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蓮花祝の大権現   作者: 終わり
34/51

三十四話 黄泉の方形と享保秤 2


 この子の看病が終わって落ち着くと、ふと空腹感を覚えた。そろそろご飯時か。元々金龍を倒すだけのつもりだったから、あんまり保存食は持ってきてないが、この付近に食べられるものはあるかな?豪雪地帯だから難しいか?


 あ、でもここはダンジョンだし、魔物がいる可能性は十分あるか。


 魔力感知装置を見てみる。比較的近所を探すと、少ないが、反応二つある。北西のつい二百メートル程度のところに一つ、南東二〜三キロ程度の範囲に一つある。こいつは魔力反応がでかい。金龍よりもやばいか?


 今こいつはきつい。北西のなら、そこまで大したことはないか。

 

 脱いで部屋の壁にかけて置いたわたしの探索用の服を着替え、装置を持って出ていく。短時間だが、雪を払って魔法の火に当てて干しておいたので、多少乾いているのはよかった。


 北西方向にしばらく歩くと、雪の中に大きい影が見える。この距離からではこれ以上はっきり見えないが、あちらもすぐわたしに気がついたようだ。雄叫びをあげながら突進してくる。


 わたしの目前まできて、その正体がはっきり見えた。四足歩行で、高さが二メートルほどある、猪のような獣だ。


 このサイズなら、わたしとあの子二人なら余るほどだろう。安心した。


 突進の勢いに任せ、【闘気】を纏わせた刀で頭部を切る。


 脳天から、頭蓋骨を割って頭部を両断する。


 眉間まで切り込みが入ったタイミングで猪の体から力が抜けて慣性で進むのみとなったため、それ以上刃を入れることを止め、手でそっと止めた。


 肉を食べたいから、なるべく体に傷はつけたくなかった。まあ、頭も食べれるかもだけど。


 足を持って引きずりながら山小屋に持って帰ろう。まだあの子も目は覚ましていないだろうが、これを調理して、ついでに毛皮を使って毛布を作って……





 

 !?


 戦闘中だから気づかなかった。南東の反応がこちらに近づいてきている。小屋まで二百メートルくらいだ。そして、今まさに近づいているよう。これ、絶対あの小屋に気づいているだろ……


 今の現状は全快とは程遠い。倒せるか……?


 なんにせよ、行くしかない。早く行かないと、あの子が魔物に襲われちゃう……!


 小屋の前に着く。小屋はまだ無事なようで、一見なんの変化も見えない。反応もちょうど小屋の近くにある。魔物はすぐそこにいるはずだ。


 どこだ……?どこにいる…?


 警戒していると、後ろから声をかけられる。


 「こ、こんにちは。ここの小屋の人?」


 あら。


 




 

 話しかけてきたのは、わたしと同じ冒険者だった。最近三階層に突入したらしい。わたしもついさっき入ってきたとこだよ。


「へー……え、同い年なの…!?てっきり、大人の人かと…」


 そうそう、それで、この子、わたしとタメの十二歳らしい。魔法の研究と冒険者の育成で有名な学園、トリエンに在籍中の学生の、カフカ・ウィリアムズ。ここには、冒険者コースのカリキュラムの一環として実習で出てきていると…

 

 「祝子ちゃんはどうして?まだ十二歳なのに、こんなダンジョンの深層になんて……」


  わたしは、まあ説明は難しいんだけど、攻略せざるを得なくなったというか、なんというか……


 「へー。まあ、そういう事情もあるか。」


 んまあ、そう。納得していただいて重畳です。……






 ここに来て、同年代の子と接することがあると思わなかったから、つい話しすぎてしまうな。まあ、雪が止むまですることもないだろうしいいか。

 

「そういえば、祝子ちゃん、パーティメンバーは?」


 わたしはソロ。たまにグラントっていうやつと一緒に潜ることもあるけど、今日は一人なんだー。そっちは?


 「わたしは、トリエンから三人で組んで攻略してる。んだけど、この吹雪で逸れて……。残りの二人はもう帰ってると思うから心配はしてないんだけどね。」


 まあ、この雪だもんね。

 

 三階層のパーティは見たことないな。他はどんな人なの?


 「わたしのパーティメンバーは、……ん?」

 

 お……


 計器に反応がある。また大きい反応が。


 さっきのカフカというほどとはいかないが、それに準ずるくらいのサイズだ。というか、ほとんど同じ……?


 「なにこれ?」


 これは、半径五十キロの魔力源を探知できる魔道具。これで、魔物とか、人とかを感知できるんだ。さっきはカフカが魔物だと思って警戒してたんだよ。ほら、ここに二つあるでしょ。これが、わたしとカフカだよ。

 

 「へー、ほんと。すごい!」


 それで、こいつが結構でかい。魔力量にアイコンのサイズが比例しているから、こいつとやり合うなら結構きつい戦闘になるだろう。まあ、カフカもいるし、そこまで心配する必要もないだろうが……


 「このサイズの魔物……結構やばいね……」

 

 そう話していると、やはりというか、こっちに近づいて来る軌道に変更される。またかよー。


 言ってる間に、つい百メートル程度の距離に近づいてくる。外に出るか……


 二人で小屋の前で待ち構えると、またしても猛吹雪の中から、一人の少女が現れる。ああ、やっぱり外に出なくてもよかった。出損。


 「なにしてんのこれ。あなたたち、冒険者?」


 その少女は、小屋の外に出ているわたしたちを少し不審がっていたが、あまり躊躇うことなく話しかけてきた。

 

 そうだよ。これはわたしが作った小屋。入る?


 「入る。入れて。」


 はーい。


 その少女は、全身を黒い装束で覆っていた。大きく全身を包むことのできるサイズの外套をまとい、それをとじている胸元の大きいボタンを外すと、中からまた黒い衣装が出てくる。


 立襟で前合わせにボタンが並んでおり、肩には不思議な模様の飾りが輝いている。どこかの軍人なのだろうか。


 また、大きい特徴として、彼女は非常に大きい箱を抱えていた。それは、彼女の体よりもだいぶ大きく、また、さらに黒い。箱、とは言ったものの、蝶番や留め具など、開けるための機構は見当たらず、ただ幾何学的なラインが入っていることから、箱なのだと思われた。

 

 「サットサンガ。【チーム:サンフランシスコ】、【罠師】。協力するべきことがあれば言って。」


 あまり自分の話をする気はないようだ。あまり見たことないような感じの人だから、気になるんだけどなあ。


 「サットサンガ、よろしくね!いつから三階層にいたの?わたしたちはどっちもつい最近きたんだ。」


 カフカが話しかける。

 

 「二年前から。」


 サットサンガは他所を向きながら、そっけなく答える。とりつくしまもないな。

 

 でも、気になることには気になるからなあ。例えば、この服。肩に何かついてるよな……


 じっとみていると、サットサンガに気づかれて避けられる。だって、しょうがないじゃん。

 

 「この箱なーに?開けていい?」

 

 あ、それわたしも知りたい。その箱、何?





 と、その時。サットサンガが強い口調で言う。


 「あのね。あなたたちは遊びかもしれないけど、私は仕事できているの。小屋に入れてもらっていることには感謝するけど、パーティ活動に必要なこと以外は無闇に話さないわ。」


 怒られてしまった。教えてくれてもいいのに。


 しょうがない。こっちだけでしゃべるか……って、あ!


 そういえば、忘れてた。あの猪!倒してから、食料にでもしようと思っていたんだけど、外に放置してた。ご飯もだし、あの子の毛布もないと寒いでしょ。


 処理せんと。カフカ、お肉食べたい?


 「肉!?食べたい!!」


 じゃ、一緒に処理しようか。サットサンガはどうする?


 「わたしの食材は、栄養補給用のバーがまだ残っているから大丈夫。気にしなくてもいいわ。」


 あら、そう。じゃあ、行ってくるね。



 


 わたしが狩った猪は、小屋の前で凍りついていた。一時間くらい経っていると思うが、ここまで冷たくなっていれば悪くはなっていないだろう。倒したのが三階層でよかった。


 えー………どうやって切るか……知ってる?カフカ。


 「うーん。あんまやったことない。頭をとるとか?」


 確かに。頭、とってみよう。


 適当な部分に刃を入れてみる………これでいいのかな。なんかこう、肉を無駄にしている気がしてならんが……


 肉だけを切り進むと、猪の背側で、骨に到達する。これが、頚椎ってやつなのかな。


 しっかり切断すると、首が取れて体だけが残る。


 それで?ここから何をするんだ?


 えー……ああ、なんかあばらって聞いたことがあるから、肋骨に沿って肉を切る、とかどうだろう。


 「あ、Tボーンステーキ、ってやつ?」


 お、そうそう!いーね。それで行こう!


 肋骨はたくさんあるだろうから、わたしは上から、カフカは下からで、分担しようよ。


 それで、上と下に分かれた。


 さ、どこに肋骨があるんだか……


 頚椎の場所はわかるんだから、そこから追っていけばいいんだろうか…人間だったら、鎖骨を探せば胸骨が見つかると思うけど、猪にあるのかな。


 えー……肋骨、肋骨……

 

 「あ!ごめん。なんか変になっちゃった。」


 カフカが声を上げていたので見に行くと、腹に開いた穴から何か妙な色の液体が広がっている。内臓を傷つけちゃったのかな……


 うーん、どうするか……





 

 「どいて。」

 

 気づかないうちに、後ろにサットサンガが立っていた。


 手には大ぶりなナイフを携えている。わたしたちを押しのけて、カフカが開けた傷跡から手を突っ込むと、腸を引きずり出した。その後、腹腔に頭から突っ込んで、幾許かして全ての内臓を取り出してしまった。内容物を全て失い、腹腔は萎んで皮膚に余裕ができた。

 

 「内臓は危ないからやめておきなさい。あと、肉を取る前に、まず毛皮。肉を取るだけでもそうだけど、特に今回は毛皮も使うんでしょ。」


 そう言って、わたしが首を切った断面から毛皮の表面にナイフで切り込みを入れていく。あ、わたしたちもやるよ。えーと……


 「わたしが境目を作るから、そこから開くみたいにやって。この、真皮層のところまで残してよ。慎重に。残ってないよりは取りすぎてる方がマシだから、たっぷり残して。」


 断面を見せられ、皮剥のレクチャーを受ける。層ふむ……ここから……綺麗にそげない。断面がジグザグになってしまう。これ、ずっと直線を引いてるみたいでしんどいぞ。


 ちらりと横目でサットサンガの方を見ると、まるで撫でるようにすっとはいでいく。あまりに綺麗なのでしばらく見ていると、程なくわたしの剥いでいる部分に到達しそうになってしまったので、慌てて自分の作業に戻った。


 それから自分の作業に戻るも、わずか三十センチほど剥いだところでサットサンガがこちらに来て、わたしの分もはいでしまった。


 わたしは別のところで剥ごうとカフカのところへ向かうと、苦戦しているのは変わらないようで、結局サットサンガが来て終わらせた。

 

 「それで、真っ二つに割る。そこから、骨を抜いて処理するよ。」


 猪を倒向きにまっすぐ立たせて、股から二つに割る。そして、肋骨を含む胸郭部だけを取り出した。


 そこから、さらにそれを二つに割り、骨を取り出す。


 背骨から追っていって……あった!これが肋骨か。かなり巨大だな。両腕で抱えられるかといったところだ。


 肉塊から肋骨を引きずり出して持ち上げ捨てに行こうとすると、カフカと目が合った。


 カフカも両腕で、巨大な肋骨を抱えている。同じく捨てに行こうとしているようだが、なんか馬鹿みたいだな。


 猪の骨が一箇所に積み重なって置いてあるため、そこに二人で自分の骨も置く。すると、上から数個の骨が落ちてきた。サットサンガが、取り終わった骨を放り投げているのだろう。


 猪の肉から、顔がひょこっと飛び出してくる。


 「終わったよ。」

 

 四足獣の体は綺麗に片付けられていた。やっぱ早いなあ。


 あとは、適度なサイズにした肉片を中に運び込む……


 「中に入れる分は今食べる分だけにしておいて、残りは外で明日まで保存しておきなさい。」


 ああ、はい。一日にこの量はあまりに多いもんね。


 「あと、その皮貸して。そのままだと汚いから、なめしておいてあげる。その間に、料理しといてちょうだい。」


 そう言って、皮を細かく手で揉み始める。


 じゃあ、料理するか。魔法の火はまだ湧いているので、コンロを作って。火力は結構強いみたいだから、ステーキくらいなら作れるだろう。調理器具だが……


 「あ、わたしフライパン持ってるよ。はい、これ。純鉄だけど。」


 そう言って、カフカはフライパンを差し出す。手元まで全て鉄で構成されている。おー、さんきゅ。珍しいもの持ってんね。

 

 石を円形に固めて置き、その上にフライパンを置く。ガタガタはしてないから、まあ、これでいいだろう。


 じゃあカフカ……


 「あ、わたし、料理できないよ。」


 え。わたしもできないんだけど……


 サットサンガならできるだろうが、なにもかも任せてしまうのも……


 よしわかった。わたしとカフカで、一緒にやろう。


 「うん。一応頑張る!」


 威勢はいいが、全然自信がなさそうだ。わたしも無いよ。こっちもできないんだから、一応じゃなくて頑張ってもらわないと困る。


 フライパンに肉を乗せる。火力は足りているようで、肉を乗せた瞬間、じゅわーっと音がする。


 どうすればいいの、どうすればいいの。


 どうする?ひっくり返す?


 「さすがに早すぎ!もっと焼かないと!」


 焦げ焦げにならない?


 まーでも、焦げのリスクを負わないと、美味しいステーキはできない。よーく肉を見て、焼けたタイミングを見極める。


 じーーーっ。なにも変わっていないように見えるが…… 


《 スキル【調理】の獲得を確認しました。》


 よっしゃここ!


 「大丈夫?早くない?」


 ステーキの裏から、綺麗な焦げ色があらわとなる。表面は肉汁が沸騰している様子が見え、実に美味しそうだ。一気に焼けた肉の匂いが広がる。


 カフカも喜んでいる。料理下手二人集、軍杯があがったのはこっちだ。


 ……こっちはズルしてるけどな。


 裏面は【調理】スキルの下、なんの障害もなく綺麗に焼けた。

 






 

 皿を四枚用意して、そこに一枚ずつ焼いたステーキを乗せる。

 

 全ての肉に綺麗に焼け目がついており、切ると中は桜色で、肉汁が溢れ出した。


 うーん、いい感じ。


 一応責任者として、一口齧って食べると、口の中が肉汁で一杯になる。野趣あふれる猪の旨みが口の中で溢れて、最高だ。味の薄いきらいはあるが、これもこれで、素朴でうまい。地味に体が冷えていたみたいで、熱いステーキを食べて純粋に嬉しいところがあるかもしれない。


 「おいしい。祝子、意外と料理は美味いね。」


 「んー、おいしい!ここだと携行食ばっかりで、分厚いステーキなんて想像もできなかったもん。」


 二人も満足してくれたようだ。いやー、ギリギリでスキルが貰えてよかったー。


 四人だから、四枚、と思ったが寝込んでいる子は目を覚ます気配がない。寝ているだけで、脈拍にも呼吸にも異常はないから大丈夫だとは思うが……


 ただ、まあ寝起きでステーキというのもなんだから、スープにしておいてやろう。切り分けて鍋に入れて煮込む。正しいかわからないが、栄養はあるんじゃないか。

 

 お腹がいっぱいになって多少穏やかになったからかは知らないが、サットサンガは少しずつわたしたちの質問に答えてくれるようになった。


 「極秘だから詳しくはいえないんだけどね。とある国の兵器実験のために来てる。この箱が私の兵器。まあ、戦闘時に多分出すから、その時、ね。」


 兵器……と言っても、一般的な銃や大砲とかには全く見えない。サットサンガの言う通り、その時に期待しよう。


 「というか、私のことを子供だと思っているでしょ。こう見えて、私はもう23だから。大先輩よ?もっと敬いなさい?」


 え。てっきり、同年代かと……身長が低いからわからなかった。


 「あなたたちが高いのよ!」


 ……

 さて、まだまだ肉は残っている。もうちょっと焼くか……ってあれ?

 


 


 「これなに?」


  探知用の魔道具。半径五十キロの魔力源を感知できる……ひいては魔物を探索できる。


 「便利ね。私も欲しい。」


 ふふん。特注だからね。でも、ギルドそばの鍛冶屋で一般販売を開始したよ。


 それでここ、特に大きい反応。これは一際大きいな。さっきと比較しても、今までで一番かもしれない。


 「迎撃の準備しておいた方がいい?」


 「でも、さっきも、その前も、魔物かと思ったら冒険者だったんだ。必ずしも魔物と断言は……」

 

 うん。まあ、準備だけ……


 その魔力反応は、吸い寄せられるようにわたしたちの小屋に近づいて来て……



 「あ〜〜、いい匂いする〜〜……遭難しちゃって、どなたか知りませんが、山小屋に入れてはいただけませんか……」


 やはり冒険者だった。


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