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第3話:魔王、現る!そして、最初の「脱力系」対峙。-2

翌日、王国軍は「嘆きの荒野」へと進軍した。数千の兵士が地響きを立てて行進し、空には魔法使いの部隊が展開している。リリアーナは、アリアが用意した特製の馬車の中で、揺られながら干し魚を食べていた。


「ニャー…(揺れるニャ…)」


アリアは、馬車の窓から見える荒野の景色を指差しながら、リリアーナに説明する。


「リリアーナ様、この荒野は古くから魔力の渦巻く場所とされ、魔王が出現する可能性が最も高いとされています。我々は、この荒野の中心部に陣を張り、魔王を迎え撃つ所存です。」


リリアーナは、アリアの言葉を半分も聞いていなかった。窓の外を飛ぶ、珍しい色の蝶に目を奪われている。


「ニャー!キラキラしてるニャ!」


リリアーナは、思わず身を乗り出した。アリアは、その様子を見て、再び深読みする。


「賢者様は、魔王の魔力に引き寄せられた魔物の動きを、蝶の動きから読み取られているのですね!何という洞察力…!」


やがて、王国軍は荒野の中心部に到達し、陣を張った。兵士たちは緊張した面持ちで、それぞれの持ち場につく。魔力探知の魔法が展開され、空気が張り詰める。


その時だった。


大地が、ゴゴゴゴゴ、と低い唸り声を上げて震え始めた。地面に亀裂が走り、そこから黒い霧が立ち上る。霧はみるみるうちに濃くなり、やがて巨大な渦を形成した。


「来たぞ!魔王だ!」


兵士の一人が叫んだ。緊張は最高潮に達する。


黒い渦の中心が、ゆっくりと開いていく。そこから現れたのは、想像を絶するような巨大な怪物ではなかった。


そこに立っていたのは、小柄な人影だった。その姿は、まるで小さな子供のようだ。しかし、その体からは、底知れない、おぞましいほどの魔力が放出されていた。それが、魔王「シエル」だった。


シエルは、ゆっくりと周囲を見回した。その瞳は、まるで全てを見通すかのように鋭く、しかし、どこか警戒心を帯びている。彼は、地面に手をかざした。


「フフフ…これでまた一つ、大いなる冬への備えができたぞ。完璧だ…完璧な貯蔵だ…」


シエルが呟くと、大地から、キラキラと輝く魔力結晶がいくつも隆起してきた。シエルは、それらの結晶を一つ一つ丁寧に拾い上げ、地面に小さな穴を掘り、埋め始めた。まるで、大切な木の実を隠すかのように、手際よく。


その光景を見た王国軍の兵士たちは、息を呑んだ。


「な、なんだあれは!?魔王が、大地から魔力を吸い上げているのか!?」


「まさか、あれが魔王の力の源…!?」


アリアは、その光景に顔を青ざめさせた。


「あれが…魔王シエル…!大地から魔力を直接吸収し、自らの力に変えている…!我々の想像をはるかに超える存在…!」


その時、リリアーナは、シエルの行動に目を奪われていた。シエルが地面に埋めている魔力結晶は、キラキラと輝き、まるで宝石のようだ。ミーコは、光るものが大好きだった。


「んニャ?キラキラしてるニャ!面白そうニャ!」


リリアーナは、シエルが埋めている魔力結晶に興味津々で、一歩、また一歩と、シエルの方へと足を進めた。アリアは、その行動に驚愕する。


「リリアーナ様!?まさか、魔王に単身で挑まれるおつもりですか!?」


アリアは、リリアーナを止めようとしたが、リリアーナの動きは、アリアの想像をはるかに超えて速かった。リリアーナは、シエルが掘った穴のすぐそばまで到達していた。


シエルは、リリアーナの接近に気づき、警戒心を露わにした。彼の瞳が、鋭くリリアーナを捉える。


「キィィィィィィィッ!私の備蓄に近づくな!あの女め、許さんぞ!私の世界を脅かす気か!」


シエルは、そう叫びながら、リリアーナに向かって、貯め込んだ魔力を放った。それは、圧縮された魔力の塊で、リリアーナを吹き飛ばそうとする。


リリアーナは、その魔力塊が、まるで大きな「光る玉」のように見えた。ミーコは、動くもの、特に光るものが大好きだった。


「ニャー!キラキラしてて面白いニャ!もっと出してニャ!」


リリアーナは、そう叫びながら、無意識に「猫の気まぐれ(カオス・キャット)」を発動した。魔力塊は、リリアーナに当たる寸前で、まるで意思を持ったかのように、あらぬ方向へと逸れていく。そして、そのまま王国軍の陣地の端に吸い込まれるように消滅した。


王国軍の兵士たちは、その光景に呆然とした。


「な、なんだ!?魔王の攻撃が消えたぞ!?」


「賢者様が、魔王の攻撃を無効化したのか!?」


アリアは、リリアーナの「神業」に、さらに畏敬の念を深めた。


「リリアーナ様…!魔王の渾身の一撃を、遊びのように翻弄されるとは…!これが神の御業か!」


一方、魔王シエルは、自分の攻撃が消滅したことに混乱していた。


「くっ…あの女の行動は読めん!何故あのような無意味な動きを…!?いや、これこそが真の策略か…!?」


ゼノスは、シエルの混乱を目の当たりにし、顔を青ざめさせた。


「魔王様…!あの女、まさか魔王様の行動を先読みし、攻撃を無力化したのか…!」


こうして、元猫のリリアーナと元リスの魔王シエルは、それぞれの本能と気まぐれに突き動かされ、人間と魔族の壮大な誤解を巻き込みながら、最初の「脱力系」対峙を果たしたのだった。


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