ。あれはデカすぎる。」


 そうだったか。まあどうでもいい。道も空いたことだし、行こうか。


 「カフカちゃん、力持ちなんだね。すごーい。」


 「しかしねえ。冒険者じゃない人がこんな、三階層にいるなんて、珍しいことよね。ねえ?」


 首を双方に向け、ザクロやサットサンガに話しかけている。サットサンガはこれが苦手なようで、話しかけられているがこっちに避難してきた。わたしに相手をしろ、と目配せしている。


 「ああ、行っちゃった。」


 こいつは、昨日の最後に来た、レギウスと名乗る冒険者だ。頭の両側に大きく曲がった角をつけていて、本人がいうには山羊獣人らしい。

 

 レギちゃん、元気だね。昨日は良く眠れた?


 「うん、お陰様で。三階層って寒くってさあ〜〜。今日中に帰るつもりだったのに、帰り道を見失っちゃって。おなかも空いてしんどいところに、あの古屋だったから、助かったよ〜。あ、飴ちゃん食べる?」

 

 めっちゃ喋る。そうねー、わたしはここに初めて来たし、要領はわからないけど。結構迷いそうな感じはあるな。飴はいらない。

 

 「そういえば、昨日聞いたんだけど、祝子ちゃんってここ一年のうちにダンジョンの攻略に入ったんでしょ?それで三階層って、すごいねえ。あ、ポッケにチョコ入ってた。いる?」


 そうだね。基準がわからないけど、早いみたい。けど、カフカは、ここに入ったのが三ヶ月前らしいよ。チョコもいらない。

 


 


 と、計器によれば、この先に魔物がいるはず。


 ここは山道だが、ここから降りていく予定の道中、距離にして数百メートル先に、一つの大きな影が見られた。


 四足歩行で、全身を大きい甲殻が覆っている。サイズは、周囲の木などから推測するからに、小さめの一軒家程度はあるか?


 「イルベガンだ。カフカ、祝子、レギウス。前衛を張ってくれ。」


 イルベガン。サットサンガは、この魔物の正体を知っているようだ。


 こちらに光球を放ってくる。前衛にはカフカがすでに向かっているので、この光球をかき消してから出発する。


 「おー、すごい。サットサンガは後衛、だよね?前衛が多いから、わたしも今回は後衛に回ろうかな。前衛職だけど、一応後衛もできるんだ。」


 レギウスは背負っている大剣を鞘から出して構え、サットサンガは、持っていた大きな箱を開ける。


 まるで見えなかった亀裂から箱を二つに割ると、その中に手を突っ込み、何かをつかんで手を振り上げる。


 その動作に付き従うように箱が変形し、サットサンガの手を包みつつ、その延長線上に長く伸びた。


 その長く伸びた筒を地面近くに降ろして地面とほぼ並行に保つと、下部から固定具が飛び出し、地面に降り立った。これは銃に近しいもののようだ。


 スコープを見て照準をつけ、その固定具が完全に固まり、銃口がイルベガンの眉間を睨むように位置して固定されると、その銃身の先端に緑色のエネルギーが集積し始める。


 ここで、カフカがイルベガンの下に到着した。


 イルベガンは、わたしたちが対象を見つけるのとほぼ同時に、わたしたちの方へ進行を初めていたが、山道を駆け降りるカフカの姿を認めて一旦足を止めた。


 カフカを見つけたことにより、改めて十分な溜めを作り、駆け降りるカフカに衝突するという焦点に向けて、頭の最も硬い部分を前にして突進を始める。

 


 カフカは、一瞬の接触時に、イルベガンの両角を掴み、両足で踏ん張って、止める。後ろに幾分引きずられたが、しばらくしてその勢いは完全に止められた。こんなのの突進を一人で止めるとは。


 その隙にわたしが周りこみ、首筋を狙って刀を打ち込む。


 が、甲殻に阻まれて深くまで入らない。


 イルベガンもいつまでも掴まれているわけではなく、首を振ってカフカを頭から外した。わたしも、それと同時に多少距離を取る。


 カフカがいて、接近戦は不利と見たのか、巨大な光球を顔を前に形成していく。おお、さっきやってたやつか。こっちに来たらわたしが消そう……


 と、前に出ようとすると、カフカが手で制止する。何か考えがあるのか?


 カフカは地面に手をつき、そこから何かを取り出す。


 地面から現れたのは、黒い金属製の鎖と、その先端の棘つきの球体。モーニングスターと呼ばれるものだ。


 カフカが【土魔法】で、モーニングスターを生成したのか。長く伸びた鎖の先端を持ってモーニングスターを回転させると、数周を経て加速しきり、先端は見えないほどの速度になる。


 イルベガンのチャージよりも早くモーニングスターの加速は終わり、その速度のまま、イルベガンの頭部に衝突した。


 一拍置いてイルベガンも光球を放つも、意識の混濁からか、正常な形をなさない。イルベガンの顔面は、張り巡らされた甲殻に大きくヒビが入り、砕けている。目は焦点があっておらず、首を振り子のようにぐらりと揺らしている。


 ということなので、その隙にとわたしもイルベガンの懐に入る。意識がはっきりしていないようなので、ゆっくりと狙わせてもらおう。と、甲殻の隙間を狙って刀を突き刺す。深々と内部まで突き刺さり、傷跡からは血が噴出した。


 イルベガンは絶叫して暴れ狂う。口から血を噴出させ、傷跡からの出血も合わせて血塗れになる。


 危険なので一旦距離を空けるが、もう長くないだろう。これをどう処理するか。モーニングスター、といっても、顔は狙いづらいか。

 

 「できた。射線を空けろ!」


 おっと。サットサンガの準備ができたようだ。その場から一旦離れる。


 「エネルギー充填完了!照準よし!」


 手に持っている銃口の先には緑色のオーラが集積されており、銃身には幾何学的な亀裂が入り、また隙間が光っていて、銃全体に緑色のエネルギーが満ちているのがわかる。

 

 「対巨獣用決戦砲(バガヴァット)。発動!」


 サットサンガの発声と同時に、銃口から、野球ボール大の太さのレーザー砲が発射された。


 イルベガンがそれを視認した瞬間、それは肩から足にかけて通過しており、地面をも貫いてさらに先へと進んでいった。


 さらに血を吐き地に臥すが、それでもまだ動けるようだ。トドメを……


 「まだ近づかないで。準備しておいてよかった。」


 後衛の位置に大きい大剣を担ぐように持っているレギウス。その大剣には、この距離からでもわかるほど、わたしとは比較にならない量の【闘気】がチャージされていた。わたしたちが出発してから、溜めていたのだろう。


王威宝剣(カラドボルグ)!」


 担いだ大剣を振り下ろすと、闘気の塊は、身の丈よりはるかに大きい斬撃の姿となって飛び出し、対象の顔面から入りこみ二つに分断した。

  


《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》


 ハフリ ユメ

職業【神巫】

Lv:24→25

HP 165/165→170

MP165/165 →170

筋力:175 →180

魔力:165 →170

速度:165 →170

防御:165 →170

抵抗:165 →170


【スキル】

:【剣術】Lv.6 ▼【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1【木工】Lv.1【魔眼】Lv.3


 「終わったー!いやー、強かったね。」


 初めて戦闘を見たが、すごかったな。三階層の人って、こういう戦闘をしているんだ。


 「祝子ちゃんもすごかったよ。動き見えなかったし。」

 

 カフカも。本職の前衛は違うな。


 さ。討伐部位の剥ぎ取りも終わったし、後衛の二人を待って先に進もう。

 



 

 「やるじゃない。レギウス……」


 「そちらこそ。軍用の兵器かな?今度じっくり見たいなあ。」

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