【第1夜③ ~大岩~】
ノルンの滝を出ると、要所ごとに憲兵が見張りに立っていて、それをかわす為に私たちは木から木へと移りながらの移動を余儀なくされた。魔法による移動魔法も可能ではあったが、この先どれ程魔力を必要とするか分からないこと、またマグヌスが鈍った勘を取り戻したいとの事で、私たちはこの移動方法をとった。私はそれに少し後悔しつつも、確かにどれほどの敵が待ち受けているか分からない不安も多少はあったので、我慢して木登りをする。
「私たちをここまで追いやるなんて、シュバリエ国王も向こう側に付いたってことなの?」
私は王宮で初めて会った王の姿を思い出しながら、そう簡単に私たちを敵に回すほど思慮の浅い人には見えなかったなと残念に思う。
「王はもしかしたら、洗脳されているかもしれない。」凱は振り向きざまに言う。
「洗脳?まさかロイ団長がやったっていうの?」
「いや、それは分からない。でもメルゼブルクで起きていることがここで起きる可能性は十分にあるだろ。メルゼブルク王のあの様子、あれは洗脳としか思えない。あんなに温厚だったおじいちゃんのような人が…、クラウディスとまともに口論するなんて…。少し前まで、ふん、ふん言ってほとんど取り合わなかっただろ?それがあんな攻撃的になって…。だとしたら、シュバリエ王も洗脳の可能性は限りなく高い。もしそうなら、早く王の洗脳を解かねば…。」
「そうだね…。」凱が無意識に話の途中にメルゼブルク国王の口調を真似てくるので、話が全く入ってこなかったが、とりあえず返事をしてみる私。
「凱、そろそろ目的の場所じゃないか?」先を行くマグヌスが声をかける。
「莉羽。ちょっと魔力出してみて。」凱はこれから始まるであろう戦いに備えて、私の魔力の出力調整に余念がない。
「うん。」私は微量の魔力を解放してみる。すると50mほど目の前の大岩を光が指した。
「今の出力はちょうどいい感じだ。いかに効率よく自分の魔力を使いこなすかが、今後の課題だからな。」
「うん、わかった。いろいろ試してみる…、難しいけど。で、あそこの岩かな?」
「ああ、それっぽいな。」私たちはその大岩の前までくるが、そこに洞窟の入り口と思われるものがない。
「入り口ってどこ?」私は大岩を一周してみるが、割れ目一つない。
「莉羽。『宿世石』出してみて。」凱が何かを思いついたように言う。
「うん、待って。」私は石の力を遮断する、魔物の胃袋で作った巾着の中から、真っ赤に光る『宿世石』を出す。
「それ、岩に近づけてみて。」
私は凱に言われたように、その石を大岩に近づける。するとさっきまで割れ目一つなかった大岩が、その中央から縦に裂け始め、一直線に眩い真っ赤な光が溢れる。そして岩の両側が横にスライドし、そこに地下への階段が姿を現した。




