多分、主人公は僕じゃない
まえがき
お人好しの主人公や優柔不断な主人公ってありきたりで飽きちゃったんですよね
このお話で心が震える感覚を抱いてくれたら嬉しいです
〈注意〉必ずあとがきを読んでください。あとがきまでが物語になっています
主人公と呼ばれるには失ったものが多すぎる
眼前で散っていく両親、師匠、親友
この手の中で息を引き取ったなんの罪もない子供達
そして、最愛のーーー
笑顔で彼らに託された
彼らの意志を無駄にしないため、死力を尽くして戦った
ただ立っている…それだけで崩れ落ちそうな膝を支えて
弱虫だった自分を押し潰し
ぐちゃぐちゃになった心に蓋して仮面をかぶる
馬鹿にされようが侮辱されようが
決して涙なんてのは流さなかった
一度心を露わにすれば、きっと僕は潰れてしまう
そうして心を潰し救った世界は空っぽだった
誰ひとりとして大切な人を守れなかった僕に対する罰なのだろうか
生き残ってしまったこの世界で
誰もが口を揃えて言う
キミが、キミ達が、まごう事なき「英雄」だと
チガウ
僕は英雄なんかじゃなかった
そう否定しても誰も気にも止めず
ただ空虚なこの世界で
英雄と呼ばれた
ヒーローになった
溢れんばかりの民衆に祝福され、賞賛された
そんな大歓声の中で
本当に守りたかったものは、手元には何も残らなかった
目指したはずの未来にいたのは抜け殻のような自分だけ
この世界から”イロ”が消えたのはいつの日からだったんだろうか
それとも最初からこの世界に”イロ”なんてものは存在しなくて
虚ろな僕の瞳に映っていたのはただの幻影だったのか
そんなことを頭の片隅で考えながら
僕は星を眺めていた
シン…と静まり返ったこの草原で
少しひんやりとした岩に腰掛けて
なんて事ない夜だった
夜の闇に呑まれながらも尚輝き続ける星々に感嘆していると
背後から勇者が近づいてきて
振り返った”ボク”に対して
君のことが知りたいなどとほざき、マリーゴールドを渡してきた勇者を見て
何故だか無性に悔しくてなって
なんて事のないフリをしながら
勇者目の前で”僕”は自分の首に剣を突き立てた
勇者は驚き、焦ったように駆け寄ったが
それはまるでスローモーションの様な動きで
あぁ、ようやくこれで死ねるんだと
どこか肩の荷が降りた気がした
遠のいていく意識の中で、夜空を眺めふと思う
主人公は僕じゃない
“昔”から僕は夜の中
朝なんてものはやってこない
きっと主人公は別にいて
多分、真夏の太陽のように笑う勇者なんだろう
馬鹿みたいに子供じみた正義感で
がむしゃらに戦い、世界を救う
全てを守り切った勇者には
僕の心なんてきっと分りゃしないだろう
そのくせ向日葵のような笑みを浮かべて
全てを知ったような顔をして
いつも僕に手を伸ばす
あぁ、無性に
腹が立つ
はらわたが煮え繰り返りそうだ
何も失ったことのないくせに
この手からかけがえのないものが溢れ落ちていくこの感覚が、恐怖が
何一つわからないくせに
だから”俺”は
勇者に何にもあげやしない
この悲しみも、悔しさも、絶望も、葛藤も、虚しさも、苦しさも
零れ落ちるひと雫の涙だって、何一つやらない
だってこれは全部俺のもんだ。絶対に、死んでも勇者にはやらないね
恋人がこんな”俺”を見たら笑うんだろうか、怒るんだろうか
それとも、僕によくやったように
仕方ないなぁって呆れたような笑みを浮かべて
“俺”を抱きしめてくれるんだろうか
今思えば
恋人の隣に立つのはきっと僕じゃなかったのだろう
恋人にはもっと別の運命の人がいて
平和に暮らせたんだろう
僕と一緒にいなければ
死ぬことだってなかったんだろう
そんなことをもし恋人に言ったら恋人は凄く怒るんだろうね
でも本当に恋人を手放せなかったのは僕の方だった
恋人はきっと僕がいなくなっても
目一杯悲しんだ後に前を向いて歩き出すんだろう
でも僕にはそれができなかった
たくさん、たくさん失った
それでも
それでも
僕が立ち上がれたのは
恋人がそばにいてくれたから
本当に、、、本当に、、、、、、愛していた
ああ、そうか
世界から”イロ”が消えたのは恋人が死んでからだったのか
そんな簡単なことにすら”俺”は気が付かなかったのか
首筋から血が吹き出し
“ココロ”がようやく”今”に戻る
久々に真正面から見た勇者は
こんなにも立派になっていたのか
死にゆく中で見つめた
その姿は間違いなく主人公だった
そしてようやく気が付いた
なんの曇りもないこの瞳に”俺”は腹を立てていたのか
死ぬ前だからなのか
悲しいからなのか
ぼやけていく視界の中で
ようやく”コタエ”を見つけた”俺”は
このどうしようもない気持ちと共に
永遠の夜に溺れていく”俺”は
震える声で”ボク”を揺さぶる主人公に向かって
アウイナイトのような瞳を輝かせながら
ニヤリと笑って吐き捨てる
「……………ザマァ……………みろ………」
あとがき(物語の補足)
きっとこの子は自分を全部押し殺して今まで主人公の隣で戦っていたんでしょうね
誰かが頼んだのか、それとも命令だったのかはわかりませんが
主人公よりも年上のこの子はずっと取り憑かれたように主人公を守っていて
だから主人公は誰も失うことがなかったんです
そんな主人公だから、この子の闇に気付かなくて
でもこの子が何かを抱えてるのはわかっていて
いつか心を開いて話してくれるなんて言うお花畑のような発想でいた
一方でこの子からすれば自分を守り、心を開けるような人
なんていうのはもう誰もいなくて
なんで自分には主人公を守った自分のような存在がいないんだろうって
そんな半端な八つ当たりのような感情で主人公のことを見つめてて
だからこの子は主人公のことが”ダイキライ”だったんですよね
でも、本当は、本当に許せなかったのは
何も守れなかった
英雄に成り損なった
自分自身で
全てが終わった世界でのうのうと生き残ってしまった自分に
嫌気がさしたんでしょうね
もし仮にここが物語の中だったなら
きっと主人公と打ち解けて大団円だったんでしょう
でもここはこの子にとって残念ながら現実だった
そう、あえて言うなれば
全てを救ったけど何一つ守りきれなかった青年に
どこまでも暖かくなってしまったこの世界は
涙が出るほどに眩しすぎた
ー完ー