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二話 未知との遭遇

二話


「大丈夫ですか?それは」


 六本腕の女が、腕のうちの一本を使って私の足元を指さしている。


 一瞬何を言われたのかわからなかったが、そう言われて体を見ると、足が傷だらけになっている。走ってきた道の石や木の枝が無数に刺さっていたのだ。


 考えてみると普通のことだ。わたしは今まで、素足でそこらへんの自然の道を歩いていたのだから。


 命の危機だったから、そちらに注意が行っていて気が付かなかった。自分の足が傷ついていることを指摘された直後、足から激痛が走る。長い距離を走った疲労もあり、目の前の化け物も忘れてその場に座り込んでしまった。


 「大丈夫ですか?立てますか?」


 とてもじゃないがもう立てない。無言で首を振ると、腕のうちの二本を使って私のことを抱き上げて運んで行った。


 さっきはつい悲鳴を上げてしまったが、この人、もしかして悪い人ではないのだろうか。


 見ず知らずのわたしのことを気にして、このように助けてくれる。件の悲鳴を上げられても、特に気にした様子もない。 


 わたしは、抱き上げられているうちに、この六本腕の女のことを観察することにした。


 体長はさっき見た通り、私の二倍ほど……三メートル後半はあるか?この抱き上げられている場所ですら高くて怖い。声はやや低いが、体型と顔立ちから言って、間違いなく女だろう。最初にも見たが、奇妙な目をしている。虹彩は白くて、瞳孔は細長い。人間の目の構造ではないような……


「何かありましたか?」


 慌てて否定する。顔を見すぎたようだ。あんまり妙なことはしないようにしよう。 

 百メートルほど歩くと、周りの建物と比較して一回り大きく豪華な建物についた。


 六本腕の女は、躊躇いなく中に入る。中は、木でできたホテルのロビーのようになっていた。壁の高いところには大きいトカゲの首が飾っており、横に受付のようなカウンターあった。前には小さい机・椅子が幾つかあり、休憩所か、談話室のような感じだろうか。その前には張り紙が幾つかある。


 何の部屋なのか、全く見当もつかない。ただ、ちょっとだけ公共施設って感じだな。


「おはよーございます。上海さん……?だれですか?その人」


「この近くで困っていた方です。足を治してあげてください。」


 この人は上海と言うらしい。ここでは偉い人なんだろうか?手当てをしてくれると言うので、ありがたくしてもらうことにした。


 受付をしていた女の人が、道具をいくらかもってくる。わたしの足を見てびっくりしていた。わたしも、よく走れたと思うよ。


 持ってきたボトルから水を出して傷口を洗い、小さい木の棒を足に当てた。民間医療の呪いか何かだろうか。


 木の棒は、先端から膨らむように桃色に発光した。光がわたしの傷跡にあたってから数秒して、傷口が内側から肉が盛り上がって、数秒で全ての組織を補い、跡もわからなくなった。


 足の痛みはスッと消えてしまい、足の指を動かしても、なんの違和感もない。すごい。魔法?


 「魔法だよー。賦活魔法。まあ、変な魔法だから、見慣れないかも。」

 

 魔法!?


 いろいろありすぎて忘れていたが、そうだ。こんなこと、あり得ない。


 わたしは、別のところに来てしまったんだ。それも、単に空間的に遠い、というよりももっと、全く次元の違う場所に……


 ここは一体どこなんだろう。聞いたら教えてくれるかな……


 あ!それと……


 目の前の女の人を見ると、普通に手は二本だ。さすがに、この世界の普通は六本腕ではないらしい。


 「腕?ああ、上海さんが珍しいの?多腕の人、確かにここら辺にはいないですよね。ねー。」


 そんな、日常茶飯事みたいに。

 

 「最近だと、一つの街に一人くらいはいてもおかしくないくらいくらいには増えましたけど、まだまだ知らない人も多いかと思います。」


 当人が直々に教えてくれた。一般に広く知られているのか。教科書に載ったりしてるのかな。

 

 しかし、どうしたものか...もうわたしは知らないところに来ちゃったっていうのはわかったよ。もう覚悟した。遅いけど。今後……まず、ここはどこなのか、というところから……

 

 「その人、…ええ、誰でしたか。」


 上海がわたしに話しかけようとしているようだ。そういえば名乗っていなかった。


 改めて上海と…


 「わたしたちは、こっちは上海さんで、わたしはメムだよ。」


 メムに自己紹介した。


 「祝子さんは、どこからきたのですか?」


 正直に話していいものか?信じてもらえるかは分からないが……

 とりあえず、異世界のことは伏せて、拉致されて、今はどこからきたのか、どこにいるのかも分からない、と説明した。


 「そうですか……まだお若いのに、それは気の毒でしたね。とりあえず、ここの周辺について説明しておきましょうか?」


 よかった。ありがたく聞いておこう。


 ここは、カインゼル王国という国の東端にあるハムエルンという土地らしい。特にこれといった特徴はないが、カブが特産品で、農業が盛んだと。


 で、つい最近、ここにダンジョンが発生した。ダンジョンというのは、一説には地下に溜まり込んだ魔力が漏れ出しているほらあなとも言われてる場所で、中には魔物と言われている怪物が大量にいるらしい。


 放置していると魔物が溢れて地上に出てきてしまって、市民に害を及ぼすということで、上海たち、冒険者がやってきたとのこと。


 冒険者とは、その魔物の討伐など、戦闘を生業としている集団で、今回のように魔物が大量発生するなどの事情があった場合は新しく冒険者派遣組織、「ギルド」を設置するのだ。加えてダンジョンからは有用なものが掘りだせることもあり、それ抜きにしても冒険者を歓迎する向きもあるのだと。


 ここがその「ギルド」だそうだ。


 ……わたしがダンジョンのことを知っている前提で話すから、わけもわからず話が進んで大変だった。一回一回止めて聞いて、ようやくわたしが咀嚼して飲み込める情報になったが。


 ダンジョンかあ。わたしがここで生活するためには、ここに潜るのが最適解になるのかな。


 

 「冒険者は民間からもたくさん受け入れています。ある程度の手続きを踏んでもらえれば討伐への参加も自由、有望なものは正規の冒険者に取り立てることもありますが……」


 わたしのことをしたから上に見渡すが……


 「やめた方がいいでしょうね。死んだらもともこもないですから」


 まあ、そんな化け物と張り合えるとはわたしもあまり思わないよ。

 

 そうすると、張り紙をあさり、いくつかの紙を取り出してきた。


「薬草採取 難易度F 未経験者可」

「下水道掃除 難易度E 未経験者可」

「店番 難易度F だれでも」


「こういう力のいらないお仕事をこなしていただければと思います。多分暮らしていくだけなら困らないでしょう」



……嫌!

どうにか冒険者として暮らしていけないものか。どういう人なら冒険者になれるんだろうか?何か抜け道がないものか…そこを聞いてみた。


「…止めはしませんが、多くの人はステータスでどうするかを決めるでしょうね」



 ステータス?

 念じれば出るらしいが。




出ろ!……えーともう一回、出ろ!!


ハフリ ユメ

役割【神巫】

Lv:1

HP50/50

MP50/50

筋力:50

魔力:50

速度:50

防御:50

抵抗力:50

【スキル】

:【剣術】Lv.1【経験値アップ】Lv.1

 

 うわ出た。目の前にホログラムのように浮き上がってみえる。


 「これも知らないんですね?ステータスというのは、自分の能力を簡単に示したり、見たりできるものです。」


 それはパッと見でわかるよ。


 この、【スキル】とか、っていうのは。


 「それはですね。……何ですか?」


 メムが時計を指さしている。


 「お話の途中で悪いですけど、そろそろやばい時間かもですよ。私も行くんで、準備して待ってたんですけど……」


 上海はそれを聞いて焦りだす。全く忘れてしまっていたんだろう。


 「あああ、えーと、メム、鞄はありますか。それと……」


 バタバタと準備をし始める。腕が六本あって絡まないのかと思っていたが、どうやらちょこちょこ絡むらしい。


 「あ。えーと、祝子さん。大変でしたでしょうから、数日間はギルド内の寮にいて構いません。あとは、そこのギルド員に説明してもらってください。それでは。」


 急いで出ていってしまった。メムも引き続いて出ていってしまったが、去り際に、


 「祝子ちゃん、今後大変だと思うから、少ないけどこれ……」


 といって、紙幣を数枚ほどくれた。


 上海といいメムといい、優しいな。ありがたくいただこう。

 

 その後、ギルド員に案内してもらって、ギルド内の宿についた。


「ここがギルド社員用の宿直室だよ。シャワー室は部屋に備え付けで、食事は食堂に行ったらもらえるよ。このゲスト用のキーがあれば受け取れるんで、そうしてね。」


 


 わたしの泊まる予定の部屋は大体4畳くらいで、机とベッド、ユニットバスが併設のようだ。部屋に入って、ベッドに座って今後について考えようとしたが、疲れてたんだろうか、そのまま寝てしまった。

 

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