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二十話 泥人形と愉快犯



 二階層に突入してから、周りを探知する魔道具を作るまでは、と二階層に入るのは遠慮しているわけだが、それに加えてわたしの方も強くなる必要がある。このままじゃ、二階層に行っても、そこの魔物に歯が立たない可能性もあるしな。


 レベルは魔物を倒せば上がる。ずっと倒してきてるし、今よりもらえる経験値を上げるのは難しい。もっと他のアプローチを考えたいよな。


 それで、今までずっと刀を使ってきたけど、これには当然【剣術】が適用されるはずだ。というわけで、【剣術】をあげてみよう。


 今まで【剣術】がどういうときに上がったか思い出すと、ダンジョンで戦闘しているときがまず思い浮かぶ。多分、使い続けてると上がるのは間違い無いのだろう。でも、剣術で想像すると、道場で素振りとか、型とかやってるイメージがあるから、そんな感じでやったらもっと効率がいいかもしれないよね。


 誰か知ってる人いないかなー。わたしの知り合いは、みんな剣は使ってないから、それを聞くのは難しいかもしれない。


 ねえ。なんか教えてくれるところとかないかな?キララ。


「ふーむ。確かにここでスキルについて教えてくれるところはないな。知り合いに、剣を使っているやつ、かあ。」


 居なさそう。うーん。こういうのって、誰に聞いたらわかんだろうねえ。


「おや、祝子さん。どうしたんですか?」 


 上海?


 単に事務処理でここのギルドに寄っただけらしいが、そんな彼女にわたしの近況を話してみると、とても都合の良い提案をしてくれた。

 

 「祝子さん、ダンジョンを攻略できているんですね。しかも……。そんな事情なのでしたら、私が教えましょう。確か、地下にあれを作っていたので、そこで。」


 と、いうことだ。上海は高名な冒険者らしいから、願ってもない。上海について行って、教えてもらうことにした。ここに地下があったのか。行ったことなかったな。


 地下に入ると、まず横に長い広場と、そこに面する形になる扉がいくつも設置されている。そこの扉を開けると、砂場のような足場の広場が広がっている。ちらほらと用具のようなものも見えていて、体育館みたいな場所だろうか。


 「ここは、ギルド内運動場です。ギルド所属の冒険者が、自分の能力を確かめるための場所として作りました。ほとんど使われてないらしいんですが……」


 確かに、ここの話は聞いたことがない。グラントからもヒトカからもそんな話、聞いたことないから、実際あんま使われてないんだろうな。

 

 上海は、ごほん、と咳払いをして、説明に入る。

 

 「スキルというのは、動作・成果を補助する能力です。これが上がると、威力、精密性などそれに関する全ての能力が上がります。ものによっては全く別に見えるような概念を会得することもできますが、まあそれは詳しくなってしまうので……」


 そこまではわたしの理解と一緒だ。全く別の概念というのは、【闘気】とかだな。

 

 「スキルの上げ方についてはかなり複雑で、完全には理解が及んでいません。ただ、上げるための効率についての考察はいくつか存在します。代表的なものは「性質」ですね。」

 

 「「性質」とは、スキルの経験値を得るための挙動の性質のことです。おおまかに分けると「実戦」と「練習」でしょうか。例えば実戦、魔物との戦闘のみで【剣術】のスキルのレベル上げをすると、個人の資質にも左右されますが、おそらくレベル七程度でストップします。」


 ストップする……。普通のレベル上げとは違うな。

 

 「それでもじわっと経験値は溜まっていくようで、極めて長い時間をかければレベルは上がりますがね。」


 「対照的に、練習のみでレベルアップさせると、レベルが上がるのは遅くなりますが、ほとんど等速で上がっていき、どこかで止まることはなくなります。実際に、練習のみで極まった部分まで到達した例はないのでわかりませんが……」


 ふむ。つまり?

 

 「実戦と練習で二つに分けましたが、これら両方を同時にこなすことで、両者のデメリットが克服できます。適切なバランスで行えば、実戦でレベルが止まった時、練習であげられますし、レベルの上がりが遅ければ、実戦に挑めばいい。聞いたところによると、祝子さんはここに来てダンジョンに潜ってばかりということで、実戦の経験は足りていても、練習の経験がたりていないのでしょう。」


 なるほど。で、それは……


 「わたしは、ずっとここにはいられませんし、これからあなたに教えることもないでしょうから、教えるポイントは二つに抑えます。練習として代表的なもので、「素振り」と「型練習」です。」

 

 素振りと、型……


 素振りにはあまりワクワクしないが、型には結構興味がある。素振りをさっと終わらせて、型に行こう。


 

 「一から十まで全て教えることは難しいですが、軽く触りだけ教えます。そのあとは本など読んで自分で勉強してください。」


 はい!



 「と、その前に、まずこれをやってみてください。」


 上海が指をさしているのが、ずっとこの広場にあった、黒い物。なんだろうとはずっと思っていたけど。


「特注のデコイです。これは特別製の金属を使用していて、非常に頑丈なほか、衝撃感知システムによって攻撃の威力を確かめることができるのです。いろんな攻撃に対応していまして、たとえば斬撃でしたら、この特殊な加工をなされた剣を使うことによって当たった面にかかる力を計測できます。」


 ほー…変なロゴがついている剣を渡される。これで切ってみろと。


 いいのかい?壊しちゃうよ。わたし、意外と強いんだぞ。


 ぎゅっと剣の柄を握り、【闘気】を放つ。剣は黄金のオーラを纏い、凄まじい勢いでデコイへ向かっていく。


 剣とデコイが接触すると、凄まじい衝撃音が鳴った。

 

 デコイの方の結果はというと、多少ゆらゆらと揺れて、頂点部が凹んではいるが、全くの無事。その凹みも、すぐに元に戻ってしまった。

 

 あれえ?おかしいな。わたしは魔物も木も両断できるはずなんだけど。こんなデコイ一つ壊せないはずが……


「特殊な金属でできてますので、普通の冒険者ではいくら力を込めたところで傷一つつきません。ほら、威力値が出ましたよ。」


 デコイ全面に付けられているモニターに数値が映る。3500wm……?

 

 「……確か、Fランク冒険者の平均値は1000wmとかだったと思いますから、相当いい方でしょう。筋力から想定するに、【剣術】はレベル5といったところでしょうか。【闘気】も発動していましたから。」


 おー、当たってる。それに、【闘気】の事も知ってる。まあ当たり前か。


 「それでは始めましょうか。まず、素振りから。刀を持って……」

 

 はい!



 


 ……


 「握りが甘いです。やり直し。」


 「重心が浮いています。もっと腰を落として。」


 「呼吸が汚いです。現場でそれをしたら死にますよ。」


  ちょ……ちょっと待って……。息が切れてるのは、もう体力がないからで……


  きゅ…休憩を……


 「普段の鍛錬で限界を超える練習をすることで、いざとなった時いつもより大きい力が出せます。ですので…さあ、早く。」


  思ったよりスパルタだ。やばい、殺される……


 「一!」


  ヒイイ……






 

 「そう。まあ――少し良くなりましたね。意外と時間を食ってしまって、もう型は無理そうですが、素振りだけでも「練習」分の経験値は積めたんじゃないでしょうか。最後にもう一度、振ってみましょう。」


 うう……一向に辞めさせてくれないし、一回振るごとに、水が湧いてくるみたいに指摘が飛んでくる。上海もやっぱり、仕事の時はこうなるんだな。


 再度デコイを叩くよう指示される。さっきと比べて、形は良くなっただろうけど、こんなに疲れちゃあなあ。

 

 教えてもらった通りに構えて振ってみる。さっきと同じく、デコイは無事だ。しかし、さっきとは風情の違う、骨の入った轟音が周囲に響き渡る。


 おろ?意外と手応えは悪くない。


 モニタを確認すると、4500wm。さっきより1000も上がっている。


《 スキル【剣術】のレベルアップを確認しました。》

 

 今ので、【剣術】も上がったらしい。

 

「そう。型通りに丁寧にやった方が、力まかせの一見力強く見えるフォームより結果が出るんです。しかも、燃費もずっといい。まあ、まだ修正点はありますが。」


 ふーん。覚えとこ。


 「さて、これにて終わりです。ほかに何か聞きたいことはありますか?」


 あ、はーい。


 そうそう。前、ステータスについて聞けなかったから、ちょっと聞きたかった。この役割、っていう欄とか。

 

 「役割というのは、各人に生まれつき備えられたものですね。ステータスの補正とか、魔法やスキルの適正、付与とかがそれによって着くんです。例ですと、わたしは【巫女】なんですが、これは全てにマイナスの補正がつかず、オールラウンダー的な役割と言われてますね。ちょっと光魔法に適性があると思われてます。」


 へえー。わたしのは?【神巫】。


 「【神巫】?……聞いたことがないですね……。スキルとか、ステータスは……」


 ステータスは、素だと全部ピッタリ同じ。スキルは、最初は【剣術】と、【経験値アップ】というのが有ったよ。あとは【地図作成】とか……


「うーん……知らないですね……。【巫女】に近そうですが、そんなピッタリでもありませんし、何より【経験値アップ】というのは聞いたことがありません。」


 うむむ。わたしの職業は謎が深いな……



 

 


 ところで、わたしにこんなに教えてるけど、上海がこれをやったらどうなるの?例を見せてよ。


「え?まあ、やってもいいですが……」


 不安なのか、振る前にあちこち歩き回っている。


 いやあ、立場が逆になったようで、実に楽しい。


 デコイの方と、こっちとで行ったりきたりしたあと、上海は真ん中の手で剣を持ち、上段に構える。


 わたしはそれを後ろから見ているだけだったが、その姿が、一瞬石像のように見えた。静かで、整っている構え。


 そして、それと同時に、巨大な機械にも幻視した。プレス機のような、巨大なエネルギーを秘める何かが見えたのだ。静かで整っているというのとは矛盾しているようだが、確かにわたしにはそう見えた。

 

 ふと、静寂を切り裂くように、上海は剣を振り下ろす。

 

 そのモーションによる凄まじい風圧は、少し離れて観察しているわたしにも暴風として感じられるが、その後の直撃の音により、それは全て打ち消された。


 それは、人間の手により生じるとは到底思えない音……


 例えるなら、10tトラック同士が、全力で走ってぶつかったかのような。あるいは、高層ビルが根元からポッキリ折れ、地面へと倒壊したかのような。彗星大の隕石が、目の前一センチに落ちたかのような………


 わたしは完全に圧倒されてしまい、尻餅をついて倒れてしまった。


 あまりの衝撃に、しばし呆然とし、正気を失う。曖昧な意識の中で何か、金属がガチャガチャとぶつかり合っている音をしばらく聴くことで、ようやく意識を取り戻すことができた。




 す、凄まじかった。いやあ、人を舐めちゃあかんね。身の程はわきまえないと。


 わたしが呆けてたのはともかくとして、上海は何をやってるんだろう。さっきの場所で何かを弄っているようだが……


 わたしが様子を伺いに行くと、上海は振り返った。

 

「ど……どうしましょう……祝子さん、機械には詳しいですか?」

 

 先ほどのデコイが、全てのパーツを分離されて壊れていた。しかも外壁も大変な力で引きちぎられたかのように変形している。


 うわ、わたしの力ではどうやっても壊れなかったのに、こんなにあっけなく……


 「ちゃんとちょうどいいくらいに抑えたのに、なぜ……。また、備品の買い直し、ですか……」


 やる前に不安がってたのって、これが自分の力に耐えられるか、ってことだったんだ。まさか破壊するとは……

 

 あの、これはどれくらいまで測れるんでしょうか?


「え、えーっと。一応余裕をもってBランクの計測平均値の1000000wmまでは測れるようになっています。ちょっとあの。ギルドの方に話してきますので、これで切り上げということで」


 そう言うと、そそくさと一階まで戻って行ってしまった。

 

 恐ろしい。わたしも、そろそろ上海さんって呼んだ方がいいかな。

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