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十五話 降塵の跡の鎌祝


 ダンジョンから帰って着替えて寝ようとした時、ふと腕が折れていることを思い出した。着替える際に、腕がつかえて痛かったのだ。


 ウサギとか雨とか、あんまり色々あったから忘れてしまった。


 多少のことなら無視して寝るところだが、これはさすがに……


 左手が鈍く痛んで、とても眠れそうにない。


 今は、朝の九時か。ちょっと、メムに会ってこよう。メムは、わたしがここにきたばかりの時に回復魔法を使っていた。今度も治してくれるだろうか……


 受付に行くと、キララが受付に立っていた。ちょっと、メムはいるかね。


「メムか。まあいるけど、何かあったのか?」


 ちょっとこれを治してもらえないかと思って。と言って、左手を出そうとした時に、耳の話を思い出す。今回はミノタウロスとウサギを討伐したわけだが、実は耳は剥ぎ取って回収しておいたんだ。先に治療するとしばらく時間がかかるやもしれない。


 待った。これを先にして。机上に当該の耳を置くと、それを見て、キララは少し反応する。実際強かったし、これはけっこう高いんじゃないか。キララの言う値段を待ちつつ楽しみにしていたが、少し様子が違う。

 

 「ほー。早いな。ちょっと待ってろ。」


 ?何?



 しばらく待っていると、キララはメムを連れて来た。


 「はあい。ユメちゃん。やったね!」


 どういうこと?メムを先に呼んだの?それならそれで別にいいけど、耳の件じゃあなかったの?


 「耳って、ミノタウロスの耳でしょ?一階層突破オメデトー、ってことで。……うん?」


 ここで、メムがわたしの腕に気付く。ちょっと、これを……


 「突破?腕?……?」


 ギルドのカウンター裏に入って、話を聞いてもらうことにした。






 メムの手のひらから、ピンク色の光が出てわたしの腕を照らす。痛みはどんどん引いていった。


 「まー、今回はこのくらいかな。前みたいに、単なる外傷なら一回で治しきれるんだけど、骨折みたいに重い傷は、治される側も体力を使いすぎちゃうから、限界があるんだよね。今見たいのを何回か繰り返しするから、今日はこのまま動かさないで。」


 その後、わたしのつけてきた添木はのけられて、プラスチック製らしきものに変えられ、その後包帯でぐるぐる巻きに固定される。だいぶ痛くなくなった。


「さて、それではダンジョンの方の処理を……。キララ、何を考えてこんな順番に……」


 どっちかの処理を先にして欲しいと思っていたが、ミノタウロスの処理にメムが関係しているらしい。それなら、メムに治療するようにといってほしいものだが。


 「ユメちゃんは知らないみたいだから、順を追って説明するね。まず、ユメちゃんがダンジョンの全てだと思って攻略してたところは、ダンジョンの一階なの。ダンジョンって、階層ごとに別れてるものがあるのね。」


  ふむふむ。


 「それで、それぞれの階層からは、次の階層に行けるようになってて、最終的に、最深部にいるダンジョンの主を倒せたら、攻略完了になる。冒険者はみんな、これを目指しているんだね。」


 全く知らなかった。そうだったのか。


 「とある階から別の階に行くためには、色々方法はあるけど、このダンジョンではそれは一階の階層主を倒すことだったの。それをしてくれたから、ユメちゃんは一階の攻略完了、ってこと。こういうのの説明の担当が、今日は私だったから、キララは私を呼んだんだ。キララは怪我には無頓着だから……」


 確かに、結構紛らわしかったな。キララを一概に責められないかもしれない。それはおいておいて、じゃあ、これからはあの二階に行けばいいんだな。それで、そこを攻略して次の階に行けばいいんだ。何階まであるの?


 「このダンジョンは攻略されてないから、わかんないね。今は三階まで行った人がいるみたいだけど、その先の情報は見つかってない。」


 

 「それで、ダンジョン一階層突破、ってことで。はいこれ。」


 メムは、一枚のカードをこちらに渡す。そこには、「冒険者証」と書いてある。わたしはずっと冒険者をやってきたつもりだけど、違ったのかな。


 

 「冒険者と言っても、一階層しか潜れないようではほとんど素人だからね。今までのユメちゃんみたいな人は仮冒険者みたいな扱いなんだ。それで、一階層を突破して、二階層に行けた人を改めて正規冒険者にしてるんだよね。ユメちゃんは、今度から正式にFランク冒険者として登録されるよ。」


 F……アルファベット順なら、A、B、C、D、E、F。上から六番目か。


「名誉職的なSランクっていうのが一番上にあるから、正確には七番目かな。それで、正規の冒険者になると色々制度があるから、それを説明するね。」


 冒険者は、正式に登録されると、まずこのギルドに所属することになるらしい。地域には数々のギルドがある。ダンジョンが発見されるとギルドが設立されるから、ダンジョンの数だけあるわけだが……


 それらは、区域ごとに分けられ、十数個のギルドを一人が管轄しているらしい。その役割を果たすのが、Sランクの冒険者。実力というより、さまざまな試験を受けて選別された、いわゆる上司的な職業なのだとか。


 極めて高難度のダンジョンに自ら挑む他、各地のダンジョンの情報を把握して、部下となる冒険者の能力が向上するようにプロデュースするとのこと。


 「カインゼル全域と、そのほか周辺のいくつかの国々は上海さんの担当だから、上海さん直属ということになるね。」


 上海。あの、でっかい人だよね。そんな偉い人だったんだ。


 だれに就いたか、というのは冒険者として生涯付きまとうことだから、慎重に決めてねーっと言われたが、正直上海以外知らないし、それでいいや。


 上海の下につくからには、と上海の主宰する種々の「冒険者育成プラン」についての説明を受けたが、よくわからんな。今すぐ使うのも無理そうなので、とりあえずは放っておこう。それより、いいかな。


 昨日からダンジョンに入ってて、今戻ってきたから眠いんだ。結構迷ったし、雨にも降られたから風邪をひきそう。早く家に帰りたい。


 「そういえば、昨日ダンジョンの届け出したまままだ帰ってきてなかったね。じゃあ、ごゆっくり。」


 はいよー。


 しかし、骨折してしまっては、ダンジョンに潜ることもできない。しばらくは休むか……







 

 翌朝……


 また、メムに魔法を使ってもらいにギルドに来た。


 「今日中はちゃんと固定しておいてね。明日になったら外していいけど、明日一日はダンジョンには行かないで。過酷な運動も禁止。明日明後日回復魔法を使ったら、それで完治すると思うよ。」

 

 今日もメムは回復魔法を使う。固定していたのでもとより痛みはそれほどなかったが、違和感が少し減ったような気がした。回復魔法はいいな。わたしも使ってみたい。


 わたしの腕に手を当てているメムを見る。二の腕のしたの部分に手を当てていて、その手からは桃色の光のようなものが溢れている。


 わたしも回復魔法使いたいなー。回復魔法ってどうやって使えるのかな?メムに聞いてみよう。


「魔法?うーん……相当時間がかかっちゃうよ。魔法は」


 魔法は、独学で学べるようなものではないという。多くが幼い頃から魔力をよく扱うための修行をしているらしいし、メムも実家の関係で、生まれた直後から初めていたらしく……


 幼年期に魔法に接していない人間は、習得まで結構苦労するという。

 

 まあまあ。ちょっとやり方だけ教えてよ。いつかできるようになるかもしれないでしょ……


 まず、魔力を手から出して、それを認識する、か。


 魔力?魔力…


 魔力って何?


「うーん……教科書的には、人間の体内臓器から放たれる、生体分子なんだけど。どうしたらできるのか、っていうのはわからないなあ。わたしも、物心つく前からやってたから……」


 魔力の放出の感覚を掴む初歩的な訓練のうちオーソドックスなのは、すでに魔法を使える者が魔力を流し、それを体感すること、と。ただ、これも本来数年かけてゆっくりするものらしく、実際にメムに頼んでわたしの手に魔力を流し込んでもらったが、よくわからなかった。


 ここで、今日の回復魔法は終了した。


 魔力を手から出すのに失敗したから、魔法はまだ使えないが、先んじてメムに魔力を手から出したあとのことを教えてもらうことにした。


魔法の根本は、まず魔力を出して、それを各属性ごとに特有のものに変化させることだと。そこから概念を抽出して、複雑な魔法へと進化させる。


 属性、とは火魔法、氷魔法、雷魔法、土魔法、光魔法、の五つのことで、例えば仮にメムの賦活魔法であれば、まず火魔法を習得してから、分化して賦活魔法になるという習得法らしい。


  つまり、もし賦活魔法を会得したいなら、まず魔力を認識する→魔力を火の形にする、のツーステップを経て、そこから賦活魔法のエッセンスを抽出するからと。


 ……これはおおごとだな。まあいい、魔力を認識できるまでは考えないでおこう。


 「あ、そうそう、明日は私は有給を取ってるんだ。回復魔法を受けるなら、よかったら私の家まで来て?」


 そう言って、メムは住所を適当なメモに書いて渡してきた。




 

 しかし、今日と明日はダンジョンには入れないのか。昨日は疲れて何もせずに寝てしまったけど、毎日そうするというのも暇が過ぎるだろう。ちょっとどこかに出かけてでもみようか。





 そういえば、ダンジョンにいる間はずっとギルドの職員寮に泊まっているんだった。以前はホテルに泊まろうと思っていたが、そろそろ頭金も足りるだろう。適当なアパートを借りに、不動産屋に行く。


 すいませーん。どこか、アパートを借りたいんですが。

 

「ええ、冒険者様ですね。冒険者様には、こちらのシェアハウスをご案内しております…」


 シェアハウス!?冗談じゃない。それだったら寮にずっと住んでた方がましだよ。なんで?アパートはないの?


 何かいいあぐねている様子だが、はっきりとわたしにちゃんとしたアパートを貸す気はないようだ。何か明確な理由があるのか?


「え〜とですね…あの…こう、ずっと居られるのかがわからない、と言いますか…」


 よくわからんことを。う〜ん?


 あー、もしかして、冒険者だから、わたしがダンジョンでいつ死ぬか分からない、ってことか?支払いが滞る可能性が高い、と。わたしは死なないから大丈夫だよ。


「えーと、すいません、規則で……」


 わたしの腕を見ながら、急にさっきまで言ってなかった規則のことを持ち出し始めた。


 くっそー。こんな、いつ死んでもおかしくない冒険者業をしていて、現在進行形で腕を骨折していて、しかも国籍もないだけの人間を差別しやがって!


 うーん、自分で言っておいて、こんな奴には絶対家を貸したくない。無理かあ。


 しゃーない。諦めよう。一括で払えるようになったらまた来よう。それなら売ってくれるかもしれない。

 



 不動産屋が空振りに終わったので、わたしのスケジュールには再びぽっかりと穴が空いてしまった。何か、することはなかったっけ、と考えていると、鍛冶屋のことが思い出される。そういえば、ここにきたばっかりの頃は予算五万円だったから、適当に揃えただけだった。大金が入ったんだし、久しぶりに買い替えちゃおう。




「この刀は、使いこなせているなら買い替える必要はねえよ。」


「みんな妙な形で敬遠していたが、元々相当いい材質と鍛え方だから、いいたかないが、使えさえすればここにあるどんな剣よりも上だ。」


 

 ほー。そんな良い刀だったんだな。魚人討伐の役に立ててますよ。よっ、名匠!


「それは俺が作ったんじゃねえよ。って言っただろ。」


 じゃあ、剣はいいや。代わりに、もっといい鎧に買い換えよう。えーと……

 

「鎧は、最新のマルエイジング鋼のがある。硬ったいぞ。こっちは、軽いチタン製の。動きやすさも考えれば、これもいいな。」


 ふむ。軽い方がいいが、わたしは結構ステータスも高いから、それほどの違いはないかもな。重くても頑丈な方を選ぶというのはありだ。


 「手甲や具足にも、スケールアップしたものはあるぞ。いずれも特殊鋼で作った特別製だ。特に軽いのから、動きやすいように特殊な編み方をしているものや、逆にガチっと地面を掴んで離さない、安定したものもある。」


 うーん、迷うなあ。


 そういえば、二階層は山行だったし、動きやすさを重視してして軽い素材にしてもらうことにした。いやー、いい買い物だったな。








「ほう。そうか…」


 そうなんだよ。冒険者は信用がないから、頭金があってもアパート借りられ無いんだってさ。だから、今日は結局どこも契約できずに寮暮らし。アパートを借りられないってことは、結局わたしは一括で家の代金払えるようになるまであそこから離れられないってことで……


 おっと、愚痴になっちゃったね。これ以上買うものもないし、、そろそろ失礼するか……


「俺の娘が土地関係をやってんだが、売れなくて困ってるらしい。見にいくか?」


 黙ってわたしの話を聞いていた店主が話し出す。




 当該物件は、ギルドから徒歩五分にある一軒家。立地はいいものの、現状あまりにもボロく誰も目もくれない、とか。


 昔はアパート業で一山当てようとしてたみたいだが、経営に失敗。あまり借りる人もいないまま、事故で建物が破損しても修理もできず。これに全財産を投じていたためにその家に住み込んで大家をするしかなく、そのためにどんどんボロくなっていく悪循環が起きているそうな。


 今はアパートでなく一泊からでも受け入れるようになっているものの、使用する客は一人もおらず、誰か買い取ってくれるならいますぐにでも、と言っていた。

 

 ほー……一括で買えるなら、信用とか関係ないわけだし。ボロかったり汚れてたりは、自分らでDIYなり、掃除なりすれば同じか。行ってみようかな。


 それにしても、お宅の娘さん、ずいぶんギリギリの商売してるんですね?


「うちをつげばよかったのに、鍛冶屋は嫌だと言って出ていったんだんだよ。才能もあったのに……」


 それで無茶な商売を。まあ、わたしが買い上げれば、当分は平気でしょう。土地転がしはもうやめた方がいいかもしれないが……


 そう言われて、いざその物件へ向かうと……



「え!?お客さm…え!?オヤジ…?」


 以前泊まろうとしていた安宿だった。世間は狭いものだ。

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