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十八話 未踏峰への挑戦

十八話 


 さて、前と同様、今日も2階層の攻略を――――、ではなく、今日は別のことだ。


 ランクの上がる際に、冒険者として受けられるサービスが増えるとのことで、その確認をしにきたんだ。


 ギルドとは少し離れた場所にある、レンガ造りの大きい建物までやってくる。入口のドアを開け、中のガラス張りのドアの横にあるカードリーダーに冒険者カードをタッチすると、スライドしてドアが開いた。このカード、ICカードでも入っているのかな。

 

 開いた先には、遠くまで続く本棚と、本の数々。ここは、ギルド管理下の図書館。ダンジョンに関する資料を集めたもので、本来はギルド職員が研究のために使うらしい。ギルドの方針で、これも冒険者に解放したほうが、攻略が早まるとことで、わたしたちも使えるが……


 いろんな本があるなあ。ここら辺は、植生の本か。えーこれは、『北国の植生学』、『花山の植物と植生』……


 いっぱいあるな。この本棚一つ分、全部植物の本か。いや、まだまだあるみたい。二階層をみたが、ああいうダンジョンだから植物の情報は重宝するのだろう。


 そのほか、ありとあらゆる生態系の本がずらりと並んでいるほか、魔法に関する書物もある。魔法はわたしは使えないが、ちょっと見てみよう。何々、『魔法学概論』か。……


 「……媒介構造の設計において最も重要なのは、共鳴領域(resonant domain)(注1)の設定である。共鳴領域とは、術者の精神波と媒介物質の固有振動が一致する周波数帯を指す。この一致は単なる物理的現象ではなく、精神的同調(注2)によって初めて成立する。したがって、媒介の調整には精密な計測と同時に、術者の高度な「感応統合(sensory alignment)」が不可欠である。……」


 知らんて!


 やめとこ。ただ、いずれは読まないといけないのかな。


 さてさて、こんなとこわたしが見てもわかるわけないんだ。さっさと目的の位置に行こう。


 あるって聞いてたから、あるよね。冒険者が協調してダンジョンの情報を集め、ギルドの職員が編纂した本。


 ダンジョン全体の地図や、出現する魔物。それらから取れるものやら、何から何まで調べているとのこと。


 対象のエリアには、何十冊とバインダが置いてあった。どれどれ。『二階層vol.25』……ずいぶんと頑張ってんだな。


 資料室に備え付けてあるテーブルに座って開くと、そのページにはちょうど地図が貼ってあった。標高線が引いてあって、細かく測量をしてあるようだ。


 縮尺は……対応表を見ると、一センチが二百五十メートルとなり、うーん……


 計算は難しいが、目算で五十平方キロ程度?わからん。多分、どっかの市一つ分くらいはあるだろう。


 その地図のあちらこちらにチェックが入れてあって、右に対応表が書いてある。どうやら、彼らが攻略中に遭遇した魔物を書き入れているらしい。


 オクノウサギ……別にこの資料室にある魔物図鑑より引用、と書かれており、魔物自体の説明が併記してある。


 群で出没する。最初は単体で数匹出ることが多いが、その数匹により情報を得て、群で奇襲する戦法をとっているものだと考えられる。

 一つの群は100ー1000匹程度。獲物の体力がなくなるまで襲いかかるため、戦闘は避けた方が無難……

 スコールを極めて嫌がり、雨天時には出没しない……



 以前出会った、あの魔物か。


 あのあと、ウサギの耳を切り落とす際に数えたら七十匹ほどだった。少なく考えてあと三十匹、多ければあと九百匹は来てもおかしくなかったのか。


 結構体力的にきつかったし、スコールが来なければ危なかった。次会ったらやばいな。戦闘は避けた方が無難、と書いてあるなら、避ける方法も書いてあるのでは。


 えー、……「初回の奇襲を受けてしまうと、群自体が対象者を覚えるため、そこからの回避は雨を祈るか、階層自体を変えることくらいしかない。そのため、最初に奇襲を受けないよう、先んじてオクノウサギを探知すること」、と。


 どうすんの、探知。「パーティに、知覚系に優れた役割のものを入れ、【生物探知】のスキルにより対処できる可能性」……


 パーティメンバー、いないです。これ、どーすんの?

 


 

 それ以外にも数冊見てみたが、このウサギ、二階層のありとあらゆる場所に出没するようで。これを対処できないと、探索が難しいとか。


 でも、この方法での対処は困難。【生物探知】……わたしは結構スキルをとりやすいたちだからもらえる可能性はあるが。どういう方法であげればいいかわからない。曲がり角で誰がくるのかを当てるゲームでもするか?


 スキルを使わないとして、香料とかはどうだろうか。蚊のときみたいに、虫除けを事前に塗っておいたら寄ってこないとか。ウサギ避けがあるのかわからないが。


 普通に登山するときは、熊避けにカバンに鈴とかをつけておいて、音で追い返すというのはあるけど……


 とりあえずギルドに行ってみるか。みんな2階に行ってるんだから、一人くらい対策してる人がいてもおかしくないだろう。




 というわけで。ヒトカ、何かある?



 


「うーん……そういうのは聞いたことがないね。私は自分らのパーティの中に探知系のスキルを持ってるのがいて、それで済ましちゃうから。」


 そんなあ。なんかさ。魔法がどうとか……


「それはまあまあ高度だと思う。魔物避けは土魔法だろうけど、オクノウサギの嫌がる匂いを研究しないと難しいし、魔物探知は専用のスキルがあるんから習得する人が少なくて、研究が進んでない。」


 まあ皆んな、サポートじゃなくて攻撃魔法とか使いたいもんな。

 

 「香料は、私も虫除けは聞いたことあるけど、魔物用は……魔物は野生動物より、積極的に襲いかかってくるから、よっぽどじゃないと逃げないんだよ。鈴は、位置を知らせるだけだと思うな。」


 うう……八方塞がりだ。


 「これもいい機会だし、そろそろ、祝子もパーティでも組んだら?」

 

 そう言い残して、ヒトカは、パーティの集合に向けて行ってしまった。あーもう、どうしよう?


 考えてもいい結論が出ない。ただ、そろそろ武器の手入れの時間だから、とりあえず鍛冶屋に行こう。鍛冶屋は多くの冒険者の武具の手入れをしているだろうから、何か知っているんじゃないか。


「魔物避けねえ。全然聞いたことないな。虫除けは薬師のところで前に見かけたことはあるが、魔物除けは無かったし、つけているやつも居ねえし」


 店主が、刀を手入れしながら話してくれる。ただ、やはりないようだ。うーん、みんな、困らないのかな……まあ、一階でも別に不意うちが完全にないわけじゃあるまいし、順当にパーティが成長すればそうなるのかもね。

 

 店の奥から誰かが出てきた。


 「おいジジイ、この剣、……あっ」


 あの大家の子じゃないの。久しぶり。声をかけたら、バツの悪そうな愛想笑いを浮かべている。


「剣がどうした?」


「はい!……この剣の製法はだいたい当たりがつきました。まあ、類似するものはもう作れますが、ここの設備だと質は下がるでしょう。」


 シロネ、接客の時だけは猫を被れるんだよな。店主も苦笑している。

 

「ところで、今日はなんのご用で……」


 この刀の手入れを店主に頼んでたんだ。今はただの愚痴を……一応、こいつにも聞いておこうかな。


「魔物の奇襲を受けないようにする方法ですか。魔道具なら近いのもあるんじゃないですか。流通してるのは見たことないですが。」


 そうだよね、知らないよね………



 

 ……魔道具!?何?そんな、夢みたいなものは……


 いきなり猛然とした勢いで聞くから引いていたが、魔法の役割を使用者の代わりに果たすのが、魔道具らしい。もしかして、これもかな。シロネにネックレスを見せると、確かに魔術回路らしいものが見えるとのこと。



 わたしはまだ魔法のこともあんまり知らないが、魔物を近寄らせないようにする、なんていう魔法はありそうだ。


「多分、探知なら土魔法系の魔力を周囲に伝播させて、それと生物の反応を見るのが考えられるでしょうね。まず魔力の属性を変えなければいけないことと、数キロ先まで魔力を放出して、それを回収しなければいけないので結構な演算が必要になると思いますが」


 なるほど。今手に入れるのは結構難しいってk

 

 「数年前のこの国の論文では、作ろうとしていた人はいたと思います。途中で止まったが、資金不足による断念だったから、無理というわけでもないだろう……」


 おろ。


 「やはりその件でネックになったのが、属性変更と放出、回収後の演算などという三つの機構を一つの魔道具で果たそうとしたこと。しかし、魔術回路のみでやろうとするなどというのが愚の骨頂だった訳で、別にそんなことをする必要なんてないんだから……」


 ……


 「あっ……いえ、わたしの方では作ってませんから、よくわかりませんね。」


 口調が崩れてるのにも気づかずに話し続けていたな。もしかして、作りたいの?

 

 「う、うーん……まあ、作れるなら、ですけど、材料もないですし……」

 

 じゃあさ、足りないものはこっちで集めるから、作ってみようよ!

 


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