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十六話 有為転変の先達


 昨日の顛末だが、結局、あの娘、シロネというらしいが、は鍛冶屋でまた働くことになったという。まあ客も入っていない民宿一つではどのみち生活できてなかっただろうし。

 

 わたしが家を買い上げた金を当座の資金にしてもらえば重畳ということで。


 それで、あの家はいくらなんでも汚いし、一旦住むのはやめることにした。今は腕を怪我しているし、それに二階に入ったばかりだから。ちょっと探索したいよね?


 機を見て大掃除をして、移住しよう。


「治りが結構いいね。もう多分動かせると思うけど、ダンジョンに入るのは今日はまだやめといてね」


 今日はメムの家に行って、追加の治療をしてもらっている。


 メムの家は初めて来たが、結構大きい一軒家だ。以前五万ゴールド渡された時から思っていたが、お金持ちだよね?リビングにソファとテーブルが置いてあり、所狭しとぬいぐるみが置いてある。メムの趣味だろうか。


 あ、そうだ。その五万ゴールド。今は多少お金も余ってるし、返しておこう。


 「え?いいよー。あげたんだし。まだまだ、お金も必要でしょ?最近二階に行ったばかりなんだし、装備とか……とっといてよ?」


 装備も昨日新調したし、大丈夫。五万ゴールド、相当な大金でしょ?

 

 うーん。と一拍おいたあと、そうだ!と一言呟いて受け取ってくれる。安心した。こんな大金、借金したままと思うと……


 「それで、よかったら今日、一緒に買い物に行かない?」


 買い物。確かに、ここら辺で普通の買い物というのはしていない。鍛冶屋みたいに攻略に関係のあるものばかりで、娯楽としての買い物というのはない。


 というのも、ここら辺には買い物をできるような店はないからだ。飲食店、飲食店、八百屋、八百屋、たまに鍛冶屋。冒険者に特化してしまって、なかなか良いものもない。


 メムは、結構あっちと近い価値観を持っているようだから、メムがものを買うような店があるというなら、見てみたい。ありがたく、同行させてもらおう。

 

 「あ、一応、もう一人来るけど、良いよね?ユメちゃんも知ってる人だと思うけど……」


 家の上階に繋がる階段から、足音が聞こえて来る。この家、誰かもう一人住んでるのか?


 「おー、メム。おはよう。誰かいるのか?」


 下着姿のキララが、二階から降りてきていた。




 全員で改めて支度をして、家から出発した。


 しかし、メムとキララが同棲しているとは。仲がいいとは思っていたが。


 「まあ、ここに勤める前からちょっと縁があって。成り行きだよね。今では後悔してるよ。人が来てんのに下着姿でウロウロしてるし。」


 「そうか?私は後悔してないぞ。」


 メムがうらめしそうにキララを見ている。まあ確かに、何かと衝突しそうな性格だ。


 適当に話しながら歩いていくと、家々の間から綺麗な直方体をしている建物が見える。このあたりとはとても様相の異なる建物だ。


 「ユメちゃん、あれだよー。」

 

 やっぱりあれなのか。遠くからだからあまりよく見えないが、数十メートルはあるか。外壁も、木造ではなくコンクリートのような……ああいうのは、ここにもあるんだな。


 付近に来て改めて見てみると、五階建て、いや六階建てか?そのくらいありそうなサイズ。そして、平坦で整った壁に、石や木ではあり得ないねずみ色。屋上から降りる宣伝の垂れ幕。


 普通にデパートじゃん。

 

 

 「ここらへんだけ、妙に発展してるんだよね。ギルドもちゃんとした作りに作り直そうって言ってるんだけど、なかなかしてくんないの。ギルドはケチだからね。」


 メムは慣れてるんだ。普通に、こういう建物もある世界なのかな。


 


 入り口には庇がついていて、その奥に透き通る扉らしきものがある。扉の前に立つと扉がひとりでに開いた。じ、自動ドア……


 ドアは硝子製で、凸凹とかもない、良質なものらしい。ただ、機構はあっちの最新式みたいのじゃないらしく、結構ごつい見た目だ。


 それにしても、こっちに慣れてたから、まるで原始人みたいな反応をしてしまった。ギルドとか、その周辺の建物は、なんであんなボロい木造なんだろう?


 まあいいや。メムたちに引き連れられて中に入る。


 メムたちもそう何度も来たことはないらしく、一緒にデパートのフロアマップを読んでいる。わたしも、見ればわかるだろうと思っていたが、店名に固有名詞がふんだんに混じっていて、よくわからない。


 「ユメちゃん、どこか、行きたいところはある?」


 ううん、何があるんだろう。


 服屋とか、こっちのだと結構地味で似たようなのしかなかったり、あんまり均質なものじゃなかったりして、嫌だったんだけど、ここにあるかな。


 「あ、いくつかあるよ。まずこれかな。」


 引き連れられて、すぐそばの区画にいく。完全に、あっちのデパートに入っているチェーンの洋服店と同じだ。次元の違う人にも通じるようにいうなら、し⚪︎むら。

 

「ここは、所謂普段着みたいのを売ってる店になるかな。普通のスウェットとか、パーカーとか。そこそこ安いし、縫製も生地もここのよりかは百倍マシだよ。」


 ふんふん……確かに、手触りはいい。縫製も、詳しくはないが頑丈そうに見える。こっちの服はざらざらしてて、着心地が悪いしな。


 ここで結構買って、今着替えてしまおうか。この服、ちょっと汚いし……


 そう思案していると、メム達に声をかけてくる人間がいた。

 

「いらっしゃいませメム様、キララ様。」


 誰?知り合い?


 上下かっちりとスーツを着込んでいる、綺麗な大人の女の人だ。緑髪に青のインナーカラーとは変わっている。柔和な笑みを浮かべてはいるが、不思議とちょっと怖いな。


「お疲れ。この人はこのデパートのオーナーで…ヤオヨロズだったか。今ハムエルンへの輸入産業を取りしきってる人だ。私達は一回挨拶させてもらったから知ってる」


 え。偉い人?いいの、そんな態度で。


「ああ、いいのいいの。それより祝子ちゃん、服はいいの?」


 キララは日頃から乱雑な態度だから分かるが、メムも意外と豪胆なのかもしれない。


「はい。御両人には日頃から大変ご贔屓にしていただいております。是非お気軽に声をおかけいただけたらと。ところで、お客様は、お二人のご友人でしょうか?」


 あ、いや。わたしは……


「まあ、有望な【冒険者】か。」


「まーそーだね。」


 そうそう。なんか誤魔化すみたいになっちゃった。結構顔を合わせるし、メムがかなりグイグイ来てくれるからすごい仲良いみたいな感じになってるけど、文面で書くと本来仲良いはずないよね。


「そうでございましたか。それでしたら、きっと大層優秀な【冒険者】になられることでしょう。」

  

 はは。お世辞がうまいな。

 

 さ、どれくらい買おうか。えーと、上下を三枚ずつとかでいっか。スウェットを上下……

 

「それでいいの?あんまり考えて無いみたいだけど…」


 うん?スウェットはサイズ気にしなくていいなって思ってたけど…


 あ。ダンジョンばっかり行ってたから、ファッションの概念が抜け落ちてるな。スウェットで外とか行けないよ。ちゃんと考えないと。


「ねー、よかったら、私が選んであげようか。」


 確かにメムは、結構お洒落な格好をしてるし。メムにお願いしてもらった方がいいかもしれない。


 メムが選んでくれたのは、ローズグレイのワンピースの上に、白いメッシュの カーディガンを重ね着したもの。可愛い!


 くるりと回ってスカートをはためかせる。なぜかメムが拍手している。なんで?


 「ガキっぽいんじゃないか、これ。」


 メムがキララを睨む。まー確かに、ちょっと子供っぽいかも……?


 「ユメちゃんはこれでいいの。ね?いいでしょ?実際、ユメちゃん十二歳じゃない。」


 確かに、わたしは子供なんだから子供っぽいのが正解か。



 

 似たような感じで、メムがもういくつか服や小物をピックアップして選んでくれた。数日分、ある程度洗濯にも余裕がでる程度の服をチョイスして、会計に進もうとすると、


 「ああ、いいのいいの。ヤオヨロズ、はい。」


 メムが、ついていたタグと黒いカードをヤオヨロズに渡し、わたしを促して一緒にこの区画を出ていく。

 

 あれ?払わなくていいの?


 「オーナーがついててくれるからね。クレジットカードって言って、あれで私の口座からお金を引き出せるから、タグで計算してあっちで支払ってもらってるの。」


 へー。クレカはあっちにもあるけど、こういう使い方は……というか、えらい人はやってたりすんのかな。権力と人足を使った無茶振りって感じだな。エジプトのピラミッドみたいな。

 

 って、気づかなかったけど、わたしが払ってもらっちゃった。いいの?

 

「ううん、全然気にしないで。その代わり、この後……」



 ?


 

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