第9話:魔王の真の目的と、猫の不快感。-1
~ニャンてこった! 異世界転生した元猫の私が世界を救う最強魔法使いに? ~
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魔王シエルの「重圧の領域」の中でのリリアーナの「お昼寝」は、両軍に奇妙な膠着状態をもたらした。
人間軍は賢者の「究極の集中」を信じ、魔王軍は賢者の「新たな罠」を警戒し、互いに決定打を欠いたまま時間が過ぎていった。戦場の喧騒は、リリアーナの深い眠りの中では、遠い子守唄のように聞こえていた。
彼女が目覚め、新たな「キラキラ」を求めて谷の奥へと進んでいくと、両軍は再びその予測不能な行動に翻弄されながらも、激しい戦闘は一時的に小康状態へと移行した。
しかし、それは決して戦いが終わったことを意味するものではなく、嵐の前の静けさ、あるいは新たな策略の始まりであると、両軍はそれぞれに解釈していた。
王国軍は、賢者リリアーナの「神業」によって、魔王の新たな領域魔法を無力化し、さらに魔王軍の動きを鈍らせたと信じ、その名を称賛した。兵士たちの間では、リリアーナの伝説がさらに尾ひれをつけて語り継がれ、彼女の行動の全てが、勝利への確かな道筋として受け止められていた。
アリア・グランツは、リリアーナの行動の全てに、深遠なる戦略的意味を見出し、兵士たちに熱弁を振るっていた。彼女の言葉には、一点の曇りもない絶対的な信頼が込められていた。
「リリアーナ様は、魔王の領域に身を置きながらも、その力を完全に無力化されました!あの極限状態での『瞑想』は、魔王の魔力を吸収し、その領域そのものを無効化するための究極の集中だったのです!これこそ、賢者様の真の戦略!我々凡人には到底及ばぬ、神の御業でございます!賢者様の御力があれば、いかなる魔王の策も通用しません!」
アリアの瞳は、リリアーナへの絶対的な信頼と、揺るぎない確信で輝いている。
彼女は、リリアーナが戦場で昼寝をしていたことすら、「魔王の精神を揺さぶるための、大胆不敵な心理戦」と解釈し、その洞察力に自ら感銘を受けていた。兵士たちもまた、賢者様の奇策に奮い立ち、士気は依然として高かった。彼らにとって、リリアーナはもはや、戦場の女神そのものだった。
しかし、リリアーナの頭の中は、全く別のことで満たされていた。
「ニャー…(もっと、面白いもの、ないかな…)」
彼女は、谷の奥で見つけた、かすかに光る小石を爪で転がしながら、退屈そうにしていた。
あの谷の「ゴロゴロ」と「ピリピリ」する不快な振動はもうないが、新しい「キラキラ」も見つからない。
この世界は、時々退屈になる。
もっと刺激的な「おもちゃ」はないものか。彼女の好奇心は、常に新しい獲物、新しい遊びを求めていた。
一方、魔王軍は、度重なる打撃と、リリアーナという予測不能な存在に、疲弊の色を隠せないでいた。
兵士たちの顔には、疲労と、そして得体の知れない恐怖が浮かんでいる。
魔王シエルは、リリアーナを捕らえることができないまま、彼のリスとしての本能が、来るべき「大いなる冬」への、さらなる大規模で、そしてより強固な備蓄計画へと彼を突き動かしていた。
彼の焦燥感は、もはや限界に達していた。彼の脳裏には、食料が尽き、寒さに震える、絶望的な冬の情景が浮かんでいた。
それは、リスにとって最も根源的な恐怖であり、彼を狂気へと駆り立てる原動力だった。
「キィィィィィィィッ!あの女め…!私の備蓄をこれ以上邪魔させるわけにはいかん!ゼノス!全軍を招集し、最終決戦の準備を急げ!『大いなる冬』は待ってくれんぞ!もはや、悠長に構えている暇はないのだ!一刻も早く、全ての魔力を貯め込まねば、世界は滅びる!」
シエルは、荒れ狂うような声で叫んだ。彼のリスとしての本能が、彼に休息を許さなかった。彼の瞳は血走り、その顔には、狂気にも似た執念が浮かんでいた。




