第10章 ― 王座と韻のつまずき
ケルベロスが通るたび、世界はひざまずいた。
一万の銀河が身を縮め、その歩みの跡が詩のように刻まれる。
彼は titan(巨人)のごとく歩き、手をポケットに入れたまま、乙女のような静けさを漂わせた。
そのオーラは紋章、十万の星で鍛えられた巨神の証。
幾刻の後、石と鋼でできた海のような階段の前に、ライザとケルベロスは立ち止まった。
その段は空へ続く詩のようで、荘厳であり、同時に優しさを宿していた。
ライザ:
――ここよ。
ケルベロス(見上げながら):
――冗談だろ? これ全部登れってのか?
ライザ:
――ええ……高いの。とても。
ケルベロスはため息をつき、片眉を上げた。
まるで希少なワインを味わうような仕草で。
ケルベロス:
――俺が? 登る? 俺は宇宙、風、そして感覚そのもの。
音から生まれた存在だ――俺は登らん、地と空に命ずる。
ライザは猫のように目を見開き、驚いた。
――な、何を言ったの今?
次の瞬間、ケルベロスは雷のような速度で跳び上がり、
ライザを腕に抱き上げた――いたずらと献身が混ざる動き。
彼女の尻尾は揺れ、顔は赤く染まり、空気は混乱の渦となった。
指を鳴らすと、二人は瞬間移動――階段の頂、幻想の終わり。
ケルベロス(彼女をそっと床に降ろし、微笑して):
――終わりだ。
階段なんて、凡人の遊び。
俺には救うべき惑星があり、整えるべき宇宙がある。
時間は金――段差に費やすには惜しい。
ライザは耳から煙を上げるように深呼吸し、古い儀式のように心を落ち着かせた。
――分かったわ。入るわよ。
扉に触れると、静かに開いた。
内部は闇――灯も灯りもない、星の死骸のような回廊。
ライザ(囁く):
――静かに。音を立てないで。
女王は光を嫌い、口笛や声も許さないの。
だが、ケルベロスはすでに0.01秒先にいた。
星が瞬くほどの時間差で、彼は宙に浮かび、館の内装を眺めていた。
ケルベロス(小さく呟き):
――美しいな。
その声が反響した。
ライザは慌てて振り返り、猫のように扉を引っかいた。
――この馬鹿! 今ので終わりよ! 彼女が来る!
低く、獣のような唸り声が壁の奥から響いた。
城全体が揺れ、ライザは仰向けに倒れた。
ライザ(震え声で):
――終わりだ……死んだ……!
闇の中で、赤い瞳が開いた。
狼の息のような煙が漂い、古代の声が空気を貫いた。
声:
――誰が、我を乱す?
ケルベロスは滑るように前進した。
まるで禁書の目録を覗く旅人のように。
ケルベロス:
――その言葉、俺が言いたいところだな。
お前こそ、誰だ?
闇から現れたのは――巨大な狼の女王。
鋼を裂くような視線、夜色の毛並み、怒りに燃える呼吸。
女王:
――貴様、他界の侵入者か、それとも我らの同胞か?
耳も尻尾もない人の形で……どの面下げて来た?
ケルベロスは軽蔑を混ぜた声で返した。
ケルベロス:
――で、そっちは何だ? デカくて毛深い“王国のノミ宿”か?
言葉も礼儀も荒いとは、王にしては品がないな。
(そう、彼は侮辱さえも韻で言う。なぜなら、ケルベロスは全能にして――風変わりだからだ。)
女王は冷たい声で返す。
女王:
――挑発するな。さもなくば、苦痛の王座に縛りつけてやる。
二人の視線がぶつかる。
言葉は刃、魂は炎。
空間が縮み、城の息が止まった。
ケルベロス:
――お前こそ、俺に跪くべきだ。
お前の怒りなど微々たるもの、この王国など仮初の皮。
女王:
――跪けだと? 冗談。
私はお前の虚栄に屈しない。
緊張が高まる。
二人のオーラが潮のようにぶつかり、静寂を押し流す。
ライザは床を転がりながら泣き叫んだ。
ライザ:
――もう終わりだぁぁ! 王国も、世界も、全部おしまい!!
影が震え、空気は鉛と銀のように重くなった。
赤い瞳と金の瞳が交差した瞬間、
城全体が息を止めた。
――そして、部屋そのものが一つの韻を閉じた。
―――
次の章へ続く。




