【疑惑だらけの父の帰宅】
その後も連日拉致事件のニュースが流れ、人々はいつ自分が連れさられるのかと不安な毎日を過ごしていた。そんな中、神遣士としての自覚と覚悟を決めた私は、為す術なく、ただそのニュースを見守ることしかできなかった。
莉奈と凱といえば、2人で出かけることがさらに増え、私のイライラは募るばかりだった。しかも、私の気のせいかもしれないが…、いや、おそらく気のせいではないだろう…莉奈は私に見せつけるかのように凱にべたべたしている。凱に腕を絡ませ、楽しそうに笑顔を振りまき、2人で出かける様子は見るに堪えない。
『コノヤロー』と思いつつ、莉奈がいない時間を使って、私は母と夢での出来事を共有し、神遣士だった当時の母の記憶とすり合わせ、まだ見ぬ敵についての手がかりを探し出すことに専念する。それと同時に、各星の現状を踏まえ、今後どのように行動していくべきかも考えていた。だが、こういう時に限ってなかなか夢を見ない。
行き詰ったこの現状をどう打開していくか話していると、家のチャイムが鳴る。莉奈が家に戻ってきたこと、明日が私の誕生日であることから、仕事を早めて父が帰ってきたのだ。
「おっ、おかえりなさい、お父さん。帰ってくるなんて聞いてなかったからびっくりしたよ。」
「ああ、連絡しなかったからね。ただいま。あれっ?莉奈は?戻ってきたんだよね?お父さん嬉しくて、嬉しくて。今日は奮発してグリーン車で帰ってきたよ。」とテンションの高い父に、母は笑顔で応える。
「あら、そんなに急いで帰ってきてくれたのに残念。莉奈は今、凱と出かけてるわ。」
「あっ、そうなのか。可愛い顔が見たかったのにほんとに残念だ。ところで莉奈の体は大丈夫なのか?」
「ええ。まるで別人になったみたいに元気なのよ。ご飯も莉羽より食べるし。」
「えっ?莉羽よりも?」父はあり得ないと言わんばかりに言う。
「お父さん、驚きすぎだよ…。そんなに私って食べてる?」私はふてくされながら言う。
「気づいてないのは自分だけね。」ほほ笑む母。
「今日はパーティーかな?凱君も呼ぶんだろ?」父のテンションがさらに上がる。
「ええ、彼も家族の一員だもの。」母はそんな父を、横目で探るように見ていた。
私たちは久々に家族の時間を過ごす。父は仕事の都合上、なかなか家でゆっくりすることはない。しかも度々莉奈が入院していたため、4人というのは滅多になかった。
父と莉奈への疑惑は消えてはいないが、それでも家族で過ごす時間は心から楽しかった。しかし今思うと、きっとこの時、ここにいた誰もがこの家族団欒が最期なのかもしれないと感じていたに違いない。
これから始まるこの星の平和をかけた戦いを、敵味方と立場こそ違うものの、誰もが何となく意識していた。




