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十七話 あらまほしきこと


 この後……?


 「ユメちゃん、洋服屋、ここにはいろいろあるんだけど、他にも見てかない?」


 うん。もっと見てみたい。


「おっけー、じゃあ……」


 エスカレーターに乗って二階に行く。そこから結構移動して。ずいぶん端っこの方に行くんだな?


 そのまま、メムの後ろをついていくと……

 

 え?なんだここ。


 メムにつれられてたどり着いたテナントでは、地面に赤いカーペットが敷かれていた。壁や仕切りには、貴族風のような、とても凝った装飾が施されている…照明も昼光色の蛍光灯でなくシャンデリア型の暖色系で、全体がすごい派手だ。


「いらっしゃいませメム様。今回はいかがなさいましたか。」


 店員さんか…って。これは……全身ピンク色。


 白いブラウスの上に、ピンクのジャンパースカートを重ねていて、前立てと袖口に細幅のレースがあしらわれている。袖口にも、ゴムで留める形のフリルが。


 ジャンパースカートの胸元には、桃色の大きなリボンタイが飾られ、左右には薔薇形のコサージュ風リボンが縫い留められている。また、肩紐部分には波打つような形のフリルが重ね縫いされている。


 スカートは三段構造で、最下段だけやや柔らかいオーガンジー風の薄手フリルで裾まわりには白レースのトリムと、等間隔に配された小さなサテンリボン。スカート全体が半球状にふくらんでおり、内部にパニエをいくつか仕込んでいるのだろう。

 

 髪には同柄のヘッドドレス。

 両側にリボンとレース、ピンクの造花モチーフのリボンの飾りが縫い付けられていた。


 なんていうか、フリルがたくさんだし、桃色……すごい変わった服。お姫様みたいだ。

 


 

 「ここは「マスカレード」。ロリータファッション……ええと、こういう服の専門店なの。チェーン店で、えーと、ここは確か……」


「ここで五店舗目でございます。」


 「そうそう。五個目だった。前からチェーンの他の店にはよく行ってて、このアキとは元々知り合いだったの。今この街にもできたって聞いたから、今日ちょっと寄ったんだよね。」

 

 へぇー。こういう変わった服屋もあるんだ。


 区画には、モデルとしていくつかマネキンが置いてあり、それにそのファッションの服が着せてある。


 どれどれ……これは、店主さんが着てたやつか。自分が着てるやつと同じものをマネキンに着せてセット販売とは、ずいぶんと自分に自信があるようだ。確かに綺麗な人だったが。


 いろいろあるが、これはちょっと雰囲気が違ってるな。黒色が多い。いわゆるゴシックロリータとかいうやつだろうか?こういうのもいいね。


 ……あれ?キララどっかいった?

 

「ねえねえ、祝子ちゃん。スタイルいいし、こういうの似合うと思うんだけど、どう?」


 店主との話を終えたらしいメムが、手に服を持って戻ってくる。ここに飾ってある服の例に漏れず、やはり大量のフリルがついているのが、抱えていて全体が見えていない状態でも分かる。


「ね。これ。この店じゃちょっと珍しいんだけど、ちょっとフォーマルな感じで。」


 ゴシックロリータか。あれの上を手に持って見せてくる。


 黒と灰色のストライプ柄で、ハイネックフリルの襟元と、豪快にフリルのついている胸元、巨大なベルスリーブに三つ重ねられたフリル。可愛い。


「でしょ!?ねえ、着てみない?絶対似合うと思うんだよね。試着室っていうのがあるから、そこに」

 

 もしかして、わたしに優しくしてたのって、このためもあったりする……? 


 なんか、妙な企みが見えちゃった気がするが、見なかったふりをしよう。それより、こんな可愛い服をきれる機会、他にないよ。


 

「あ、これとか、これとか……よかったら。」


 追加でブラウス以外のマネキンが着てた服を全て渡される。絶対最初からそのつもりだろ。

 






 小物が多くてちょっと手間取ったが、なんとか全部着け、試着室を出る。先のブラウスに加えて、上から着るベスト、広がったミニのスカートとロングブーツ、ヘッドドレスを着た。

 

 「えー可愛い!あ、写真撮ってもいい?」


 鞄からカメラを取り出して言う。まあいいよ。その後、わたしはメムのオーダーを聞いて、幾つかのポーズを取って、写真を撮ってもらった。


「あ、こっちも着てみる?祝子ちゃんならなんでも似合うよー。」


 なんか、さっき言ってたこととちょっと違くない?それに、メムの頬が段々紅潮してきていっている。う……

 

 ただ、制止はできずに、展示してあった桃色の一式と青色の一式とを一通り着ることになった。


 「うふふ。ユメちゃん……」


 「キララのは撮り損ねたけど、元々簡単だと思ってなかったし、じっくり……」


 「そういえば、アキに会ったのは久しぶり、しばらく会わないと思うし、この機に……」


 「そういえば、考えてなかったけどヤオヨロズ……あっ、いない。」


 興奮した様子のメムから、独り言を聞くことができた。キララと、ここの店主にも着させようとしているみたいだ。

  

 ここで採寸したところ、わたしの現在の身長は176cm。わたしの記憶より6cmも伸びているが、環境差とかだろうか。


 思い返してみると、キララの身長は目測で190くらい、ここの店長さんはわたしと同じか、ちょっと低いか。ヤオヨロズもわたしより身長は高い



 ……メムの性癖がわかってしまったかもしれない。


 

 満足したメムは、わたしが着たのを全部わたしにあげると言ってきた。さすがに、さっきも払って貰ったから、自分で払うと遠慮したが、あまりに強引に払おうとするので、結局、メムに払ってもらうことになった。

 

 ちなみに、あとで値札を見て確認したのだが、この洋服店めっちゃ高い。今のわたしでも敬遠するくらいだ。


 …ギルド職員、給料高いのかな。なろうかな。わたしも。




 ここのブースを離れるにあたってこの後ずっと冒険者の格好のままではちょっとあれだし。さっきまでの服をお店の紙袋に詰めてもらって、この服で行くことにした。


 メムは満足そうな顔をして言う。

 

「さて…結構時間使っちゃったね。あと祝子ちゃん、行きたいとことかある?」


 んー、結構服は見れたし、(買ってもらったし)今思いつくところはないかなあ。


 「そしたらさ、ランチ食べに行こうよ。いいとこ予約してるんだ。ここら辺、ご飯があんまり美味しくないでしょ?」


 メムも、ここの料理はあんまり美味しくないって思ってたんだ。わたしも、以前あちこち行って、味がしないって思ってた。やっぱりメム、わたしと感性が近い。


 トドロキ亭はあるけど、中華専門店だから、メニューも限られてるし……ここの料理、食べてみたいなー。


 「よし、決まりね!」


 その途端、メムは何かをヤオヨロズに話している。ヤオヨロズ、戻ってきたんだ。


 あ、そうだ。キララがさっきどっか行ったんだよ。

 

 「あ、そうなの。まああいつが行くようなところ程度、だいたいあたりがつくから、いいわ。」


 そう言って、階を移動して三階へ。階の入り口から、蛍光色のポップばかりが目に入る。家電量販店か。


 冷蔵庫、エアコン、扇風機、テレビなどなど。色々あるもんだな。こうみると、いよいよ異世界感がなくなってくる。テレビとか買って帰るか。


 そういえば、昨日わたし家買ったんだ。知り合いのつてで、安く売ってくれるところがあって。だから、このへんのコーナーは近いうちに使うだろうし、見とこうかな。


 「ユメちゃん、家買ったんだ!じゃあ、ついにあの寮ともおさらばかな。」


 それはもうちょっと後にさせてもらってもいいですか。事情が……

 

 テレビのコーナーに行ってみる。ずらっと並んでいるものの、どれも電源がついていないようだ。普通、なんかの試供映像を流してるもんじゃないか?


 「ハムエルンには電波がきてないから、テレビはつかないぞ。ゲームとか映画用に売ってる単なるモニターだ。」

 

 後ろを見ると、いつの間にかキララが立って居た。やっぱりここに来てたのか。


 「買うのか?最近、有機ELのモニターが出てきててな。ここにも売ってるが、画質ならそれが……」


 まあ、買うのもあるんだけど、後ろ……


 「キララ、あなたまた逃げたでしょ。いつもあなたのミスを片付けてあげてるのは誰でしたっけ?」


 勝手に逃げたから怒っている。まあ、メムはああなるし、あんな格好をしたくないのはわかるけど…… 


 「お前は、わたしに変な服を着せたいだけだろ。それに、仕事の件はお互い様だろう?この間、急に用事と言って仕事中に飛び出して行かなかったか?」

 

 ああほら、って、うーん。事情は知らないけど、どっちもどっちかも。


 そう話していると、不意をつくようにまた人が来る。

 

 「失礼いたします。メム様、予約の変更の件、通りました。」


 ヤオヨロズ……。


 あ、そっか。キララとメムで予約してたんなら、二人分なはずだもんな。予約を増やして貰ったのか。何から何までさせちゃって。 


 「キララ、今からご飯行くから、帰って来なさい。」


 キララはゆるく返事をして、一緒にレストランに行く流れになった。うまいことになってよかった。


 みんなで最上階に行く。最上階は数軒のレストランのみが占めているようで、肉料理の店、和食風の店、洋食風の店の三店舗があるようだ。黒色が要所に配置されていて、高級なバーか何かのような雰囲気が出ている。


「ここ、パスタが美味しいんだ〜。」


 パスタかあ。大分食べてないな。


 それぞれ注文を済ます。


 わたしは一番上にあった、クリームとキノコのパスタというのを選んだ。メムはバジルとタコのものを、キララは蟹のものを選んでいた。蟹はちょっとそそるな。


 しばらくして、料理が届く。

 

 お、美味しい。なんだろ。妙な柔らかさで、ソースとパスタがちょうど良い量絡むし、歯応えも楽しい。ソースもコクがあって濃いものの、しつこくなくて後を引く。そのまま形を残して混ぜられたキノコも食感にアクセントを与えてくれていい。


 「どう、ユメちゃん美味しい?」


 美味しい!


 「それはよかった。ここはうまいからな。」


 キララ。よく来るの?


 「前に一回来ただけでしょ。それに、こいつは舌馬鹿だから、わかんないよ。」


 辛辣だなあ。でも、本当に美味しかったから、また来たいな。


 「ほんと?また一緒に来ようね。ここ。」


 「祝子、今度から、二階からは離れろよ。二階についたら逃れられん。」


 はは……。あそこはちょっと控えるかも……


 

 

 食事を終えてお店を出ると、入り口でヤオヨロズが待っていた。


「本日はご案内させていただき、ありがとうございました。お近づきの印に、と言ってはなんですが……」


 小さい箱を渡される。開けていい?

 

 中には、赤い宝石が中心にあしらわれているペンダントが入っていた。いいの?こんなもの。


 「冒険者の方は、こちらの施設をよくご利用していただけるので、わたくしどもからのお礼だと思っていただければ……」


 なんか、くすぐったいなあ。丁重にお礼を言って、この店を後にした。メムと一緒にいるだけでこんなによくしてくれるなんて、メム、どこかの貴族とかなんじゃないか……?


 

 メムたちの自宅付近の岐れ道で、メムたちとも別れて自宅に帰る。メム、キララ、今日はありがとね。

 

 ものすごくいい目を見させてもらったな。大きいお姉ちゃんができたみたいだ。




 


 さー、休日だけど、肩慣らしにダンジョンに潜ろう。メムは今日はやめとけって言ってたので、一階層で軽〜く。


 目的もなく魚人を探して歩き回る。今日に関しては完全に自由で、ノルマもないから気楽だ。鼻歌を歌いながら適当に見ていると、居た。

 

 そのまま調子を変えずにいつものように雑魚を払う。魚人だから、文字通り雑魚だな。……うん?




 

 数体倒したあと、手応えの異変に気付いた。【闘気】も使ってないと思うが、ちょっと手応えが軽すぎ……?休んだからかな。


 体を捻って色々とためすが、やっぱりちょっと動きすぎるような……


 ちょい、データをご確認……


ハフリ ユメ

職業【神巫】

Lv:10

HP95/95

MP95/95

筋力:105

魔力:95

速度:95

防御:95

抵抗:95

【スキル】

:▶︎【剣術】Lv.5 【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1



 あ!筋力が上がってる。レベルは上がってないけど?


 うーん。




 


 ちょっと首元がむずむずすると思ったら、あのサンドロメアからもらったペンダントをつけっぱなしにしていた。つけながら運動したから、金属が肌と擦れて、違和感があった。こんなところにつけて行って、無くしたらどうするの。


 そう思って外そうとしたとき、ふと思いつく。もしかして……そのまま外して、ステータスを……


ハフリ ユメ

職業【神巫】

Lv:10

HP95/95

MP95/95

筋力:95

魔力:95

速度:95

防御:95

抵抗:95

【スキル】

:▶︎【剣術】Lv.5 【経験値アップ】Lv.1【地図作成】Lv.1


 

 やっぱり。このペンダント、筋力が上がるものなのか。しかも、十も。どういう原理か分からないが、すごい良いな。


 こんなものを簡単にくれるなんて、サンドロメア、どういう人なんだろう。ただの商売人じゃないな。


 

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