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第12章 ― 祖霊たちの沈黙

女王は深く息をついた。

肩の力が抜け、その一瞬、幾つもの時代の重みを背負っているかのように見えた。

彼女は目を閉じた。それは、自らの記憶の奥にある古い扉を開く者の仕草だった。


「伝説のプリモーディアルたち……」

低い声で、彼女は語り始めた。

「彼らは我らの祖先だった。私は、その最後の一柱――二十一番目から生まれた存在」


広間は、完全な沈黙に包まれていた。


「私が生まれた時、彼らはすでに決断していた。

すべての知識は、私一人に継承されることになっていたの」


彼女は一瞬、言葉を切った。


「その後に生まれた者たちは……森へ放たれた。

力を持たない、ただの混血として。

能力はなく、残されたのは肉体、本能、そして生き延びるための意志だけ」


ケルベロスは口を挟まず、ただじっと聞いていた。

視線は鋭く、微動だにしない。


「それが、定めだった」

女王は続けた。

「力を持つのは、ただ一人。

その代わりに、他の者たちは別のものを授かった――知性を」


彼女の声は静かだった。


「超常の力を持たずとも、彼らは学び、進化し、技術を生み、都市を築き、王国を作った。

その世代が……あなたの目に映る、この世界よ」


ゆっくりと、女王は目を開いた。


「けれど……祖先たちは、消えた」


その言葉は、城の中で反響した。


「彼らは集った……全員が。

霧が彼らを包み、それぞれが異なるオーラを放っていた。

だが、その中に一人――」

女王の声が、わずかに揺れた。


「どんな法則よりも大きな存在がいた。

現実は歪み、時間は壊れ、あらゆる規則が……その者には通用しなかった」


女王は玉座の縁を、強く握りしめた。


「私は、見ることができなかった。

でも、感じていた。

そして……彼らは消えた」


「遺体もない。痕跡もない。何も残らなかった。

今に至るまで、誰一人として、何が起きたのかを知らない。

……私でさえも」


彼女は大きく息を吸った。


「私の考えでは……彼らは死んではいない。

眠っているか、あるいは――すべてを、密かに見守っているのだと」


その語りの間、ケルベロスは沈黙のまま思索していた。


あり得る。

自らの力が均衡を崩さぬよう、姿を隠したのだろう。

……賢明な選択だ。


何も言わず、ケルベロスは身を翻し、出口へと歩き出した。


「知りたかったのは、それだけだ」

自然な口調で、そう言った。


女王は目を見開いた。


「待ちなさい!」

「それだけで、行ってしまうの?

私はまだ、名乗ってもいないのに」


ケルベロスは足を止めた。

身体は振り向かず、ただゆっくりと顔だけを動かし、肩越しに彼女を見た。


「名前を知る必要はない」

「すでに、すべて理解している」


女王は目を細め、理由の分からぬ寒気を覚えた。


「……何なの……あれは……?」

思わず、独り言のように呟いた。


ケルベロスは再び歩き出した。

足音が広間に響き、正門へと至る。

彼が取っ手に手を伸ばした時、背後から小さな声がした。


「ねえ……ケルベロス」

ライザが、ためらいがちに呼びかけた。

「一つ……聞いてもいい?」


彼は扉を見据えたまま、立ち止まった。


「言え、獣人の女」


「どうして……」

彼女は唾を飲み込んだ。

「どうして、私だけ……城まで案内している時、跪かなかったの?

他のみんなは、そうしたのに」


ケルベロスの口元に、かすかな笑みが浮かんだ。

ほんの一線だけ。


「お前もまた、俺が知るプリモーディアルの血を引いているからだ」

「だから、お前の魂は屈しなかった」


ライザは目を見開いた。


「……え?」


ケルベロスはドアノブを回した。

扉が開き、彼は城を後にした。

その身を包むオーラは、宇宙そのもののように重く、圧倒的だった。


城の中に、再び沈黙が戻った。


ライザはその場に立ち尽くし、心臓を激しく打たせ、思考は混乱していた。

「……今の……何……?」


城そのものが、彼女を見つめているかのようだった。

―――

次の章へ続く。

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