第8章 ― 時の残響
ケルベロスは動かなかった。
ポケットに手を入れたまま、数百の技術兵器が機械の怒りを込めて彼を狙う。
照準レーザーの光が黄金の瞳に反射し、彼は穏やかな――ほとんど嘲るような――笑みを返した。
防衛システム:
――対象確認。脅威レベル:極限。排除プロトコル、起動。
空気が震えた。
無数のレーザーが一斉に放たれ、光の嵐が天を裂いた。
その一筋一筋が山を蒸発させるほどの力を持ち、ケルベロスのもとへ収束する。
だが、衝突する前に――彼はただ、足を軽く踏み鳴らした。
音は小さかった。
だが、宇宙そのものが神の「沈黙せよ」という命令に従ったかのように応じた。
時間が止まった。
光の粒子が空中で凍り、エネルギーの線は虚無に彫刻された彫像のように停止した。
火花は過去と未来の狭間で閉じ込められたまま、動かない。
ケルベロスは左手の指をわずかに上げた。
息のように軽い仕草だった。
そして――全てが反転した。
弾丸も、光線も、粒子も――全てが上昇した。
重力が退き、空間が歪み、世界が逆に呼吸した。
彼は二歩だけ進んだ。
たったそれだけで、次の瞬間には都市の正門の前に立っていた。
時間が再び流れ始めた。
音が一斉に爆ぜ、空気が唸り、レーザーは天へと飛び去り、夜空で花火のように散った。
ケルベロスは低く笑った。
ケルベロス:
――面白い玩具だ……だが、俺には無意味だ。
俺は「時」そのもの。現実。全能。
彼は穏やかで傲慢な声で空を見上げた。
――俺が歩けば、宇宙の方が俺に合わせる。
遠く、安全な距離で見ていたライザは、口を開けたまま呟いた。
ライザ:
――そ、そんな馬鹿な……同盟王国のどれも、この防衛を突破できなかったのに……。
彼女が理解しようとする間に、巨大な門が音を立てて開いた。
金属の響きが谷にこだまし、その奥から現れたのは巨大な軍勢だった。
人と狼が混ざり合った戦士たち。
古代の紋章を刻んだ部族鎧をまとい、エネルギーブレードを携えている。
ケルベロスは一切ためらわず、その間を歩いた。
襲いかかろうとしていた兵士たちは――動きを止めた。
数秒で、戦場の咆哮は沈黙へと変わった。
そして、一人、また一人と膝をついた。
最前列の戦士たちは地に伏し、部族の首領たちは頭を下げた。
それは恐怖によるものではなかった。死への怯えではない――もっと根源的なものだった。
彼らは「感じた」。
ケルベロスの放つものはエネルギーではない。
魂そのものを歪ませる「存在」だった。
それは太陽の中心を覗き込み、太陽の方から「見返される」ような感覚。
ライザは周囲を見回し、混乱していた。
ライザ:
――な、なんで……みんな、跪いてるの?
彼女は気づいていなかった。
アルファたちが感じ取ったもの――それは神々の光ではなかった。
この宇宙にも、どの次元にも属さない何か。
創造の「前」に存在していた、再び現れてはならないもの。
そして、
何千年もの時を経て――
原初の狼たちでさえ、恐怖という感情を思い出したのだった。
―――
次の章へ続く。




