二十九話 マスターピースの自伝
「いや、ここはセンサを二つつけて……!」
「それだと冷却系と干渉する。センサ一つで済む経路はないのか?」
「ここはたぶん二つの方がいい。配管経路、魔術回路の方をくみ直して……」
大変そうだなあ。
この間依頼した魔道具の製作は佳境に差し掛かっており、もうわたしの関知できないレベルまで広がっていた。
最初にヒトカをアドバイザとして呼んだのを皮切りに、次に細かい部品の工作のために時計技師を呼び、その次には、電気的なプログラムを作るために、エンジニアを呼び。ついには、プログラマも呼んで、それら全員で話し合っており、これはもはや魔道具製作のプロジェクトとなっていた。
「落ち着け。まず、もう一度整理しよう。」
そして、シロネもしっかりそのプロジェクトを取りまとめる立場となっていて、何かと暴言を吐くようなことも少なくなった。
「あ……、祝子。はよー。早速いいか?」
ああ、そうそう。この前の魔力実験からずっと、わたしの魔力を使って同じように実験を続けている。あれ結構痛かったし、もう別の人に任せちゃいたかったんだけど、中々都合のいい人がいなくて。というのも、レベルは高いものの魔法を一切使わないで、その上ステータスはバランス型というわたしは、極めてこれに都合が良かったのだ。
バンドを巻き、魔力を吸われる。もう慣れたものだな。大体五回目ほどから痛みが少なくなってきて、今はほとんど痛みがない。魔力の出口が広がった、みたいなことなのかな?
ただ、やっぱり、魔力を取られた後は疲れるね。気分が悪いわけじゃないんだけど、気疲れしてるみたい。呼吸が浅くなるし、なんか考えかたがネガティブになる。初めて魔力を取られた時は気ぜつしちゃったけど、あれは痛みからじゃなくて全部の魔力を使い切ったかららしくて、それと同じメカニズムなのかな。
しかし、本当にギリギリまで取るな。もう一しか残ってないじゃないか。わたしのことも考えて欲しいわ。
「はい、協力ありがと。そういえばだが、祝子、うちの顧問にならんか?」
顧問。面倒くさそうだし、一旦はやりたくないが。どんなのなの?
「この商品の販売管理とか。完成したら、うちに売って欲しいみたいなのがたくさんあって、困ってんだ。販売代理店、とか、新聞とか。うちは全く分からんから」
無理。断る!
ちぇ、と言いながら、元の場所に戻る。今回の実験でまた新しいことが分かったらしく、また職人たちで話し合いを始める。わたしの使う魔道具だから有難いんだけど、もう話が難しくなっちゃって、話に付いてけないんだよ。なんの話してんだか。
「ですよね。もうこんなもの、よくわかんないっていうか、よく作れますよねえ。」
なんか変なのもいるし。確か、ええと。新聞記者のフワンだったっけ。これが来てるから、顧問がどうとか言ってたのか。絶対やらんし。
無視していると、それはわたしから話を聞くのを諦めたようだ。それは何よりだが……
「すみません、私、新聞社のフワンと申します。今回の新製品について、少々お話しを――――」
そのまま職人たちが議論している輪に入り、シロネに話しかける。あ、危な――――――
口から声を出す間もなく、シロネに顔面を蹴られてしまった。
「うっせえな女!!話しかけてくんじゃねえよ!!」
シロネは倒れた新聞記者を一瞥もすることなく、また前を向き直す。あーあ……
シロネ、このプロジェクトで多少はましになったと思ったが、まだかなり気性が荒い。今のように何かに集中してる時は、シロネに話かけない方がいいのだ。
「祝子さーん。なんか教えてくださいよぉー。わたし、このままじゃ帰社できませんよぉ。」
フワンは鼻血を出しながら、わたしに近寄ってくる。わ、やめろ!血が服につく。それに、わたしは単なる依頼者だから、機械のことなんてわからんよ。あっちで頑張ってる職人たちに聞いて?
「あの様子で、聞けるわけないじゃないですかあ!わたしも、何か書けないと会社に帰れないんです。」
はあ。ノルマとかいうやつなのかな。わたしは二階層を攻略するためにこの道具が必要なだけの冒険者。技術的な話なんてできるわけないんだから……
「じゃあ、依頼者としての立場から答えてください!」
それでいいのかよ。でも、別に話すことなんてないぞ。
「祝子、ちょっと……」
そう押し問答をしていると、シロネが手招きしてくる。なんだろう。
「実験だ。祝子が依頼者だから、祝子がスイッチを入れてくれ。」
実験?なんでわたしが?まあ、いいか。ここのスイッチを入れればいいのね。ほいとな。
スイッチを入れると機械部分が光りながら動き出した。おお。これって、何が起きてるの?
「第一段階の起動だな。魔力の放出指示を出すための電子制御。上手くいくか……?」
そういえば、確か歯車などによる制御でなく、電子機構を用いてのものにしたらしいと聞いたが。上手くいくかな?
機械を前に待っていると、ランプに光がついた。
改めて仕様を説明してもらうと、この機械は三段階に分かれているらしい。一段階がさっきので、二段階、三段階とランプが並んでいる。なるほど。この残りの二つのランプが点灯すれば、成功というわけだね。
第一段階は成功したようだ。その次のランプがつくかどうかだが……?
それから少し待つと、無事にランプがつく。そして、程なく機械から四方八方に線が放たれた。おー。これが魔力か。【魔眼】で、魔力が見えるようになったから、よくわかる。
数秒ほどおいて……第三機構。
ランプが着くと同時に、モニターに点々と光が点いた。
お……これは。モニターの意味は分からないが、成功だ!
わっと周囲が沸く。実験成功ってこんなに盛り上がるんだ。
「これで、魔力源の位置が全てわかるようになったわけだな…」
はあ。これが、魔力……
って。実験成功、っていうか、完成じゃない!?これ。
このモニターの見方は、中心の点が自分で、そこを基準にして、平面的に、上から見てどこに何があるか見られるようになっているという。真ん中付近に四、五個固まった反応が存在するが、これがわたしたちだろうか。
つまり、これで完成というわけか。言ってよー。てっきり、普段やってるような普通の実験かと思っちゃったじゃん。
で、この魔道具。これはどこからどこまでが映ってるの?
「その状態だと、半径百メートル。描画距離を広げれば、半径五十キロまではできる。このメモリだ。」
このメモリを回すのね。ぐい。
そうすると、画像がばっと広がり、無数の点が現れる。えーと、どこがどこだろう。ここの点は際立って大きいが、つまり、ここがギルドなのかな。だとすると、確かに距離としては合致するな。
わたしがいじっているのを技術者たちが興味深そうに見ていたので、一旦席を離れた。そっちも弄りたいだろう。
「おめでとうございます!シロネさん!ぜひ、この商品を作り上げた感想についてお聞かせください!」
完成したのを見届けて、フワンが話しかけてきた。シロネがどうにかしろという目で見てくるが、こちらも嫌だ。シロネが会議している間、なんやかんや聞かれてうんざりなんだから。
「はいはい。うれしいうれしい。」
シロネは適当な様子で一応返事だけする。
「それは、「自国、殊にハムエルンのみの産業技術の活用により、これまで自国になかった革新的な魔道具を作成できたことを誇りに思う。これから、この魔道具がダンジョンや魔物討伐のみならず、その他様々な用途で活躍していくことを楽しみにしている」ということでいいですか?」
誘導尋問がすごいな。結構、記事に書けそうなそこそこのコメントをつけているが、大丈夫なのか。
「はいはい、そうでーす。」
ああ、いいんだ。というか、どうでもいいんだな。
「今後の商品展開について、どのような展望をお持ちでしょうか?」
「ああ、そんな感じ。いいよ。」
ああ、そんな適当でいいの?
「ふむ。端的に換言すると、「現状は、当店のみでの販売を行なっているが、将来的には当店以外の販路も検討している。希望する方は、当店までご連絡を。」ということでしょうか。」
明らかに恣意がないか?ちょっと、これ大丈夫なの?
「おーおー。うんうん。」
こいつ、聞いてないよ。
「引き続いて、取材に対する謝礼ですが、当新聞社に対して五万ゴールドの――――――」
やめ、やめ!絶対やめ!
シロネに任せてると、大変なことになっちゃう。面倒だけど、わたしがやってあげたほうが良さそうだ。




