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王命

ミオ・ルルクラージェが十六歳となった日から、約千年前。


アレクダリア王国が建国される前まで遡る。


その頃、世界では戦乱が絶えず混沌としていた。


原因は、世界征服を企む魔王が『世界統一』を宣言して世界中に宣戦布告したことに起因する。


魔族が中心となった魔軍を率いた魔王が各国に侵攻を開始すると、『世界統一』をよしとしない人族を中心とした様々な種族が武器を持って魔軍に立ち向かった。


当初、魔王率いる魔軍はすぐに敗北するだろうと思われていたが、実際に対峙すれば数が圧倒的に多かったと人族や他部族が尽く敗北。


これによって、当時の世界中に点在していた多くの大国が滅ぼされたという。


魔王を筆頭とした魔族と呼ばれる種族は数こそ少ないが、一騎当千となり得る様々な高い『素質等級』を持つ突出した者が多かったのだ。


一方、対する人族達は数こそ多いが、突出した素質等級を持つ者が少なかったのである。


素質等級とは武術、魔法を始め、料理、為政者、商人などなどその者が生まれ持った高い素質を示す。


一等級が最低値であり、五等級が最高値。


生まれ持った素質によってその技術がどれぐらい伸ばせるかが決まっていて、素質等級は親から子に受け継がれやすいと言われるが、突拍子もなく高い素質等級を持つ子が生まれることもあった。


俗にいう『天才』である。


なお、通常生活を送るに至っては高い素質等級が無くても問題はない。


等級とは一番高い素質を示すのではなく、一定上の素質を有していることを指すため、人によっては複数の素質等級を所持している場合もある。


そして、誰もが最低でも何かしらの素質一等級以上を持って生まれるという。


高い素質等級を持って生まれたからといって、最初から強いわけではない。


高い素質を持っていても鍛えなければ、低い素質の者に負けることはざらである。


しかし、高い素質等級を持ち、なおかつ鍛え上げた魔族が集まった魔軍を前にした時、当時の人々は無力だった。


魔王率いる魔軍の侵攻は進み、世界の名だたる大国が地図から次々と消えていくという混沌した日々が続いたある日、現アレクダリア王国の城が立つ位置にあったという小さな村にいた『ルルクラージェ』という十六歳の青年に『女神リシス』の神託が下る。


『この混沌とした世界の収める救世主として、貴方には勇者素質五等級を授けました。その力を持って、魔王を討ち果たしなさい』


ルルクラージェは神託が下りたことを家族と村長に告げ、彼は勇者として魔軍に対抗する義勇軍に参戦。


この際、数多くの友が彼に続いたという。


また、その面々の中には後にルルクラージェ家の後継を生む少女の姿もあったという。


強力な魔軍相手に、ルルクラージェは善戦して勝利を少しずつ掴み取っていく。


やがて、彼は魔軍から恐れられる存在となっていた。


更に数年後、世界の命運は魔王と勇者一行の対決に託され、勇者一行が魔王に打ち勝つことに成功。


しかし、勇者ルルクラージェはこの戦いで受けた傷によって死亡。


魔王が倒されたことで魔軍は解体され、世界にようやく平和が訪れた。


戦いを終えた勇者一行はそれぞれの出身地に帰途に付く。


ルルクラージェの同郷で親友だった者は、故郷の村を大きくして『アレクダリア』という国を興して王となった。


ルルクラージェの子を身籠もっていた少女は男の子を産み、アレクダリア王国の庇護下でルルクラージェ家を興す。


それから約千年の時が経過したが、幸いにも世界には大きい戦争もなく平和が保たれている。


だが、勇者の親友。


つまり、アレクダリアの王族にしか知らない事実があった。


『強力な魔王は勇者の力を以てしても討ち果たせず、封印しかできなかった。また、その封印は千年程度で解けるだろう』ということである。


魔王封印当時、この事実は絶望深い混沌とした世界に告げるには、あまりにも酷なことであった。


また、魔王を倒せなかった勇者とその一行に心ない憎しみが向けられる可能性もある。


勇者の親友は断腸の思いで、魔王封印の公表を伏せた。


だが、公表を伏せた理由はもう一つある。


それは勇者の遺言であった。


『女神リシス様から神託があった。いまから約千年後、同じ血筋から勇者が世界に再び生まれる。その者が、魔王を今度こそ討ち果たすそうだ』


この遺言は世界の希望であると共に、勇者の血族が再び世界の命運を握るということだった。


下手に公表すれば、勇者の血族が魔族に狙われる可能性を高めてしまう。


故に親友は故郷で国を興して王となり、勇者の血族を護って今に至っていた。


「……というわけでな。魔王復活は間近だと思われる。いや、もしかしたら、すでに復活しているやもしれんのだ。む、ミオ、聞いておるのか」


「くぅ~……んにゃ? あぁ、ちゃんと聞いていたのにゃ」


話が長くてうつらうつらしていた余は、目を擦りながら口を大きく開けて欠伸をした。


「要するに、余のご先祖様が倒せていなかった魔王が近いうちに復活するという話だにゃ。前置きがながいのにゃ。それで、結局余にどうしてほしいのにゃ」


「ふむ、ちゃんと聞いていたようだな。では、アレクダリア王国の王として命ずる、ミオ・ルルクラージェよ。貴殿は今より王都内にある冒険者ギルドに出向き、仲間を募るのだ。そして、魔王討伐の旅にでよ。祝福の勇者素質五等級の力によって、今度こそ世界に恒久の平和をもたらすのだ」


「んにゃ……?」


理解ができずに、余は首を傾げした。



なるほど、余のご先祖様が魔王を倒しきれずに封印したことはわかった。


そして、その封印が解けるの今年もしくは近いうちということも。


しかし、だからといって何故に余が勇者という旗を掲げて魔王討伐に出向かなければならないのか。


というか、リシスはイセカイテンセイ後も『家ネコ生活』が送れると言っていた。


勇者として魔王を倒すなんて話が全く違うし、聞いてもいない。


生まれて五年しか前世家ネコと同等の生活はできていないというのに、挙げ句に今度は勇者として魔王を討伐してこい、だと。


どいつもこいつも、勝手に話を進めてくることにだんだんと腹が立ってきた。


「い……にゃ」


「む、どうした。ミオ」


クラウスとジャスネがきょとんと首を傾げると、余は二人を睨み付けて凄んだ。


「断じて嫌にゃ。余の信条は、寝たいときに寝て、食べたい時に食べて、遊びたいときに遊ぶことにゃ。勇者として魔王討伐だなんて、そんな面倒臭いこと包み込んでお断りするのにゃ」


指を指して怒号を発すると、感情に呼応してか余を中心に魔波が室内に吹き荒れる。


室内の壁がきしみ、大きな壁掛けが激しく揺れ、足下にある絨毯が大きく波打った。


「ぬわぁあああ⁉」


「あわぁあああ⁉」


余が発した突然の魔波に対応できず、クラウスとジャスネがその場で吹き飛ばされるようにひっくり返った。






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