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第4話:貯め込む魔王と、飽きっぽい猫。-1

挿絵(By みてみん)

~ニャンてこった! 異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに? ~

______________________________________



嘆きの荒野に、張り詰めた空気が満ちていた。


魔王シエルと、伝説の賢者リリアーナの最初の対峙。その一触即発の状況に、王国軍の兵士たちは固唾を飲んで見守っている。

魔王の放った魔力塊が、リリアーナの「遊び」によって消滅した光景は、彼らの目に「神業」と映った。


「リリアーナ様…!魔王の渾身の一撃を、遊びのように翻弄されるとは…!これが神の御業か!」


アリア・グランツは、興奮を隠しきれない様子で呟いた。その瞳は、リリアーナの一挙手一投足を見逃すまいと、熱烈な光を宿している。彼女の隣で、リリアーナは、消えた魔力塊の残像をぼんやりと見つめていた。まるで、目の前で消えてしまったおもちゃの行方を、まだ探しているかのように。


「ニャー…(つまらないニャ…)」


光る玉が消えてしまい、リリアーナは少し不機嫌だった。もっと遊びたかったのに、すぐに消えてしまうなんて。この世界の光る玉は、すぐに飽きてしまう。


一方、魔王シエルは、自分の攻撃が消滅したことに混乱していた。彼の「超高速思考クイックシンク」は、あらゆる状況を分析し、最適な行動を導き出すはずだった。しかし、目の前の少女――彼が「あの女」と認識する存在の行動は、その思考の範疇を完全に超えていた。


「くっ…あの女の行動は読めん!何故あのような無意味な動きを…!?いや、これこそが真の策略か…!?」


シエルは、リリアーナの行動が、何か深い意図を持った高度な戦術であるとしか考えられなかった。

彼のリスとしての用心深さが、目の前の「理解不能な存在」を、より危険なものと認識させていたのだ。


シエルの側近である魔族の参謀ゼノスは、魔王の動揺を察し、顔を青ざめさせた。魔王がこれほどまでに困惑する姿は、彼にとっても滅多に見るものではなかった。


「魔王様…!あの女、まさか魔王様の行動を先読みし、攻撃を無力化したのか…!」


ゼノスもまた、リリアーナの行動を「戦略」と解釈するしかなかった。戦場は一時的に静寂に包まれた。それは、嵐の前の静けさ、あるいは、互いの出方を窺う駆け引きのようにも見えた。しかし、その静寂は長くは続かない。


「人間どもめ…!私の備蓄を邪魔する気か!」


シエルが、再び地面に手をかざした。彼の全身から、黒い魔力が噴き出し、大地へと流れ込んでいく。大地が、ゴゴゴゴゴ、と低い唸り声を上げて震え始めた。


その震動は、兵士たちの足元を揺らし、不安を煽る。今度は、先ほどよりもはるかに大規模な魔力結晶が、荒野のあちこちから、まるで巨大な植物が芽吹くかのように隆起し始めた。


結晶は、青、赤、緑、黄と、様々な色にキラキラと輝き、見る者の目を奪う。その輝きは、荒野の空気を魔力で満たし、辺り一帯を幻想的な光景に変えていく。


「な、なんだあれは!?魔王が、さらに力を…!」


王国軍の魔法使い部隊が、一斉に魔法を放った。炎の玉が空を焦がし、氷の槍が鋭い軌跡を描き、風の刃が唸りを上げてシエル目掛けて殺到する。数多の魔法が、まるで嵐のように魔王シエルへと降り注ぐ。


しかし、シエルは動じなかった。彼は、隆起した魔力結晶の間に立ち、不敵な笑みを浮かべる。その瞳には、揺るぎない自信と、備蓄への執念が宿っていた。


「フフフ…無駄だ。全ては、私の備蓄となる!」


シエルが両手を大きく広げると、彼の体を中心に、目に見えない巨大な渦が発生した。

その渦は、ただの空気の渦ではない。空間そのものを歪め、あらゆるものを吸い込む、シエルの「次元貯蔵ディメンション・ホード」の能力だった。


渦は、王国軍の放った魔法を、一つ残らず吸い込み始めたのだ。炎の玉は瞬時にその熱を失い、闇の中へと消え、氷の槍は音もなく溶け、風の刃は空気に溶け込むように霧散する。兵士たちの放った魔法は、まるで最初から存在しなかったかのように、シエルの体へと吸い込まれていった。


「な、なんだと!?魔法が…消えた!?」


「我々の攻撃が、全く通用しないだと!?そんな馬鹿な!」


兵士たちは、その光景に絶望の声を上げた。彼らの放った渾身の魔法が、まるで子供の遊びのように無力化されていく。

シエルの「次元貯蔵」は、物理的な攻撃だけでなく、あらゆる魔法を吸い込み、自身の異次元空間に格納する、まさに「世界を貯め込む」能力だった。


ゼノスは、その光景に感嘆の声を上げた。彼の顔には、魔王への絶対的な信頼と、誇りが満ちていた。


「魔王様…!何という深遠なる戦略!敵の攻撃を全て吸収し、自らの力に変えるとは…!これぞ、世界を貯め込む者の真の力!我々の勝利は揺るぎません!」


シエルは、吸い込んだ魔法の力を糧に、さらに魔力結晶を隆起させていく。荒野は、瞬く間に光り輝く結晶の森へと変貌していった。その結晶の一つ一つが、シエルの備蓄品であり、彼の力の源なのだ。シエルは、その光景に満足げに頷いた。


その時、リリアーナは、シエルの行動に、急に興味を失っていた。


「ニャー…(つまらないニャ…)」


キラキラした魔力結晶は、確かに最初は面白かった。


しかし、シエルがそれを地面に埋めたり、魔法を吸い込んだりするだけの単調な行動を繰り返すのを見て、リリアーナは飽きてしまったのだ。ミーコは、同じ遊びを長く続けるのは苦手だった。


新しい刺激、新しい遊びを常に求めていた。


リリアーナは、シエルから目を離し、近くにそびえる巨大な木に目をやった。その木は、荒野に一本だけ残された、異様に背の高い木だった。幹は太く、枝は天に向かって広がり、まるで空に伸びる塔のようだ。


「ニャー…(高いニャ…登りたいニャ…)」


ミーコは、高い場所が好きだった。高い場所から見下ろす景色は、ミーコにとって最高の特等席だった。そこからなら、世界全体が見渡せる。リリアーナは、その木に向かって、軽やかに飛び跳ねた。


アリアは、リリアーナの突然の行動に驚愕する。魔王との激戦の最中に、突然木に登り始めるなど、常識では考えられない行動だった。


「リリアーナ様!?まさか、高所から魔王の弱点を探られるおつもりですか!?」


アリアは、リリアーナの行動を深読みし、兵士たちに指示を出した。彼女の頭の中では、リリアーナの行動が全て、魔王を打倒するための計算され尽くした戦略に変換されていた。


「賢者様は、高所から戦況を冷静に分析し、精神統一をされているのだ!我々には理解できない深遠なる意味があるに違いない!賢者様のお邪魔にならぬよう、周囲を厳重に警戒せよ!決して賢者様の集中を妨げるな!」


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