第6章 — 逆転した宇宙
沈黙が支配していた。
星蠍はケルベロスを見つめたまま、動きを一つも逃さず、呼吸――いや、空気のない虚無でのその代替――まで観察していた。
彼の思考は煮えたぎっていた。
「何をするつもりだ…? なぜまだ動かない…?」
ケルベロスはその場に立ち続けていた。指はまだ上を向けたまま、微笑は静かに――しかし不気味なほど落ち着いていた。
敵は警戒を解かなかった。
だが次の瞬間、彼の宇宙的な魂が凍りつくのを感じた。
ケルベロス…そこにいなかった。
彼の目の前にあるのは、星の光で形作られた輪郭だけ――
幻影。生きた嘘。
星蠍の目が見開かれた。
――こ、これは……星で作られたクローンだと!?
反応する間もなく、宇宙そのものが震えた。
音ではなく、宇宙の構造そのものを通じて響く声が広がる。
銀河のすべての原子が振動し、時間でさえ息を呑んだ。
ケルベロスの声:
――《残虐なる一撃…逆転銀河・百分の一》。
天空の頂から、鉄と純粋なエネルギーで構成された巨大な手が現れた。
それは神の怒りの拳のように落下し、星蠍を殴り飛ばし、銀河の外へと吹き飛ばした。
衝撃は現実そのものを歪ませた。
色が反転し、空間が裏返り、星蠍の意識が砕け散っていく。
――な、何が……何が起きている!?
――俺の身体が…形を失っていく!?
――お前は一体何をしたんだ、ケルベロス!?
ケルベロスが彼の前に現れた。
逆転した虚無をまるで固い地面のように歩きながら。
周囲の空間は歪み、星々は逆方向に脈打ち、沈黙の悲鳴を上げていた。
ケルベロスは笑った。
――ただ反転させただけだ。お前の心も、視界も、存在の位置も。
そして静かに続けた。
――それも…俺の力の2%すら使っていない。
星蠍の怒りが恐怖を上回った。
彼は両腕を広げ、次元を越えて雷鳴のように叫んだ。
――《ブラック・ギャラクシー!!》
宇宙が裂けた。
巨大な黒い銀河が生まれ、全てを吸い込み始めた。
破壊の音は、死にゆく惑星たちの悲鳴のようだった。
ケルベロスは腕を組み、不動のまま呟いた。
――哀れなものだ。
星蠍は混乱して怒鳴った。
――何を言った!?
ケルベロスはただ見つめ返した。
すると黒い銀河が動き出した――
だが異変が起きた。
宇宙を喰らうはずのその銀河が、星蠍自身を喰らい始めたのだ。
――ま、待て! 何だこれは!?
――俺の力が……なぜ俺を喰っている!?
ケルベロスはゆっくりと拍手を始めた。
一拍ごとに、宇宙葬の鐘のような音が響いた。
――全てを反転させただけだ。
お前の視界も、宇宙も、そして力も。
今お前が見ている全てが――お前を破壊している。
お前は自分自身の悪となったのだ。
星蠍は咆哮し、体が星の塵となって崩れた。
――ケルベロスゥゥ! これで終わりだと思うなァァ!!
ケルベロスは拍手を続けたまま、無表情に答えた。
――終わりだ。
お前は…無限の虚無の中で、完全に反転したまま生き続ける。
時間とは逆に存在する、永遠の囚人として。
最後の叫びと共に、星蠍は自身の力に呑み込まれ、消え去った。
再び、静寂が訪れた。
ケルベロスは拍手を止め、虚無を見つめた。
――また一つ、堕ちた存在が消えたか。
彼は手を上げ、遠くの星々の輝きにかざした。
――時々思う…もし俺がこの物語の悪役だったとしたら?
神々も、宇宙そのものも、俺を止めることはできないだろう。
目を閉じ、永遠の囁きのように呟いた。
――俺は宇宙そのもの。
――星々を見守る影。
――生命、科学、魂、そして神秘――それらすべてが俺に溶け合っている。
そして彼は消えた。
ただ、彼の名の残響だけが、再び回転を始めた銀河たちの中に響き渡った。
次の章へ続く。




