第9章 ― 原初の灰
都市の静寂がまだ響く中、ケルベロスは前へ進んだ。
すべての獣人たちは依然として頭を垂れ、誰一人として顔を上げようとはしなかった。
その存在の重圧はあまりにも巨大で、空気さえも畏敬の念で屈服していた。
中央の回廊を進む途中、ケルベロスの視線を引いた光があった。
そこには、生きた石で彫られた巨大な像――野性の眼差しと神秘の鎧をまとった女戦士が立っていた。
その足元には、古代の文字が金色の光で脈動している。
少し離れた場所から、ライザが近づいた。
ライザ:
――あれがアシナ。あたしたちの戦の女神よ。
最初のアルファ・プリモーディアルであり、獣人たちの伝説。
彼女の力は星々を震わせるほど強大だったと言われてる。
彼女は最初に生まれた原初ではなかったけど、本能と理性を完全に支配した最初の存在……
そして今も、この街を見守っていると伝えられてる。
ケルベロスは低く笑った。
その声には皮肉が滲んでいた。
ケルベロス:
――ハハ……そうか。
その挑発的な調子に、ライザの眉がひそめられる。
ライザ:
――馬鹿にしないで。
21体のプリモーディアルたちは、一度だけ力を合わせて戦ったの。
古代の脅威と呼ばれた存在に――誰も勝てず、引き分けになった。
その後、彼らがどうなったのか……誰も知らない。
ケルベロスは黙って歩き続けた。
だがその内心では、冷たい声が響いていた。
「奴らは知らない。あの敵――それは俺だ。もし知っていたら、宇宙そのものが震え上がるだろう。」
ライザは気づかず、話を続けた。
ライザ:
――左を見てみて。ほかの像も並んでる。
時間とともに名前が消えたものもあるけど、いずれ修復されるわ。
残っている四体は、アシナ、カイル、カエリラ、ズリ。
プリモーディアルの中でも最強の四柱。
ケルベロスは目線を向け、冷たい光の中で威容を放つ像を見つめた。
ケルベロス(心の声):
――強者……確かに。だが、アシナの力に匹敵する者はいない。
沈黙している彼に気づき、ライザが振り返る。
ライザ:
――ちょっと、ケルベロス! 聞いてる?
ケルベロス:
――ああ、理解した。
ライザは腕を組み、疑わしげに目を細めた。
ライザ:
――じゃあ教えて。あんた、“宇宙そのもの”を名乗るなら……何のためにここに来たの?
ケルベロスはゆっくりと空を見上げた。
ケルベロス:
――堕落者たちが戻ってきた。
ライザ:
――堕落者……? それって何?
ケルベロスは左の手のひらを開いた。
そこに小さな宇宙の投影が現れ、星々、恒星系、そして金色の光の中で回転する星雲が映し出された。
ケルベロス:
――光が崩壊して生まれた存在。
神の姿を模した宇宙の寄生者たちだ。
均衡を食い、混沌を撒き散らす。
奴らを滅ぼさなければ、宇宙は崩壊し、残るのは闇と悪意だけだ。
ライザはその映像を見つめ、息を呑んだ。
ライザ:
――じゃあ……あの赤い穴も、それが原因?
ケルベロスは掌を閉じ、光を消した。
ケルベロス:
――その通りだ。この星には“堕落者”が潜んでいる。
それが、この次元の不安定さの根源だ。
ライザは空を見上げ、雲の間で脈打つ紅のポータルを見つめた。
ライザ:
――なるほど……そういうことね。
ケルベロス:
――ああ。だが、それを処理する前に――
この世界に秘められたものを理解しておく必要がある。
ライザ:
――なら来なさい。あたしの王国の城を見せてあげる。
ケルベロス(眉を上げて):
――城? この星に?
ライザ(微笑して):
――ええ。でも普通の城じゃないわ。
古代のプリモーディアルのエネルギーで造られた、テクノロジーの城よ。
彼女が一歩踏み出すと、ケルベロスも無言で後を追った。
歩くたびに、周囲の獣人たちは意味も分からぬまま頭を垂れ続けた。
ケルベロスの存在は、彼らの魂に刻まれた“記憶”のように作用していた。
それは、言葉ではなく――本能そのものが訴えかけていた。
「あの存在は……かつてすべてを支配していた。」
―――
次の章へ続く。




