三十二話 赫と金の遺産
三十二話
強引にでも、わたしが隠れるスペースを作らなければ。
全力で走って残っている森に向かおうとすると、金龍は一際大きい叫び声をあげた。その直後に雷撃が放たれ、わたしがまさに今向かおうとしている森に直撃する。
行き先を読んで攻撃するとは。わたしが今隠れられる森がもうなくなってしまった。
まもなく、金龍はわたしに雷を落とすだろう。わたしの周りに一片の木もない、完全に無防備な状態で。
……まずい、まずいまずいまずい。どうにかしないと。
…雷魔法を刀で破壊するしかない。さっきはあまりの速度に無理と断じていたが、一応、何度か見てどこを切ればいいのかだけはわかった。後は、ちゃんと切れるかどうかだけ。もう手段がこれしかないのだから、仕方がない。
覚悟を決めて、刀を上段に構える。柄を強く握り、刀に一際強く【闘気】が生じるように………
刀の周りには、あふれんばかりの闘気がみなぎっていた。金龍の様子を観察し、雷の発射タイミングを測る。雲がスパークして――――今!
《 スキル【剣術】のレベルアップを確認しました。》
《 スキル【闘気】のレベルアップを確認しました。》
渾身のタイミングで振った刀は、少々早かったようだ。だが……
一瞬のことでよくわからなかったのだが、わたしの刀に湛えていた光のオーラが刀という枠を飛び出し、離れて独立したように見えた。それはそのまま雷まで直進して、雷も、空中で激しくスパークして消滅してしまった。
刀から、何かが……
【闘気】が飛び出した……?
そしてそれが、雷を弾いてしまった。
わけがわからないが、まだ金龍とやり合えそうだ。それなら、もうやるしかない。かかってこい!金龍!
金龍も不思議に思って、雷をもう一発撃ってくる。しかし、わたしの【闘気】が撃墜。わたしの刀身から【闘気】が飛ぶことで、タイミングがかなり合わせやすくなっている。来るよりタイミングが早ければいいんだからね。魔法の回路破壊に意識を注力できるから、そちらの方も容易になった。
あちらは魔法だし、連発にも時間を食うだろうが、こっちには関係ない。
龍が準備している間に、体に一発くれてやろう。
放たれた斬撃は金龍のどこか、胴体に当たる。雲で隠れていてどこに当たったのがわからなかったが、とにかく当たったことには当たったのだろう。
実際、金龍の雷のリキャストは遅い。それに、この【闘気】で、結構体力も減っているだろう。もう一発行ける。
引き続いてもう一度、わたしの【闘気】が金龍に直撃。続きざまの攻撃に、金龍は身を悶える……はずだが、あまり効果はなさそうだった。【闘気】の塊だし、落雷をかき消せるから、威力はあると思うんだが……
って、危ない!切るのに夢中になって、雷が来ることを忘れていた。刀の振りが間に合わず、とびのいて避ける。わたしの髪先が焦げている……結構危ない橋を渡ってしまったな。
もう一度。さらにしつこく【闘気】を放つが、今度もまた効いていない。うーん、なんで?物理攻撃が効かないのか?わたしの刀は刺さったが……
ここで改めて金龍の姿を見てみると、雲でもこもこだ。さっき刺した時は……
そこまで考えて、気づく。
あっ、もしかして、この雲が威力を吸収してるのか?そうしたら、効かないはずだ。
じゃあ、ないところを狙った方がいいのか。でも、金竜はウネウネと常に動いているし、まとっている雲も常に浮動している。狙いにくいったらありゃしない。ないところを狙うにはどうするか……
おっと、考え事をしてしまった。落雷のリキャストが終わったのだろう、金龍は、さらなる追撃をすべく、雲の中で火花を散らして準備している。
火花を……それだ!
雲の中の、雷を準備しているであろう部分目掛けて、【闘気】を放つ。
雲はそれを受けて黄色く光り、爆発した。雷を準備する一瞬。雲に電力をチャージする瞬間に攻撃が当たると、雷が制御できなくなってしまい、自分がダメージを受ける、と。雲は浮動しているが、大して動くわけでもないし、龍の方の動きを考慮しない分楽だ…
雲の爆発によりダメージを受ける金龍だったが、さらにその胸元は爆発により雲から解放され、柔らかそうな喉笛が露呈している。これならゆっくりと大きく開いた場所を狙える。
金龍の喉元に、わたしの刀から溢れ出した【闘気】が噛み付く。鱗も雲もない、全く無防備なそこに大きく傷口が開き、一気に血液が溢れ出した。
その量は、誰に致命を想起させるにも十分なものだった。金龍は意地を見せるようにこちらへ向け咆哮するが、それはあまりにか細く、もはや先はない。
わたしは、ゆっくりと金龍に近づき、その首を落とした。
《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》
ハフリ ユメ
職業【神巫】
Lv:22→24
HP73/145→155
MP145/145 →155
筋力:165 →175
魔力:155 →165
速度:155 →165
防御:155 →165
抵抗:155 →165
【スキル】
:【剣術】Lv.6 ▼【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1【木工】Lv.1【魔眼】Lv.3
さ、確認しよう。金龍の体をあちこち切って剥ぎ取る。さー、どこにあるのか……
あった。消化器官の中。土龍の眼球から綺麗な青色の宝石が出てきたから金龍にも何かあるんじゃ、って思ってたけど、ビンゴだったね。
琥珀のような深みのある黄色。透明で光を通し、さらに、淡いけどこれ自身が光を発していて、これもまた綺麗。そして、片端が妙な形をしている。やっぱりね。前と同じ。
以前赤い石を見つけた時は、片側が妙な形をしている、とだけ考えて深い考察はしなかったが、少し不自然だった。
生体内の析出物にしては、幾何学的すぎる、規則的すぎる形だったから。で、この琥珀色の石を見て、その不自然さに解答を得た。
持ってきていた赤色の宝石を取り出し、琥珀色の石と片手ずつ持つ。
不自然な断面な方を合わせ、色々と角度を合わせる。ちょっとはめてから一回転させると、かちりと綺麗に一つの塊となった。
半分が赤色、半分が黄色の綺麗な宝石だ。中心部は、破片が細かく組み合わさっているのも相まって特に輝き、赤と黄色が合わさり橙色の輝きを呈している。全体の形は、よくエメラルドとかで見つける、ちょっと平べったい感じかな。
で、これをどうするんだ……?綺麗だけど。
別にはめたからと言って何も起きないし、何も特にすることもないぞ。
……一旦帰るか。単独でまた強いのを倒してしまったが、まあ自業自得ということで、後でグラントと一緒に三階層に行く方法を探そう。
あ!そうそう。こないだの、なんだっけ。蜘蛛の魔物を倒した時、討伐部位があまりにも多くて、わたし一人では運び切れなかったから、腐敗防止処理をしておいて帰ったんだよ。大した値段はしないし、もう腐ってるかもだが、一応見に行くか。
あーー。これはもう無理。諦め。じゃ、もう帰ろう。さっさと。
と、帰ろうと思ったところに、洞窟内のとあるものが目に入った。そういえば、こんなところにこんな石碑なんてあったっけな。蜘蛛の巣穴の奥に、もったいぶっておいてあるが。
言葉は読めない。擦れているし、わたしの知っている言語ではなさそうだ。だが、なんかここ、窪みがあるな。ちょうどこの宝石と形が同じ。
はめてみようか。はめたら、急に瞬間移動して、三階層に。なーんてね。
窪みに宝石をあてがうと、まるで素からそういう形であったかのように一体化し、発光を始める。あっ。
激しい発光がさらに続き、周囲の風景が全て見えなくなったころ、周囲の景色は相変わらず真なる白であったが、そのうち体の方が異常を感じだした。
全身が薄ら寒い。そして、冷たいものが肌に繰り返し当たっている。そして、足元は周囲と比較して十センチほど沈んており、その地面と足首の皮膚が当たるととても冷たい。あと濡れる。目の前は白と思っていたが、一面白なのに加え、何か小さい白いものがちらちらと写っている。
そう、ここは雪国。一面の銀世界に、降り頻る雪が視界を完全に白に染め上げていた。




