二十六話 火山弾襲撃
……ここからここの距離が二百歩で……
……角度はおよそ三十度、……わたしの一歩は大体五十センチだから……
えーと、三十度の直角三角形の斜辺が百メートルのとき、高さは五十メートルで、横は五十√二メートル……えっと、大体七十メートル強かな?概算だけど。
だから、この地点からここまでの距離は七十メートルくらいで、標高差は五十メートル……これはあってんのかな?……
あ、どうも。今何やってんの?っていうと、測量。
一階層でマッピングの方法を学んだんだけど、この鬱蒼とした森の中で、あの方法で地図を作るのは不可能になってしまった。部屋というわかりやすい区切りもないし、どこにいても似たような景色だし。
それで。今回は別の方法で地図を作ろうと思って、歩数による測量を試してみてるの。ほら、これ……
直線で、一ヶ所から進んで行って。五十歩間隔で傾斜を計測していって、直線距離・高度を記録していた。
ただ、これはわたし考案ではなく、知り合いがやると言っているのを聞いて、参加してみたイベントだ。
そろそろ一旦合流して、情報を共有する時間なので戻ろう。地面にわかりやすいように目印を付けてっと。
「それじゃあ、各自作った地図を見せてってね。」
これが今回の計画の主催者、パトラ。他の国から来た学者で、職業は【測量師】。ダンジョンを研究するとか言っているやつで、学者でありながらなぜか戦闘もして攻略する狂人で、歩数で測量しようと言い出した奴もこいつだ。研究のため、高度や距離も含めた正確な地図が欲しいんだろう。
あの本にある、妙に細かい地図はもしかしておまえが?と聞いてみたが、どうやらこういう狂人は一人ではないらしい。むむむ。理解に苦しむね。魔物に遭遇する確率の高い場所で、こんな測量なんて……
それと、オクノウサギや、それに限らず個人で対処困難な魔物が出たら、各自に配布した信号弾を使う。遭遇した時点で測量団全員で集合し、全員で対処するなり、撤退なり、いずれにせよどうにかなるそうだ。
以前まで、パーティが組めない組めないと騒いでいたわたしが、どうしてこんなパーティに入っているかというと、理由がある。
ちらっと隣の方を見る。
渋そうな顔をしているルビー。いやあ、こないだ「先に行ってる」って言ってたのは、二階にいるってことだったんだな。
ルビーとこのパトラはパーティを組んでいるらしく、お互いその実力はよーく分かっている。それで、このルビーをいとも簡単に倒したやつがいると聞いて、このパーティに誘ったのだとか。そう。この人のおかげなんですね。
「ああもう!あんまりこっちをみるな!」
ルビーは【職人】。戦闘専門職じゃあないんだから、わたしに負けても恥ずかしくないのにね。
わたしは、全員の地図を写し終わったので、元の人に返す。あ、これは、まだ写してない人がいるのね。どれどれ……
「こっちこっち。ありがとー。」
これが、前衛のマトウ。全身鎧を着込んでいる。【騎士】だって。
「祝子の地図、綺麗で助かるよ。」
こいつがクアンドゥ。【魔術師】。今回のパーティは、わたしを含めて五人で組んでいます。
ふふふ。わたしは【地図作成】を持ってるからね。素人よりかは上手だと思うよ。
しかし、いつもこんなことやってるの?えーと、ルビーたちのパーティでしょ?
「いや?違う。というか、わたしのパーティでもない。ここはパトラが独自で集めた測量用のパーティだ。」
あれ?そうだっけ。パトラとルビーはパーティを組んでいるんじゃ?
「常にパーティを組んでるわけじゃない。というか、パトラのことを知らないのか?」
「私は、未踏域とか複雑すぎて地図に全て書き切れてないところに入る時とか、そういうとこで困ってるパーティにピンポイントで入るんだよ。実際、資料室にもう地図があるところを測量してもしょうがないし。それに、戦闘専用職には敵わないからな。」
そうなんだ。ピンポイント参加とかってあるんだね。初めて知ったよ。
わたしもパーティに感知系のスキルを持った冒険者が欲しいんだけど、空いてる人いないかなー。
「感知系は【測量師】とは別で、常に必要だから、常駐が多いだろうね。パーティメンバーが欲しければ、新人でもヘッドハントしてくれば。」
うーん。二階での戦闘に耐えられるくらいに強く、自分で育成しなきゃなんでしょ?めんどいなあ。
「そういえば祝子って、役割はなんだっけ。」
わたしは、【神巫】だって書いてある。確か、前にも話したことがあると思うけど……
「それ、やっぱり聞いたことがないんだよね。そんな役割。祝子は前衛?後衛?
そんなあ。上海にも聞いたけど、知らないって言われたし。
前衛後衛かあ……多分、後衛ではないと思う。遠距離攻撃の手段が一つもないから。でも、わたしのステータスって、全部同じなんだよね。サンドロメアのネックレスで上がった分を除いて……
「そうか、祝子はパーティを組まないから、前衛も後衛もないのか。強いて言えば中衛?」
中衛……確かに、わたしの間合いはやや広いからな。それがいいかもしれん。
よし、休憩終わり。また、始めますかあ。
一度、みんなで一定地域まで進んで、ある地点に基準値となる杭を打ち、そこから散開していく。
わたしも進もう。
しばらく進んでいくと、近くの茂みから妙な気配がする。
オクノウサギではありませんように………
オクノウサギだったらと、信号弾をすぐに打てるようにしておく。距離を置いて茂みを注視すると、茂みからのっそりと黒塊が出てきた。
わたしがいることは、でてくる前から分かっていたようで、出てくるや否や、立ち上がって咆哮を放つ。
直立した高さはおよそ三メートルか。このサイズ、そして黒い体表、熊のような容姿。アクトゥス、だったか。ここで発見された中では単体戦闘力最強クラスの魔物で、高レベルのパワー、スピードを兼ね備えた化け物、だとか書いてあったかな。
万全でなければ戦闘は避けるように、万全でもできるなら避けろと言われているが、わたしなら別だ。
突っ込んでくるアクトゥスの正面から刀を振ると、熊の額に直撃し、そのまま鍔迫り合いとなる。
アクトゥスの額は少しは切れているようだが、真っ二つというわけには行かないようだ。
ううん、【闘気】付きなのに切れないか。ならば……。
刀の位置をそのままに保って少し前進し、アクトゥスの腹を渾身の力を込めて蹴る。
大したダメージはないようだが、少し怯んだ。鍔迫り合いの状況ではなくなったため、アクトゥスには行動の自由があるがわたしと距離が近く、助走をとることができないので、突進ではなくわたしに爪を突き立てんと腕を構える。
そこで懐に潜り込み、下から上に向かって切り付ける。
顎から刃が入り込み、顔が取れるような形で頭が真っ二つになった。
《 ハフリ ユメ のレベルアップを確認しました。》
ハフリ ユメ
職業【神巫】
Lv:16→17
HP125/125→130
MP125/125 →130
筋力:135 →140
魔力:125 →130
速度:125 →130
防御:125 →130
抵抗:125 →130
【スキル】
:【剣術】Lv.6 ▼【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1【木工】Lv.1
うーん。楽勝!
額は堅かったが、それ以外は特に苦戦する要素はなかった。わたしがパワーアップしたのもあるが、サメと大差はなかったな。
地図を測量してギルドに提出すると、いくらかのお金がもらえることになっている。今回のパーティの報酬はそれを山分けすることになるが、それ以外に関しては別計算なので、こういう風に魔物が出たら、狩っておいて損はないんだよな。
まあ、暇気味だけど、お金は稼げるし。経験値も一階より格段に割りがいいし、それに安全。こういうのがあったら積極的に参加していこう。
しかし、さっきから変な音が聞こえるな。ばーん、みたいな。なんの音だろう?
「……来ないね。」
二回目の測量を終え、もとの地点に戻ってきたが……。もうすぐ約束の時間を十分も過ぎる。危機を知らせるための発煙筒も発動してないから、ただ忘れてるだけかもしれないが……
「マトウが来ない。なんかあったのか?探しに……」
「放っておかない?マトウでしょ?あの性格。絶対忘れてるだけだよ。それにほっといても死ぬようなやつじゃないし……」
意見が割れている。不安だけど、マトウの性格評に関しては同意だ。
割れている意見を一括するように、パトラが口を開く。
「うん、一人がいないうちに進めるとずれが怖いし……それに、こっちのパーティに前衛職がいなくなる。確か、祝子は中衛型のステータスだったよね。」
そうだね。よくわからないけど、前衛がわたしだけって不安かも……
マトウが測量している方に行ってみよう。
しばらく進むと、杭がちょっと変なところに刺してあるのが見えた。パトラから、再三位置について注意を受けただろうが……それに、ちょっと斜めだし。マトウって、そういうとこあるよな。パトラが、通りすがりに直していっている。
さて、もっと進んで、二個目も発見できた。これは、〜〜、……まあギリ直さなくていいか?
「ここに杭を刺してから、戻ろうとしたのかな?ただ……」
直しながら言っている。ダメだったか。
「先に進んで行ってる痕跡がある。もっと測量しようと考えたみたいだね?」
先の方の道に生えている木の枝が、数本折れている。これ、単に忘れてるだけじゃない?多分、二と一を数え間違えて、一個奥に行ったんでしょう。
「一応、痕跡を辿って先に行ってみよう。まあどうせ、彼女の地図がもらえないと、私たちの地図も完成しないから……」
まあ、一応ね。
うん?この道、何?滑るけど。
道を見ると、黒く焼けこげた跡が見える。わたしの足にも焦げが少しついてしまったようだ。洗えば取れるかな。
「なんか焦げ臭い。近くに冒険者がいるのかな。」
多分ここ。足元が焦げてて、靴が汚れるよ。誰かがここで野営でもしたのかな。道の真ん中でそんなこと、よしてほしいが。
「見て、ここ。」
そこを見ると、金属片が落ちていた。
パトラがそれを拾って裏返すと、片の内部にところどころ血がついている。
「これは……」
まだ新しい。もしかして、マトウの金属鎧のどこかだろうか。
完全に油断していたけど、実は魔物に襲われていたらしい。しかも、信号弾を撃つような暇すらなかったと。相当強力な魔物に襲われたのか……?
金属片は大きく形が歪んでいる。どうだろう。この形は……
「ううん、どうだか……あんまり、動物の手でできそうな感じじゃあないよね…」
確かに。爪や牙で傷つけられたような様子はない。強い力で引っ張ったり、押されたりというのは直感と異なる。
「マトウの甲冑は上等の魔鉄鋼製で、この階層の水準から言っても高水準だ。ここに、そう易々とこんなに変形させられるような魔物は……」
確かにな。謎が深まる。
さて、どうしよう。一応周囲を捜索したが、あたりに痕跡は一切なかった。道の部分に少し足跡らしきものはあったが、足場が乱れていて見えない。
もし食われたりしたんだったら、もっと血痕があってもいいだろうし、ここでは更なる負傷はせずにどこかに逃れたのだろう。生きてる可能性はあると思うけど、手がかりはないし……
どうしよう?
「とりあえずここは、その魔物がまたすぐ出るかもしれない。適当に書き置きをしておいて、集合場所へ戻ろう。もしかしたらマトウが命からがら逃げ出して、集合場所に戻っているかもしれないし。」
確かにそうだ。まず探す手掛かりが無いから、そこを考えないと。
戻っていると、また変な音がした。……さっきも聞いた、あの音。
この音も、もしかして何か関係があるのか。ちょっと周りにも聞いてみよう。
「確かに聞こえる。さっきというのは聞こえなかったが、今は……まただ。何度か鳴っているよな。」
「何だろう、この音。爆発……?」
爆発音……?話しているうちにもまた何度か聞こえる。だんだん大きくなってきており、今、ちょっと会話が怪しくなってきている。
歩いている途中、パトラが突然足を止めた。
わたしたちの目の前に、ぽっかりと巨大な穴が……
来た時、このような穴は絶対になかった。何か、間違いなく異常なことが起こっている
「祝子、後ろに……!」
剣を構えて後ろを向くと、すぐにそこからものすごい速度で何かが飛び出してきた。




