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十九話 岩漿眩い地の底から


 わたしは、シロネの魔道具製作に協力することになった。


 魔道具を作る上で最も大切なのは、通常の魔法で、個人がコントロールするところを代わりに機構で再現するというところらしい。大気中か、あるいは自分の脳内、体内で魔力を組み上げて魔法を発動させるところを、代わりに物理的な回路を組むか何かをして擬似的に再現するのだとか。


 魔力の伝導は電気によく類似していて、金属、特に金や銅などの貴金属類が重宝されるそうだ。銅はここでも比較的安価だから家にあるそうだが……


「ここには、()()()がありません。」


 バッテリーや電池などから銅線を伝わって電球をつけるように、魔力を貯蓄して、放出できるものが必要。そしてそれは、安価で普及なんてするわけのないもので、しかも市場にも出回っていないらしい。


 その用途で魔道具作りによく使われるのが、ダンジョン内で稀に産生される鉱石、魔結晶。ダンジョンかどうかに関わらず魔力のふんだんな場所で生成され、魔力をその身に閉じ込めることができるとか。


「つまり、それを取ってきてください。依頼料は、全額お前が探査機に支払う予定の金と相殺、みたいな感じで……」


 はいよ。

 

 ダンジョンの事典で調べると、魔結晶は結晶構造で、仄かに内部が青色に光っているらしい。岩窟タイプのダンジョンの岩壁などに発見されることが多いが、当ダンジョンでの発見報告があるかは不明、と。というかこの辞書の発行年度が古く、まだこのダンジョンがなかった頃に作られたんだろう。


 あるにしてもないにしても、とにかく行ってみよう!






 石を見つけたいーって時は、漫画でも何でも、石を掘るものだろう。やってみよう。一階の適当な場所をチョイスして、ツルハシで床を掘りはじめる。この床、硬いな。


 一時間ほどほじくり続け、地面に目に見えた陥没ができてしまった。これ以上やったら、ちょっと迷惑か。やめよう。




 

 場所を変えよう。



 鉱山といえば、火山。マグマが冷えると鉱脈になるとかなんとか聞いたことがあるし。


 火山、マグマといえば深いところにあるよな。確か、水辺は結構深いところにあったような気がする。


 そこに行ってみようか。





 水辺に行ってみる。ふむ。


 今日はサメはいるのかな。上から覗いてみると、黒く濁ったような大きい影が。おーいるいる。そしたら、リベンジ行ってみようじゃん。


 そこらへんにある石を拾って投げつけると、出た波紋をきっかけにわたしに気がついたようだ。水中から一気に陸上へ飛び出してくる。


 激しい飛沫をあげながら、陸上に着地した。相変わらず逞しい両脚で、着地の際には地面が揺れているかのようだ。

 

 勢いをそのままに噛みついてくるから、わたしも負けじと刀でサメの口に切り掛かる。前と同じだが、今回は【闘気】付きだ。


 わたしの刀とサメの歯が衝突する。けたたましい量の金属音が鳴り響き、周囲にこだました。


 わたしの刃と衝突したサメの歯が、音を立てて割れる。その衝撃から、数歩よろめきながら後ろに下がる。


 わたしの刀の勝ちだ。

 

 サメはまだよろめいているので、この機に、懐に潜り込んで、顔を切り上げる。

 

 下顎が大きく真っ二つに分かれ、断面が見えるほどとなった。そこから大量の体液が噴出し、地面に流れ落ちる。


 おそらくまだ致命傷では無いだろう。トドメをささんと向かってくるわたしに、サメは息も絶え絶えと言った様子で、最後の足掻きと言わんばかりに襲いかかってくる。


 そんなサメに正面から向かいたち、頭蓋から縦にさらに分ける。


 


 




 ふふ。あの金色のオーラ、かなり使えるな。以前は刃も通らなかったサメの体をこうも易々と、……。あのミノタウロスも、今戦ったら簡単に倒せんじゃないか?





 さー、本題。


 ここは、湖のようになっているところに、上から川が流れ込むという形になっている。


 こっち側の岸にはさらなる道はないから、向こう岸か、どこかにさらに下に向かう道があれば、そこにマグマがあるかもしれない。


 靴を脱いで、素足になって渡河する。


 冷たくて気持ちがいい。ちょうどいい明かりが爽やかで、足元も土じゃなくて岩なのでベトつかなくていい。本当に、今度遊びにでも来ようか?




 

 対岸まで渡り切ると、いくつかの洞穴が会った。まあ、考えても仕方ない。適当に選んで進もう。


 

 わたしが選んだその道は、妙に曲がりくねっている上に、やけに荒い道だった。道というか崖だな。かなりの急勾配だ。


 そのうち、また分岐が現れた。別にどっちでもいいが、こんなに分かれ道があると、正しい道を探し出すのは骨が折れそうだ。




 

 んー、ちょっと暑いな。上着を一つ脱ぐか。ここら辺、水辺だからちょっと涼しかったのに……


 ……暑い、かあ。より暑い場所に行けば、マグマに近づくというのはいい考えかも。

 

 わたしの前に現れた分岐路のそれぞれに手を翳してみると、それぞれが少しずつ温度が違うようだ。左が一番熱く感じので、左に向かう。


 


 あれから、暑い方へと進んでいるが、今は気温五十度にも近くなっているだろう……全身汗まみれだ。水辺と隣接しているからか湿度も高く、まるでサウナだ。ここと川を行き来して、実際にサウナに……さすがに過酷か。

 

 水はとうに飲み干してしまった。ここにくるというのは単なる思いつきだったから、昼食用の水筒しか無い。もっと汲んでくるんだったか。


 額にかいた汗が垂れてきて、目に入る。頻繁に顔を汗を拭くが、汗が引いた瞬間に汗をかき、汗を拭くたび汗をかいているような錯覚にも襲われる。


 限界だ。次、無かったら引き返そう。


 そう思って曲がり道の向こうを見ると、奥から明らかに発光物による、橙色の光が来ている。あれ、もしかして……


 さらに道に沿って歩くと、ついに光り輝くマグマを見つけることができた。

 

 今まで急勾配の下りとなっていたが、ここの近辺は多少平らになっているようで、同じ高度でしばらく道が続いている。そこは、多少広い道で、道の半分が溶岩の池のようになっている。もう半分は普通の岩石で構成されていて、そちらの方は普通に通れそうだ。ここのどこかに、魔結晶があるんだろうか?


 足場が少し狭くて怖いが、その道を進むことにした。


 これまでとは格が違うような暑さだ。左から照りつけるような、焼けるような暑さ、いや熱さが襲ってくる。ここに長時間いるのは危険だ。なるべく、早く見つけよう。


 進むにつれ、溶岩側の面積は広くなっていく。それにしたがって、道全体の広さも広くなっているようだが、わたしの方の足場は狭くなっているかもしれない。







 しばらく進むと、大きく広がっている部分に出た。


 もう奥までの道はなくなっており、一面が溶岩による池となっている。ドーム状となっており、溶岩と壁面の設置面が、橙色の光で照らされている。


 ここの壁面と溶岩の間の部分に、青く奇妙な照りを見せる鉱石を見かけた。あれ、魔結晶じゃないだろうか……


 完全に溶岩側だ。伝っていく足場も無いから、壁伝いに渡るしかないか。


 足場から壁に手を伸ばし、体重を支えられそうな出っ張りを探す。汗をかいているから滑るかと危惧したが、あまりの熱に、汗も出た瞬間に乾いてしまっていた。


 がっしりと大きめの窪みを掴み、一歩ずつ進んでいく。


 わたしが体重をかけると、壁のいくつかの部分から欠片がふるい落とされ、溶岩の中にへと落ちる。落ちた途端、ジュッと音を立てて蒸発してしまったようだ。うわ、落ちたらどうなるんだろう……


 極めて深く注意を払いつつ進み、青く光る鉱石に近づいた。


 近くで改めて見てみると、向こう側を少し透見できるようだ。特有の光の乱反射が起こっており、確かに結晶構造。魔結晶に違いない。長径十五センチメートルほどで、大きい部類に値するのかな。


 片手で、周囲の岩石少しともに削り出し、服のポケットに放り込む。戻ろう。


 そう思い、一歩進むと、溶岩が急に激しく沸騰し始めた。溶岩池の中心に集中して、幾多もの熔岩泡が地中から吹き出している。わ、なんだ……


 わたしは地質学に関しての知識はないからわからないが、何か、噴火とかするんじゃないか。少しでも早く帰らなければ。


 そう思っても、今のわたしは両手両足塞がれていて、何もできない。必死に、わたしがここから降りるまでに、何も起こらないことを祈っていた。

 


 

 祈りが通じたのか、その熔岩泡は徐々に勢いを弱め、わたしが地に降り立つまでに何かが起こることはなかった。


 一体、何があったのか……


 気になるところではあるが、今はこの魔結晶が優先。ひとまず、地上へと帰投することにした。



 





 帰って早速鍛冶屋に行くと、奥の工場に通された。店主によれば、シロネはもうパーツ作りを始めているらしい。銅線を使って、機構部分を作っているとか。


 工場は多少広いものの、店と変わらないくらい、いや、店よりも多くの武器が散らばっている。失敗作だろうか?


 奥からは溶鉱炉のものなのか、火の燃え盛る音や、パチパチと火花が散る音がしており、時折金属を叩く音、おそらく熱されたそれを水で急速に冷やす音が聞こえてくる。


 何か作ってるんだろう。邪魔しないように適当なところで座って待ってようと思ったら、奥から人が出てきた。音立てちゃったかな。


 「ああ!?邪魔……ああ、なんだ。祝子さんですか。」


 もうタメでいいよ。逆に不気味。ほら、魔結晶だよ。

 

 「見たことなかったけど、こんなのなのか。じゃ。」


 シームレスだな。

 

 魔結晶を渡すと、興味深げに様々な角度から眺めている。光に照らしたり、そこらの鉄床にぶつけたり。ドリルを持ち出して……さすがに止めた。これしかないんだから。……で、どう?


 「うん。まあ、全然分からん。」


 ガクッ。そ、そんなあ。


 「これ、初めて使う素材だし。お前は止めたけど、ドリルで削るみたいなこともしてみたいし……もっとないのか。こう、この箱に一杯くらい。」


 人が一人入れそうなくらいのサイズの箱を指して言う。


 そんな、無茶だよ。それ一つだけでも大変だったんだから。

 

 うーん。先は結構長そうだ。

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