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第6話:魔王の罠と、猫の気まぐれな回避。-3

リリアーナが次に目を開けた時、そこは薄暗い洞窟の中だった。


ひんやりと湿った空気と、埃っぽい匂いが鼻をくすぐる。地面には、大量の木箱や樽が、天井まで届くかのように高く積み上げられている。


その隙間からは、微かに、しかし確かな「お魚の匂い」が漂ってきていた。それは、先ほどの平原の不快な匂いとは全く異なる、ミーコにとっての「安全」と「幸福」の匂いだった。


「んニャ!?お魚ニャ!?」


リリアーナの瞳が輝いた。不快な振動も、ピリピリとした空気もない。そして、何よりも、お魚の匂いがする!ミーコは、匂いの元へと、自然と足が向かう。


リリアーナは、お魚の匂いを辿るように、洞窟の奥へと進んでいった。しかし、その洞窟は、ただの洞窟ではなかった。


そこは、魔王軍の秘密補給基地だった。


大量の食料、武器、そして魔力回復薬が、整然と、しかし隙間なく積み上げられていた。魔王軍にとって極めて重要な拠点だ。魔族の兵士たちが、忙しなく物資を運び入れている。彼らの顔には、疲労の色が濃い。


「おい、そこの荷物、もっと奥へ運べ!魔王様の備蓄に使うのだから、丁寧に扱えよ!少しでも傷つけたら、ゼノス様が黙っちゃいねぇぞ!」


魔族の指揮官が、兵士たちに指示を出している。


その時、リリアーナが、指揮官の足元に転がっていた、小さな木製の樽を、猫じゃらしのようにチョイと突いた。それは、ミーコがよく、飼い主の足元にあるものを、遊び半分で突っつくような、ごく自然な動作だった。


「ニャー!」


樽は、バランスを崩し、ゴロゴロと転がり始める。


その樽が、積み上げられた他の木箱や樽に次々とぶつかり、まるでドミノ倒しのように、大量の物資が崩れ落ちていった。

轟音と共に、食料や武器が散乱し、魔力回復薬の瓶が割れて、独特の匂いが洞窟に充満する。


「な、何事だ!?何が起こった!?」


魔族の兵士たちは、突然の事態に混乱し、互いにぶつかり合う。

彼らの顔には、驚愕と、そして魔王への恐怖が浮かんでいた。


こんな場所で、まさか事故が起こるとは。


リリアーナは、そんな彼らの混乱を尻目に、お魚の匂いを辿って、洞窟のさらに奥へと進んでいく。彼女の目的は、ただひたすら、お魚の匂いの元に辿り着くことだけだった。


その頃、平原では、魔王シエルが「世界樹の根」の領域展開を続けていた。彼の全身から、絶え間なく魔力が大地へと流れ込んでいる。彼の体は、魔力で満たされ、力が漲っていくのを感じていた。


「フフフ…これで、あの女も、人間どもも、私の領域からは逃れられん。全ての魔力を吸収し、大いなる冬への備蓄を完遂する!誰も私の計画を邪魔することはできん!」


シエルは、勝利を確信していた。


彼のリスとしての本能が、備蓄が満たされていくことに、最高の満足感を与えていた。


しかし、その時、彼の脳内に、ゼノスからの緊急報告が響いた。それは、シエルの耳には、悲鳴にも似た焦りの声に聞こえた。


「魔王様!大変でございます!秘密補給基地が、何者かの襲撃を受け、壊滅状態にあります!物資が…物資が全て散乱し、使用不能に…!」


「な、なんだと!?誰が…!?秘密補給基地だと!?あの厳重な警備を突破したというのか!?」


シエルの瞳が、大きく見開かれた。彼の「超高速思考」が、瞬時に状況を分析する。秘密補給基地は、厳重な警備が敷かれており、人間が単独で侵入できるはずがない。

しかも、この「世界樹の根」の領域展開中に、別の場所でこれほどの被害が出るとは。


「まさか…あの女か!?」


シエルは、リリアーナが自分の領域を突破し、秘密補給基地を狙ったとしか考えられなかった。彼のリスとしての用心深さが、リリアーナの行動を、より悪辣な「奇策」だと認識させたのだ。彼の脳裏には、リリアーナが魔王の思考を読み、その弱点をピンポイントで突いた、悪魔的なまでの知略が描かれていた。


「くっ…あの女め…!私の領域を突破しただけでなく、補給路まで断つとは…!何という恐るべき空間操作術…!そして、その周到な計画…!まさか、あの女は、私が『世界樹の根』を使うことまで見越していたというのか…!?」


ゼノスは、魔王の動揺を目の当たりにし、冷や汗をかいた。彼の顔には、恐怖と、そしてリリアーナへの畏怖が浮かんでいた。


「魔王様…!まさか、あの女が、魔王様の領域を突破し、補給路を断つとは…!恐るべき空間操作術…!これは、我々を内部から崩壊させるための、巧妙な戦略に違いありません!我々は、賢者様の掌の上で踊らされていたのですか…!」


ゼノスもまた、リリアーナの行動を「戦略」と解釈するしかなかった。彼の脳裏には、リリアーナが魔王の思考を読み、その弱点をピンポイントで突いた、悪魔的なまでの知略が描かれていた。


一方、平原では、アリアがリリアーナの「神業」に、さらに畏敬の念を深めていた。彼女の瞳は、リリアーナへの絶対的な信頼で輝いている。


「リリアーナ様…!魔王の領域に飛び込み、その内部から敵の補給路を断つとは…!これこそ、賢者様の真の戦略!我々には到底及ばぬ、神の御業でございます!賢者様は、ご自身の身を挺して、我々に勝利への道を示してくださったのだ!」


アリアは、リリアーナの行動を「魔王の領域を突破し、内部から攪乱する奇策」だと信じ、兵士たちに総攻撃の指示を出した。彼女の声には、確信と、そしてリリアーナへの感謝が込められていた。


「全軍突撃!賢者様が道を開いてくださった!今こそ魔王を討ち滅ぼす時だ!賢者様のご期待に応えるのだ!」


人間軍は、リリアーナの「犠牲」と「奇策」に奮い立ち、一斉に魔王軍へと突撃した。彼らの雄叫びが、平原に響き渡る。


その頃、リリアーナは、洞窟の奥で、大量の干し魚が積まれた場所を見つけていた。

その干し魚は、丁寧に燻製されており、ミーコにとって、これまでの人生で嗅いだことのないほどの、最高の香りを放っていた。


「ニャー!すごいお魚ニャ!こんなにたくさん!これで、しばらくは困らないニャ!」


リリアーナは、干し魚の山に顔を埋め、満足げに喉を鳴らした。

彼女の頭の中は、ただ「美味しいお魚が見つかった」という、猫らしいシンプルな思考でいっぱいだった。外で何が起こっているかなど、彼女には全く関係ない。


しかし、その行動は、この世界の運命を大きく左右する、歴史的な奇襲作戦の成功となったのだった。そして、誰もその真意を知る者はいないまま、物語は続く。


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