三十話 蜘蛛の異界
グラント、そこの曲がり角。この感じだと、スアーヴェかな。
「おー。群れ?スアーヴェなら狩ってもいいでしょ。」
五匹かな。まあいけるよ。
ちなみに、スアーヴェとは、鹿型の魔物のこと。二階層では頻出し、それなりに戦闘能力は高いがそれほどでもなく、わたしとグラントなら十分撃破できる。
《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》
ハフリ ユメ
職業【神巫】
Lv:19→20
HP140/140→145
MP140/140 →145
筋力:150 →155
魔力:140 →145
速度:140 →145
防御:140 →145
抵抗:140 →145
【スキル】
:【剣術】Lv.6 ▼【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1【木工】Lv.1【魔眼】Lv.3
一気に五匹も狩れた。出現頻度もそうだが、二階層の魔物は何より一体一体の経験値量が比較にならないな。
「しかし、それは便利だねえ。何キロまで見れるんだったか。一階の時もあったら、どんなに便利だったか。」
早速、この苦労して仕上げた探知魔道具を使っている。シロネの鍛冶屋で発売中でございます。
これね。五十キロ先の魔物まで、位置、魔物の種類まで正確にわかるの。
最初は、魔物の反応を見て、オクノウサギなら逃げる、というのをやっていたんだけど。この魔道具、魔力の多寡や特性によって反応が違うから。やっているうちに、この計器のジャギーを見て、知ってる魔物ならなんの魔物かがわかるようになったんだ。
これがあるとないとでは大違いだ。もしかしたら、【感知】よりこっちの方がいいかもしれない。ここまでの間、完全に二階層に行ってなかったわけじゃなくて。パトラと一緒に行ったのも含んで何回か行っていたんだけど、そこのパーティ、感知スキルの質がパーティによって結構違ってたんだよね。
強いか弱いかくらいはみんなわかるんだけど、種類を特定できるような人は少なくて、ひどいのだと、居るかどうかしかわからない人とかもいた。それなら断然こっちの方がいい。
ああ、そう。それで、魔道具完成とほとんど同じにミノタウロスが復活したから、グラントが倒して、二階に進めるようになったんだ。この魔道具で、感知系の役割の人間がいなくても探索できるようになったからね。
「これがスアーヴェか。アクトゥスとかいう熊が最大級の魔物なんだっけ?それは会った?強い?」
うーん。アクトゥスも、まあ三から四メートルだし、そこまでかなー。この鹿と大差はないと思うよ。
あれを見ちゃうとね。あれはすごかった。サイズも桁違いだし、攻撃方法も桁違い。物理攻撃しかしないここの野生動物とは格が違うよ。やっぱ時代は龍だよ、龍!
「うー。祝子、一人で探索に行っちゃうんだから。龍なんているんだったら、わたしもやりたかった!」
あ、あれは偶然だって。たまたまあったんだから、しょうがないでしょ?
「じゃあ、龍がいたところに行こうよ。」
もう倒しちゃったから、いないと思うよ。
グラントは話を聞かず、無理やり龍のいた場所に向かった。
先日の大穴はまだ塞がれていない。まるで土砂崩れが起きたみたいだ。地上から見ると、洞窟の内部は全く透見できず、単なる黒のように見える。底は少しだけ照らされてるが、中にはなにも見えない。溶岩ももう無くなったのだろうか。以前は溶岩の光で多少は見えたものだが……
「わかんないでしょ?降りてみよう!」
ちょ、ちょっと。やめようよ。この間落ちた時、戻るの大変だったんだから。
完全にムキになってるな。あんまり無理しないでよ。勝手に行ったのは悪かったから。そうだ!強い魔物、他で探してあげるよ。これ、魔力量に反応するんだ。えー。半径十キロ内なら……これがアクトゥスか。こいつがいるとこに行くから。ほら、ついてきて?
なんとか誤魔化せたようだ。グラントは後ろから着いてくる。
少し歩くと、山道のど真ん中に、黒い熊が陣取っているのが見える。見間違えようもない、アクトゥスだ。
「これが、二階層最強だっけ?祝子、てぇ出さないでよ。」
はいはい。
グラントは、大槌を片手に持って、アクトゥスの眼前に立つ。構えながら無造作に近づくので、アクトゥスも多少怯んでいるようだが、気怖じせず、爪で引っ掻いてくる。
攻撃に合わせるように大槌を振り、その爪と大槌が衝突すると、当然のように爪が当たり負けし、砕けて弾ける。
アクトゥスは悲鳴をあげて後ずさるが、その隙を見て大槌が頭部に至る。頭蓋骨が砕かれ、音を立てて倒れた。
「楽勝楽勝!全然苦戦しない!もっと強いのちょうだい!」
やっぱりこいつ強いんだよなあ。わたしたち、この階層にしては強くなりすぎたのかもしれん。もっと強いの?……うーん、待って、待って。
じゃあ、感じを変えたということで、これ!
キリセイト。サソリの魔物だけど、二メートル以上の巨体。パワーからアクトゥスが最強と評されているけど、甲殻の硬度と攻撃力で言えばアクトゥスにも勝るし、毒もある。さーどうだ。
森林地帯とは少し遠いが、荒野となっている地域に行く。その地帯で計器を確認すると、居た!
キリセイトは、わたしたちを見かけるなりすぐさま這い寄ってくる。わたしが少々後ろに下がったため、グラントに向け、尾の針を刺そうとした。
あまりグラントが避けようとしないからひやっとしたが、グラントは上手く針を自身の角に巻き込んで、梃子の要領で破砕した。
折れるんかい。魔物に固さで勝つな。
そのまま突っ込み、頭部を大槌で破砕する。
ピクピクと動くが、地面に甲殻ごと多少減り込んでしまい、動こうにももう動けないらしい。
「もう!全然アクトゥスより手応えないよ!弱すぎ!このダンジョン、弱いのしかいないの!?」
というより、そっちが強いんだよ。
三階層に行ければいいんだけど、今のところ手がかりはない。知り合いからも話は聞かないんだよな。
「その、件のウサギでも倒してみる?一回やられそうになったんでしょ?」
オクノウサギ、かあ。この期に及べば、それもありかなあ。
と。そういえば、わたしはここにはキリセイトを探しに来ただけで、別に意図して来たわけじゃないが、ここの近くに結構大きい反応があるな。知らない反応だ。わたしが会ったことないのかなあ。
ここに洞窟がある。中には……
のっそりと、巨大な蜘蛛が一匹出てきた。
蜘蛛か!確か、プルモナタだったか?
蜘蛛も一匹でなく数匹いるようだから、わたしも一緒に狩るよ。確か、こいつは……
「うん。次はどうかなー。」
グラントは早速蜘蛛の洞窟に入ってしまう。一匹目に殴りかかると、やはり抵抗なく粉砕していく。まあ、一匹しかいないわけではない。群隊での勝負だから……
二匹目以降を討伐しようとして中をよくみると、内部には残りの蜘蛛が数匹と小蜘蛛が大量にいる。この小蜘蛛を討伐しないと、親蜘蛛には接触できないのか。
毒があるというのはわたしは調べて知っているが、グラントには言えなかった。急に行っちゃうんだもん。まあ、この様子だとやはり楽勝だろう。
と、思ったところでグラントが足をもつらせて転ぶ。どうした。転ぶような障害物でもあったか?
周囲にある蜘蛛を蹴散らしつつ、グラントの様子を伺うと、グラントの足には糸が巻き付いていた。こいつがそんな隙を晒すとは思えんのだがな……
と、ここでふと周囲を見渡して気がつく。ああ、そうだった。小蜘蛛は切ると、体内で糸の原料となる粘着物質が飛び散り、足を取られるという情報があった。あたりには、まるで罠か何かのように蜘蛛の糸が張り巡らされている。これに足を取られたのか。
グラントの足を処置しながら言う。小蜘蛛が死ぬ時、周囲に糸を撒き散らしている。迂闊に切ると痛い目にあうぞ
ここからは、いつどこで小蜘蛛を倒すか、連携しよう。
「ごめん。オッケー。」
目の前には三匹の小蜘蛛。一匹は飛んできてるけど、それ以外の二匹は倒さざるを得まい。
こっちで二匹倒すから、こっちに進んで行って、こっちの蜘蛛を倒そう!
「了解!」
わたしが二匹を倒し、一匹を避けつつ進む。
その倒した小蜘蛛は、二条の糸を張るが、注意しているグラントはなんとか避ける。
その後も、親蜘蛛の前に数匹立ちはだかるが、それはもう関係ない。
「小蜘蛛、四匹!」
うん、やっちゃってー。
一振りで全ての小蜘蛛を蹴散らし、二振り目で、親蜘蛛の頭を叩き潰した。
《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》
ハフリ ユメ
職業【神巫】
Lv:20→22
HP145/145→155
MP145/145 →155
筋力:155 →165
魔力:145 →155
速度:145 →155
防御:145 →155
抵抗:145 →155
【スキル】
:【剣術】Lv.6 ▼【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1【木工】Lv.1【魔眼】Lv.3
「疲れたー!でも、楽しかった。またやろうね!」
完全に戦闘狂だ。そうだね。また。次は龍が復活してるといいな。
「うん。……ってあれ!?やばい。もう一時間前だ。ちょっとごめん。それ、祝子のものにしていいから、はぎ取っといて!これ、ちょっと借りるね?」
ああ、感知魔道具。いいよ。これあると地図が完全に正確に読めるようになるから、ナビゲーションとしても優秀なんだよ。今度、ぜひ買ってくれ。
にしても、ダブルワークって大変だよな。一階だったらいい狩場まで近いから大した障害にもならないけど、二階になるとねえ……
三階層に行く時が来たら、グラントと潜ることも珍しくなるのかな……
ま、その時はその時だ。全力でダッシュすれば、大丈夫かな。
と、考え事をしていると、爆発音が聞こえてくる。こんなに聞こえてくるなんて、治安が悪い……
爆発音!?まさか……
土龍の時と同じだ。もしかして……
すぐに周囲を見渡すが、魔物はどこにも見当たらない。感知魔道具を、って、あ!グラントが借りちゃったから、もう探知機がないんだ。しょうがない。
まあ、グラントももう行ってしまったし、また一緒に探しに来よう。




