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第16章 ― 存在してはならない未来

ケルベロスは、ゆっくりと手を上げた。


時間が止まった。

粒子は凍結し、

空間は静止し、

沈黙は完全なものとなった。


――だが、何かがおかしい。


一体の怪物が、彼の背後に現れた。

停止した時間の中で、なお動いている存在。


遠くで、プレヴィニールが笑っていた。

歪み、下品で、嘲りに満ちた笑い。


「――お前のすることは、すべて予見できる、宇宙よ」

「――この世界のすべては素晴らしい……なぜなら、すでに見たからな」


ケルベロスは低く笑った。

そこに、愉快さはない。

ただ、裁定だけがあった。


「……言葉も、立ち振る舞いも、なんと無粋な」


次の瞬間、

彼は振り向いた。


その拳が、怪物の拳と衝突する。


――衝撃はなかった。

――爆発もなかった。


怪物は、存在しなくなった。

捨てられた思考のように、現実から消去された。


プレヴィニールは、笑うのをやめた。


その目が光る。

今度は真剣に――だが、不確かに。


「――ああ……残念だな」

「――せっかくの“可愛いの”を壊してしまった」


ケルベロスは彼の方を向いた。

その存在感は、圧殺的だった。


「一つ、質問をしよう」

「――正直に答えろ」


声は、あまりにも穏やかだった。


「なぜ、こんなことをする?」

「なぜ怪物を送り、ポータルを開き、この星の命を壊す?」


プレヴィニールは笑った。

白い歯が、闇を裂く。


「――楽しいからだ」

「――この惑星は気に入っている。実に、愉快だ」

「――混沌、破壊……最高の娯楽だろう?」


ケルベロスは、わずかに首を傾げた。

危険なものを観察する者のように。


「……俺が貴様なら、ここではやらない」

「――戦争を目覚めさせるぞ」


プレヴィニールは真正面から睨み返した。

魂に触れようとする視線で。


「――戦争だと?」

吐き捨てるように言う。


「――ここでは、俺が戦争だ」


ケルベロスは、声を荒らげない。


「違う」

「――お前ではない」


「――そして、お前は知らない」

「――この世界で、何を目覚めさせてしまうかを」


「――だから、今ここで終わらせる」

「――“彼女”を起こす前にな」


プレヴィニールの顔が歪んだ。

怒りと、好奇心の間で。


「……彼女?」

「――誰のことだ?」


「アシナだ」と、ケルベロスは答えた。


「――だが、お前は知らなくていい」

「――そして、知る必要もない」


巨大なオーラが、彼から溢れ出した。

爆発ではない。


圧迫。

絶対的な真理の重み。


「――すべてを予見すると言ったな」

ケルベロスは続けた。


「――なら、なぜこの言葉を予見できなかった?」


プレヴィニールは凍りついた。


――理解した。


俺の能力が……

奪われた?

模倣された……?


彼は後退する。

宙に浮かびながら。


ケルベロスは黒いスーツのポケットに手を入れた。


一歩、踏み出す。


オーラが爆発的に増大する。

空間が呻いた。


プレヴィニールは、さらに後退した。


影のような身体でありながら、

汗が流れていた。


ケルベロスが、二歩目を踏み出す。


王国を包む黒き障壁が、

ひび割れ始めた。


剥き出しの宇宙粒子が現れ、

現実に走る傷のように揺らめく。


ケルベロスは笑った。


だが、その笑いは――


人間のものではない。

神のものでもない。


悪魔的だった。


時空が震え、

遠方の宇宙が共鳴し、

無数のシステムが故障を起こす。


「――お前は、見たことがないだろう」

彼は言った。


「――俺に並ぶ力を」


追い詰められたプレヴィニールは、膝をついた。

両手を赤い大地に突き刺して。


「――下位夜血のナイト・ブラッド・ドラゴン!!」


世界が震えた。

地面が裂ける。


巨大な竜が、ゆっくりと姿を現した。

八十万メートルに及ぶ、

憎悪と腐肉の塊。


その咆哮は、理性を粉砕する。


プレヴィニールは立ち上がり、指を突きつけた。


「――この忌まわしき存在を、破壊しろ!!」


竜が突進する。


ケルベロスは右腕を上げた。

拳を握る。


そして、囁いた。


「――天のいぬ


拳が、振り下ろされた。


衝撃が走る。

万物が、宇宙規模の地震のように震えた。


虚無から、

巨大な犬の頭部が出現した。


一千億メートル。


それは前進し、

竜を丸ごと呑み込み――


消えた。


沈黙。


プレヴィニールは、動けなかった。


――精神的外傷。


彼の目に映るのは、もはやケルベロスではなかった。


別の“何か”。


赤い瞳を持ち、

絶対的な存在感を放ち、

あらゆる概念に属さぬもの。


「……そんな……あり得ない……」

震えた声で、彼は呟いた。


「――あれは、生き物じゃない……」

「――宇宙の存在でもない……」


プレヴィニールは、震え続けた。


「――あれは……宇宙よりも、はるかに上だ……」


虚無が、

その言葉に――同意した。


―――


次の章へ続く。

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