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一話 異世界へ

………


……………


………?


 私は?私はいったい今……

 意識だけはあるが、ずっとぼーっとしていたみたいだ。なぜかこれまでの記憶もはっきりしない。私は……?


 自分のことをまず振り返ってみよう。私は祝子(はふり) (ゆめ)、今年中学に入った中学一年生だ。入学してから半年ほど経って、部活にも入ったか。試験が目前に迫っていたような気がする。試験の準備はしていたよな。初日は英語で………


 それで、その次は……試験の三日前だったか。家に帰ろうとして…駅に行こうとしたんだ。それで……


 周りにある全ての空間が音に塗りつぶされているように轟音が響く。重低音が耳を圧倒していつつ、規則的にわずかな電子音が流れている。地面に直に触れている脛の部分からは、鉄の冷たい感触と、振動による痺れがじわじわと這い上がってくる。正面からは暴風が吹き荒れる。視界内の直線で構成されている歪な黒の奥には、何かがいるという確信を得させた。



 電車に轢かれた、のか…?そんな気は全くしてなかったけど……死んだってことか。ショック!そしたら、私は天国に行ったのかな?

 

 だんだん目が覚めてきたようで、目の前が明るくなってきた。

 まぶたの裏まで刺さるような鋭い白光に、思わず目を細める。ぼんやりとした意識の中で、ゆっくりと瞬きを繰り返しながら、状況を整理しようと試みた。


 ここはどこだろう?



 視線を動かすと、目の前には強烈なライトがそびえていた。直視すると目が痛いから、避難するように目を背けて、焦点で無い位置で観察を続けた。ライト、とは言ったが、奇妙な形だ。一つのライトの中にたくさんのライトが設置しており、昆虫の副眼か……あるいは、こういうのがあったと思うんだけど。思い出せない。


 ゆっくりと手を動かそうとしたが、全身が妙に重い。しびれているわけではないが、体全体が軋むようであり、縦向きにも横向きにもとにかく動かしづらい。私の体じゃないみたいだ。そういえば、ここは天国だと思っていたが、天国にも体の概念はあるのかな。


 無理に動かして折れたらと思い、これ以上の動きをするのは控えた。とりあえずもっと周りを見てみよう。これは決して怠惰からではない。


 辺りを見渡すと、青い服を着た男たちが数人、私に背を向けるような体勢で立っていた。全身を覆う防護服のようなものを着込んでいるようだ。何人かで円状になって話をしているようだ。こちらを向いている人もいるようだが、顔にマスクとゴーグルがついていて、顔のパーツは全て隠れている。


 (訳が分からない。この人たちに聞いたらどうなっているかわかるかな?)


 なんとなく妙であることは感じつつも、特に身を起こすような活力も無く、ただ彼らを眺めていると、何か話しているようだった。


 「今回も失敗か...」


 「我らの神が顕現なさるのはまだ先のようだ。彼女はいつものように処理してください。」



(カミ、ケンゲン、ショリ……ショリ、処理…処理する、って私のこと…?.私はこれから…え?殺されないよね?)


 これを聞いて、今まで全く感じていなかった危機感が急に押し寄せてきた。


 得体の知れない宗教の信者に処理される。読めない漢字の正体を読解した結果、不穏な結末が浮かんできたのだから、当然不安にもなる。


 青い服の男たちはまだ話し込んでいるようだ。


 薄目を開け、周囲の様子を注意深く伺う。部屋の中はこの台の上からでも一望できた。


 まず、この台はやや部屋の奥側に位置しているようだ。


 自分の右側には3メートルほどの間があり、そこには幾つかの機械があった。直方体で何かの台のようなものが複数、中には見たこともない奇妙な形のものもあった。ただ、先端に長方形の黒、モニタを想起させるものがついており、おそらく写真か動画かに関係するのだろう。一体、なんの機械だろう……?いずれも、金属とプラスチックやアクリルなど複合的な素材で構成されている。どこか人体と関係するような気がするのは、やや丸みを帯びているからだろうか?窓やドアらしきものは特に見つからなかった。


 左側には、4-5メートルほど空間があり、真ん中に大きなドアが見つかった。持ち手も見当たらないが、引き戸のようだ。開ける方法はなんだろうか?持ち手のない引き戸なのだから、スイッチか何かで起動する電動でしか開ける方法はないと思うが……ただ、今青い服の男が話し込んでいるのもこっち側だ。


 そういえば今思い出したんだけど、ライトが一個の中にたくさんあるのは、たしか無影灯って言って、影ができないようになっているんだよね。いろんな箇所から照らすと、光の及ばない場所が無くなる。細かい作業には影ができると邪魔だから、主に手術の時に使われるらしい。


 手術によく使われる……かあ……


「こいつ起きてないか?」


 わたしが目を開けていることに気がついたらしい男が、ゆっくりと近づいてくる。やばいやばいやばい。


 大声で助けを呼ぶか、しかしこの部屋のドアはかなり分厚そうだし、建物全てがこいつらの味方だったら。そもそも、国境を越えて運ばれていたら?泳いで帰れ……帰れるわけないよなあ。


 先ほどまで開けていた目を再びゆっくりと閉じ、ごちゃごちゃと無駄なことを考えていると、部屋の外から轟音が鳴り響き、警報が鳴り響いた。青服の男が一斉にふり向くと部屋のドアが開き、部屋の外から人が飛び込んできた。


 その男が何か大声で捲し立てると、その人に追従してみんな慌ただしく外へ出ていってしまった。


 私はこの機を逃さず、ドアからこの部屋の外まで一気に脱出した。


 そのまま、部屋から建物の外へ。かなり入り組んでいて普通は迷うだろうが、通れる通路をそのまま通って行ったらそのまま出口まででることができた。


 建物の外へ出たが、完全にわたしはパニックになっていた。周りもよく見ずに、部屋から出てきた勢いのまま、さらに野外を駆け抜けていく。


 おそらくここはかなりの田舎なのだろう、周囲はほとんどが緑色でいっぱいだった。ただ懸命に走っていたわたしには、焦点視野の外の、さらに動体視力のとらえられないスピードで過ぎゆく景色の色のみを認識していた。


 走っていくうちに、周りに見える景色が、青々しい自然から、遠くにいくつかの布の束を見かけるようになり、色は茶褐色へと変遷した。足元も、木の根が張り巡らされ、石や岩の散りばめられた鬱蒼とした山といった風情から、石や落ち葉などが取り除かれ、うっすら整備された道を走るようになってきたが、そうしても我に帰ることは依然として無かった。


 その道がレンガか石かで整備されたような道になり、足に冷たい感触を得るようになったその頃、ようやく我にかえり、立ち止まることにした。


 ふう。なんとか助かったか。一旦落ち着きたいが、まだ身の安全が保たれていない。できれば標識を見つけて、現在地を確かめたいが……。


 ただ、私にはこの場所に見覚えがない。足元はレンガで舗装されている道、周りも木造かレンガ造のものがほとんどだ。今時、木造の家というのは中々無いだろう。それに、目の前を先ほど馬車が通ったのを観測している。


 (まいったな…外国のどこかかな……?)


 途方に暮れていると私の目の前で一つの人影が歩みを止めた。


 ゆっくりと顔を上げると、そこにはとある人間が立っていた。


 その人間は、わたしの倍は背丈が有った。三メートルか。いや、それ以上……?いや、それを気にしている場合では無い。それほど、その人間には、それを度外視させるほどの、とある目を引く特徴があった。


 わたしの頭上二メートルほどにある顔からは、さまざまな情報が見てとれた。


 目は切れ長で、奇妙な黒目をしている。黒目とは言うものの、実際虹彩部は白色をしており、その中の瞳孔は細長く横に伸びる形をしていて、人間の目とは明らかに形態が異なっている。睫毛は長く、肌はまるで雪を思わせるほど白く、生気を感じさせない。元の世界なら明らかに美人と博される顔立ちだ。総合的に見て、女なのだろう。疑問系なのは、そのあまりの体格だが……


 わたしを覗き込むような体勢から見るに、明らかにわたしを見ているはずが、どこか遠くを見ているようなそんな印象を受けた。


 そして、その横、肩からは二本の太い腕が生えている。洋服は少しオーバーサイズ目のものを着用しているためか筋肉の隆起は見られないが、手のひらのサイズから見ても明確に太いと思われるだろう。


 最後に………どこから生えているのかわからないが、背部から、さらに腕が四本生えていた。




 わたしはその化け物を見て、思わず悲鳴を上げた。

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