三十一話 燦燦たる黄金の獣
みなさんは、龍のことを覚えているだろうか。
パトラとかと討伐した魔物なんだが。そう、地下にできた洞窟の中にいた、火を操る龍のこと。
あれは、二階層北西部のことだった。未踏地を捜索しようというパトラの申し出で、比較的冒険者による二階層の資料のない地を探索していた時のこと。突然に爆音がしたことをきっかけに、溶岩洞の中に、龍を発見した。
ところで前回は、二階層にグラントと一緒に攻略しに行った。行ったのは、遊びみたいなテンションだったから、南東の研究がよく進んでいる場所。
地図的な話をするが、ここの地は、北東から南西に向けてほぼ一直線に稜線が並んでいる。それを踏まえて考えると、土龍が現れたところと、前回わたしたちが立ち入ったところは、ほぼ稜線に対して点対照の位置にあるのだ。そして、あの時わたしが聞いたあの爆音、偶然とは思えない。
ぜひあの場所、グラントと探索したい。あの後、トドロキ亭にその話をしに行ったのだが……
「ちょ……ちょっと。後にして。あと、しばらく行けないかも!」
トドロキ亭に突然大人数の宴会が入ってどうしても外れられないとのことで、一旦冒険者業はおやすみするとのことだった。わたしの話を聞く間もない様子で、日中も結構忙しいらしい。しかも連日……珍しいこともあるものだ。
ということで、今、わたし一人で前回のウワサの地に来ている。グラントは土龍戦の話を聞いて行きたがっていたが、もう知るものか。自業自得!わたしだけで楽しもう。
……寂しい。
まーいい。実際、何があるとも限らんからね。爆音にしたって、土龍みたいな攻撃によるものじゃなく、落石とかだった可能性もあるわけだし。予習みたいな感じで、グラントのあれが終わったらまた一緒に行こう。
それでこの地の周りを見回してみるが、特に何も無い。爆音も特にしないし、勘違いだったのかなあ。
あ、でも、探知用の魔道具を見てみると、右後ろに何か反応が……
振り返ると、おっ、アクトゥス。
わたしが振り向いた瞬間、アクトゥスはすぐ逃げだした。あれは二階層単体最強の魔物という触れ込みだったはずだが、それがこんな必死に逃げるとは。わたしも強くなったものだ。
でも、逃げちゃったら倒せないよな。ずっとこうだったら困るなー。
再び探知器で探そうとするが、あれ?さっきの探知魔道具の反応が消えてない。ずっとそのままだ。早くも故障?それは困るけど――――
直後、耳を劈くような爆音がする。
すぐ隣の、数メートルも離れていない地面が抉れていた。煙が起きており、熱されているようだ。どこからか攻撃されたのか?計器には変化が無い。
計測範囲の五十キロより外から……!?
いや、違う。上だ!!
すぐこの場所から離れると、今度こそと言わんばかりにわたしのいた場所に何かが落ちる。爆音と、著しい地形の破壊が跡に見えた。
上を見る。……わたしは気が付かなかったが、こんなものが居たのか。
長大で、蛇のように細長くしなやかな体。どのような理由でかわからないが、ゆらゆらと全身をうねらせながら宙に浮いている。
その頭には、目立つ大きな二つの角が生えている。鹿のように枝分かれしていて、体、顔に比しても巨大だ。目は澄んだ青色をしており、それ自身光り輝いているようだった。口元には長い髭をたなびかせていて、風を切るように動いている。
そして、それら全ての部分に、細かく鱗が張り巡らされており、それらは黄金色の光沢を眩く放っている。
亀、地龍に引き続き、三匹目の龍。今度は、言うなら金龍とでも言おうか。
金龍は、なにか溜めるような仕草をして、けたたましい轟音を立たせて吠えると、その身に雲を纏わせる。その雲の中では、ぱちぱちと火花が舞っていて……
そこから、雷の塊が真っ直ぐ飛び出してくる。
超高速で飛来する雷は、わたしをギリギリでかすめて木に直撃した。木は雷熱により全ての葉が振り落とされ、上八割ほどがどす黒く焦げてしまっている。
爆音がするとは思っていたが、雷か。今回はなんとか身を投げ出して避けたが、面と向かっていても回避するのは簡単じゃないぞ。
それに、前回のように、魔法回路を切って逆用するのも難しい。あまりの速度に構造がよく見えず、どこを切ればいいのか瞬時に理解できないのだ。
次々と金竜が雷撃を放つ。わたしはなんとか大きく回避し続けて直撃を回避し続けているが、周囲は惨憺たる様子だ。朽木ばかり。
ああ、でも――タイミングについては、わかって来た。あまり発動スパンが早くないので、気になって【魔眼】を集中して見てみたが、発動前には雲の特定の場所に濃密に魔力が集まるという前兆がある。具体的には、魔力が集中してマゼンタ色の部分がちょくちょく見えてくると、じき発動だろう。
そら来た。分かっても、対処できるわけじゃないんだけどね……
今度もまた茂みに飛び込んで逃げると、間一髪、避けることができた。危ない。
しかし、雷とは……速度も威力もケタ違いだ。避けられる気がしないぞ。一発程度なら耐えられそうな気もする。被弾覚悟で飛び込むか……?いや、雷だと、威力には耐えられても、痺れたりする可能性もあるし……
わざと喰らうのは、もっと追い詰められてから。避ける方法を考えよう。
そういえば、最初避けようとも思ってなかったのに、わたしに当たらなかったよな。何回もわたしに正確な落雷を落としてきてるのに、存在に気づきもしていないわたしに当てられないなんて考えられない。
何か、雷をわたしに当てられない理由があるんじゃないか?さっきはどうだったっけ。
あ!もしかして……
金龍の纏う雲がスパークし始め、次弾の装填が終わったことが伺い知れる。
金龍が雷を撃った瞬間、わたしは森に入る。
雷は、わたしの入った森林の木々に直撃。葉を散らし、幹を焼けこげさせる。
雷の射線上にわたしはいたはずだが、わたしはそれを受けて無傷だ。そう、わたしはさっき、森の中にいた。いくら雷とはいえ、強力とはいえ、電流であることに違いはない。
森の中にいれば、先に木の葉に直撃してしまい、そしてそこから木の幹を伝って地面に落ちてしまう。雷は比がないほど速いが、その分遮蔽物に弱いというわけだな。(もちろん、わたしも側撃雷を受けてはいるが、直撃より相当威力は落ちている。無傷だ。)
金龍は、わたしのしたり顔を見てか見ずにかは知らないが、わたしがその弱点を知ったことがわかったらしい。あちこち雷を乱射し始めた。
雷の一撃一撃で少なくとも四〜五本は、木が葉を含めて全て散ってしまう。わたしをよーく狙った雷撃とは違って、威力と回数重視なのだろう。先ほどより回転数が上がっている。
おそらく、全ての森林を破壊し尽くしてしまい、わたしが隠れる森林をなくすつもりなのだろう。でも、この金龍はもう一つ忘れている。
金龍は、後ろに不意に重量物を感じる。ほんの数十キロだが、普段金龍は雷魔法を使って自らの体を地面と反発、宙に浮いており、自身の体重に関しては敏感であった。
即座に異常を感じてその重量物を確認しようとするけど、もうダメだよ。
金龍の体には、すでに刀が深々と刺さっていた。
うん。雷をあちこち撃つことばかりに意識がいって、わたしが木々に隠れて姿が見えなくなることを気にしなかったみたいだな。いくら撃っても、まだ数秒も経っていない。龍の後ろに行くくらいの量の森林は残っているのだ。
かなり硬かったが、闘気をマックスで使って、魔力の隙間を縫って、ようやく貫けた。この深々と刺さった刀を上まで持っていって切り裂けば、さすがの金龍もノックアウトだろう。
金龍は苦しそうに唸る。雷には散々苦しめられたが、ここまで近寄られてはもう手立てはないでしょ?今楽にしてやるから、おとなしくしてろよ。
金竜に止めを刺すべく、刀に力を入れる。いや、重いな。もう切れているが、それでも硬い。両手で握って、全力で上にかちあげよう。
金龍は、何回も繰り返し唸る。うるさいな…静かにしてれば楽にしてやる、って……
その瞬間、祝子の視界は光で奪われた。
!?一体何が……疑問は、体中の痺れで上書きされる。
まず光で目を開けていられなくなり、次に、全身に激痛と不快感が走る。苦痛によるものもあるが、手足が自由に動かなくなり、金龍の体にしがみついていた足の筋力が弱まってしまう。著しい苦痛の中、なんとか刀だけは引き抜いて、地面に墜落した。
雲を纏い宙に浮く金龍は、空を飛んで祝子からの距離を離す。
地面から見た金龍は、あちこちが焼けこげているようだ。まさか、自分に雷を打ち込んだのか……!?
そのまま金龍は、わたしの方を向きながら雷を撃つ。またしてもあちこちを打ち続け、どんどん隠れられる場所が減っている。ま、まずい。また近づいてトドメをと思ったが、さすがにさっきの反省から、金龍はわたしの方を凝視している。近づくような素振りを見せた瞬間、すぐにするりと逃げてしまった。
刻一刻と、わたしが隠れられる場所がなくなっていく。
どうしよう。




