夏草陰
夏の草陰は深くなりて鈴虫の声は
鳴き終えた蝉をわが身に重ねて鳴くよにきこゆる
カラカラと音をたてて鳴く虫が
我が心深く在りて
浮き上がることさえ出来ない
上手く笑えるひと
上手く生きられるひとなりたかったけれど
岩のようにうごけず
けれどそれでいいとも思えるものとなり
少し頷き瞼と唇だけは柔らかく閉じる
熱にも溶けず、雨にも流されず、
風にも揺れず、ただ石のごとき
けれども、心は静かなる土の中に還ることを
夢をみる
優しき陰のもといつか土と岩の間から
小さな花を咲かせてみたい
そうしてただ、風に揺られていたい