二十七話 地に呻く太古の龍
後ろから、謎の物体を迫り来る……!
迫り来るそれを回避するも、わたしの後方にある木々をさらに薙ぎ倒して進んでいく。この甲冑が受けた攻撃はこれか……!
後ろから飛んできたのは、赤く光る火の玉。跡から察するに、最終的に、地面に衝突して炸裂。周囲にある木や地面を全て吹き飛ばし、大きい陥没を生じさせたようだ。
その火の玉は、これを端緒に次々と近くに降っていっている。まずい、さっきの火球を受けて皆がバラバラになってしまった。誰が無事で、誰が無事でないか全く分からない。状況はどうなっているんだ?
「――――“――“――!」
何かの声が聞こえ、こちら側の森林から火球が飛び出す。クアンドゥの魔法か?クアンドゥは無事だったか。他は?魔法は対象に当たったのか?相変わらず、周りの森林が邪魔をして状況が伺えない。
埒が明かないため、素早く木の上に登り周囲を見渡した。
火球の来る方向をみると、その方向の一角に、噴煙の漂っていて中がよく見えない部分がある。
あの中か。火球を撃ってきてるのは……
そっちの方から火球が飛んできて、付近の森に着弾する。
クアンドゥが魔法を使ったから、位置がばれて狙い撃ちされたようだ。無事かな。結局、上からだと森林の内部が見渡せず、味方の状況は伺えない。
火球はほどなくこちらにも来るに違いない。今いる木から、別の木へと飛び移る。少しずつ位置を変えて、火球を避けつつ、その化け物に近づく。
わたしを狙った火球は、わたしが元々居た木に次々と命中する。わたしの方がスピードが上回っているようだ。
近づくにつれ噴煙も薄くなり、中の者が見えそうになるが………
その瞬間、一際大きい火球が、わたしの頭上を飛び越えて後方に直撃する。様子を伺う間もなく、一帯の足場が大きく崩壊し、祝子は、崩落する土塊とともに、深い闇の底に落ちていった。
しばらく、土や岩の崩落が続いた後……
その次に祝子が目にしたのは、巨大な岩窟だった。
天井は、闇に溶けるほど高く、滑らかな岩肌がどこまでも続いている。天井に一片のみわたしたちが落ちてきたのだろう亀裂が白く輝いており、そこから太陽の光が若干辺りを照らしていた。
地面には複雑な紋様が現れており、また、一階層のような鍾乳石などの凹凸は少なく、非常にのっぺりとしている。壁のあちこちから溶岩が垂れてきており、この場所の光源はほぼそれらに依存している。
そして、最も注目すべきもの……顔面は鋭く細い輪郭をもち、長く伸びた顎には幾重もの鱗が張り合わされており、美しい幾何学的な模様を作っている。
眼窩は深く、そこにおさまっている双眸は、細く縦に裂いたかのような瞳孔が青い光を湛えていた。眼の周囲は、岩のような硬質さ、重厚さを窺わせる鱗が覆っており、その場にいるもの全てを凍らせる威圧感を漂わせていた。
また、顔から続く体は果てしなく長く、洞窟内を全て敷き詰めるように広がっていた。鱗は蛇のように小さく滑らかでありながら、一枚ごとに膨らんで微妙な膨らみを見せており、光を受けると黒曜石にも似たような鈍い艶を放つ。体の節々は筋肉の隆起でしなやかに波打ち、その筋力と柔軟性を窺わせた。
そう……龍。
祝子はこの洞窟で、龍と再び対峙していた。
龍が口を開くと、口の前で火球を形成する。あの亀と同じだ。龍……、か……。
火球は高速でわたしの方に飛んでくる。だが、来るところもわかっていて、この距離なら容易に回避できる。避けられた火球は、わたしの後方の地面に亀裂を入れて大きい陥没を作る。やはり威力は凄まじい。くらってはいけないな。
「祝子!」
あれは……パトラ!無事だったか。他は?
「クアンドゥ、ルビーともに生存しているが、負傷がある。いますぐには動けない。」
生きてた。よかった。
あとはマトウ。一連の流れからいって、あの龍に攫われたのだろう。
いるとすれば、あの龍の棲家、か。じゃあ行くか。
「祝子!やめろ!あれは龍だぞ!」
知ってる。ついこの間聞いたから。でも、やるしかないよ。怪我人がいたらここからは出れないし、マトウも助けないと。
火球の形成の軌道を見て、斜めに進んで回避する。火球だと思っていたが、どうやら溶岩なのかもしれない。赤熱しているがゆらめいている様子があまり無いし、黒い部分がいくらか見える。
わたしの真横に上から墜落し、岩盤を砕く。わたしの足元の部分にも亀裂が入り、少し足がとられた。くそ……あまりギリギリで避けるとまずいぞ。
あともうちょっと……百メートルほどで龍に接触できる!龍はとぐろを巻いていて、頭はかなりの高さに位置している。どうやって近づこうか……?
!
おっと……?
危ない。避けたと思ったが、足先が焦げてしまった。少しギリギリを攻めすぎたか。次は余裕を持って……!?
まずい!
この火球、直線じゃなくてちょっと曲がってきてる。わたしの方に。
眼前に溶岩の塊が迫る。もう避けている時間はない。両手を眼前で構え、腰を低くして、衝撃に備える。
そのまま、火球はわたしの手甲に当たる。まるでミサイルか何かが衝突したかのような衝撃が襲ってくるが、なんとか体勢を崩さずに、両手を眼前で構えたまま受け切れたようだ。両手は痺れているが、なんとかどこにも骨折は無い。
溶岩による炎によるダメージは、手甲や鎧で防ぎきれていて、前腕に火傷はない。足は少し焼けているようだが……
物理的な衝撃は大きい。腕も疲労しているし、二発目で同じことができる自信はないぞ。次はどうする。
次は……曲がるんだから、その分を計算して、少し逆方向に進めば……
そうしたら、今度は火球は曲がらずにまっすぐ進んだ。
やばい。当たる……!体ごと投げ出し、なんとか回避した。うぐ。直線でくる物もあれば、曲がる物もあるのか。まるでわたしと読み合いをしているよう。
今度はどうなる?この体勢では、読み間違えたら生死に直結するぞ。……今度こそ曲がらない。回避する!
龍の口の前に火球が形成され、わたしに迫る。わたしはそれを回避するべく、全力で走って……
そして振り返ると、わたしのことを追尾してくる。ああ、やばい。今度こそ………
そう、まさに当たると思った時、急激に火球が向きを変え、わたしのすぐ隣に落ちる。た、助かった。一体何があったんだ?
辺りを見渡すと、視界の隅にパトラの姿が見える。弓を構えているが、矢を番えていない。放ったあとか。少し離れた場所の地面に矢が刺さっている。
矢で軌道を変えた……?いや、こんな矢ごときで、こんな火球の軌道を変えられるとは思えない。
何か、秘密があるのか?
あるはずだ。探せ……!!こんな軽い矢で軌道を変えられる秘密が……
《 スキル【魔眼】の獲得を確認しました。》
そのアナウンスと同時に、今まで中空であったはずのところに、何か、妙なものが見える。
大気中に、並行に、あるいは交差するように、ジグザグに無数の糸が走っている。その糸は、龍の口部分で多く交差してするように角度が変わっていく。
これは一体……?
現実では今、龍の口部で火球が構成されている。そして、この線の多くは龍の口のあたりで交差している。あの火球のシステムに関係があるのか。
口から火球が離れ、わたしの方に向かう。あの線の形状……まるで火球のルート案内のようだ。綺麗な曲線を描いて、わたしの左方二十メートルほどに着弾する。
それを信用して動かずに静止していると、火球はその通りに動き、誰もいないところで炸裂した。
よし。
龍は、まるで軌道が最初からわかっているかのようなわたしの態度に困惑しているようだが、ほどなく次弾を形成し発射する。
うん。今度もしっかり分かる。今度は直線か。でも、それ以上も分かるぞ。軌道だけじゃなく、火球を支えている糸も分かる。ここだろ……。
《 スキル【魔眼】のレベルアップを確認しました。》
刀で糸を切断すると、火球は空中で爆散した。
これは魔法だ。魔法を使って、火の玉を形成しているんだ。この見えているものは魔力だな。構造がわかったわたしにはもう通用しない。
今度は明らかに動揺している。
だが、火球はまだ形成される。攻撃手段がこれしかないのか、これが現状最善だと判断したのか……
再び眼前に現れる火球だが、三回目に見るともっと精密にこの魔法の意図が分かる。自然に考えるなら、ここに置きたいだろ……
ここと、ここと、ここ。それにここ。
形から推測するに、順に、この火球について、形成すること、進ませること、速度を早めること、向きを指定することを司っている。
うまくいじってやろう。向きの糸を切ってやれば……
《 スキル【魔眼】のレベルアップを確認しました。》
プログラムがなくなり、どこに行けばいいかわからなくなったのだろう、火球は少しずつ速度を弱める。
その後、全力で火球に刀の峰をぶち当てる。
舵の無くなった火球にベクトルが加えられ、火球はそれまでと変わらぬ速度で龍の頭へ向けて飛んでいった。
突然の事だったからか、龍は無防備にそれを食らってしまった。龍の頭部周辺が全て噴煙に包まれる。しばし時がたち、噴煙から出てきた龍は、のけぞらせた頭を元の位置に戻し、咆哮する。
その顔には怒りが滲んでおり、頭部の鱗が焼け焦げている。わたしも受けたから分かるが、この火球は相当の速度と質量だ。無防備に受けて平気ですむようなものではない。
再び火球を放ってくるが、また同じこと。
ちょっと意地悪をしてやろう。さっきので、どこを切ればいいかはわかっている。一瞬で魔法回路を読み取り、該当部位を切りながら、全力で火球自体にも打ち込む。
超高速で、再び龍の顔面へ。先ほどの事態を受けて警戒はしていたが、先ほどとはテンポが違ったためまた食らってしまったようだな。
二撃目ともなると、相当なダメージになっている。龍は頭部を安定させられず、ふらついている。
さすがにわかっただろう。もうわたしに火球は通じないぞ。さて、どうする?
……また火球を放ってきた。同様に弾く……
が、対象の姿はもうそこには認められない。
蛇のような体をうねらせ、部屋の外周を回って移動していた。移動するにつれ、龍はどんどん加速していっている。
火球を目眩しにして、その隙に遠心力で加速するのか。サブウェポンとしてはよく考えられている。だが、
それなら元々望むところなんだよな。
窟を回るにつれ、龍はさらに加速していく。それによる風が突風となり、周囲全てを風切り音で支配するようになったとき、頭が祝子の正面から飛び込んできた。
鼻先から刃が進み、鼻筋、眉間、頭蓋………
竜の頭部はちょうど顔の真ん中で、真っ二つに分断され、その両の頭が一つずつ、わたしの後の岩壁へ衝突した。
《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》
ハフリ ユメ
職業【神巫】
Lv:17→19
HP130/130→140
MP130/130 →140
筋力:140 →150
魔力:130 →140
速度:130 →140
防御:130 →140
抵抗:130 →140
【スキル】
:【剣術】Lv.6 ▼【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1【木工】Lv.1【魔眼】Lv.3
その後、当初龍がとぐろを巻いていた場所からマトウが発見された。気絶しており数箇所を怪我しているが、命に別状はなさそうだ。
「龍は、古来からその身が武具に重宝されている。討伐部位だけじゃなく、適当に牙やらなんやら、剥ぎ取って行ったらどうだ?」
ううん、結構みんな怪我してるのに、申し訳ないが……
まあ、わたしも別に怪我してないわけじゃないし、みんな気絶してることだし、いいか。もらえるものはもらっておこう。
特に重要なのが、武器として牙。防具として鱗。薬として龍涎香だという。
龍涎香は多分小さいし、これを持っていくのがいいだろう。
えーと、これかな?
赤く透明な宝石のようなものが、眼球内に入っていた。一面妙な形をしているが、これは生物の体内にあったからだろうか。まあ、皆無事でよかった。




