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【消えた呪縛と決心】


 莉奈が家に戻ってきた。異国の失踪者たちは、自分の家の場所以外の全ての記憶を失っていたが、莉奈は私以外の記憶を全て覚えていた。その為、母と凱には普段通りに接している。そんな莉奈を警戒しながらも、凱は楽しそうに話している。


 私は自分だけがのけ者のような気分で面白くない。それを分かっているのか、こちらをちらっと見て、

「私、凱の家に行ってくるね。」莉奈はそう言って、凱と家を出る。


 私と母は、あまりに突然の事態に呆気に取られ、お互いに顔を見合わせて溜息をつき、


「莉奈、私のことだけ忘れてるね…。」と複雑な心境で私はうつむく。


「あなたたちが家を出て、少し経ってから…、玄関に、パジャマ姿のままの莉奈が立っていたの。泣きながら、『ただいま、お腹すいた』って…。食の細い莉奈が、前とは別人のように、元気にご飯もたくさん食べて、一生懸命話すの。姿、形は莉奈なのに、中身は全くの別人。


 それでここからが怪しいんだけど、昨日お父さんがかけたかもしれない莉奈の呪縛についての話をしたわよね?その呪縛がね、解かれてるの。うれしいことなんだけど…、もしお父さんの呪縛が、敵の指示でなされていたとしたら、なぜ今この時期に、呪縛が解かれたのか…。


 おそらく今の状況だと…、メルゼブルク王、クラウディスには、莉羽が神遣士で凱がバートラルってことは、もう知られているはずだから、なぜそこで呪縛を解くのか…、目的が分からないの。だから、自分の娘なのに…、怖いわ…。」母はそう言って、疲れたようにうなだれる。私はその母の肩に手を置いて、


「お母さん。私…、昨日の話を聞いてから、ずっと考えてた。それで遊園地での悲惨な拉致の実態も目の当たりにして…、どうするのが自分にとっても、世界にとってもベストなのかって考え始めたんだ。あと、回生前の、お母さんとこの国の王が、世界のために自分たちの想いをあきらめざるを得なかった事とかも…、だってその思いがあって今があるわけだもんね。だから、もし自分が神遣士であるとするならば、自分はどうすべきなのかなって、昨日は全く考えられなかったけど、やっぱりちゃんと考えて…。


 それで…、多分お母さんにはもうばれていると思うけど、私は今、好きな人がいる。私はその人も大切にしたいし、世界中の人たちも大切にしたい。それでね、私が大切にしたい人が言ってくれたの。お前が自由に恋愛できない世界になんて俺は存在したくないって…。」そう話しながら涙が溢れそうな私。そんな私の姿を見て母の目も潤んでいる。


「なんかね。それ聞いたら満足しちゃって…、あはは。…だから、とにかく今は、バートラルである凱と一緒に世界を救いたい。恋とか愛はそのあと!うん、だからいろいろ…、もう大丈夫。覚悟できたよ。」


 涙ながらに一生懸命、自分の感情を消し去って話す娘の様子に涙しない母はいないだろう。母も例外ではなく、私のその様子に大粒の涙を流している。私もその様子を見て、流れる涙を拭って、


「で、お母さん、私は今、何をすればいい?」覚悟を決め、尋ねる私。


「自分でそう決めたのね。」


「うん。もう迷わない。」涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔で、私の頭をなでる母は、


「そうそう、お誕生日が近いし、ちょっと早いけどプレゼント。きっとあなたの力になる。」


「え?何?突然…。今そんな感じの話じゃ無かったよね?」私はマイペース過ぎる母の言動に驚かされていたが、今日のは一際(ひときわ)だった。


「あら、話はちゃんとつながるわよ。はい、これ、お守りよ。」と言って、青い石のピアスを渡す。その色は、聖なる泉のように真っ青に透き通っていて、神秘的な蒼だった。


「きれい!ありがとう!お母さん。」私は早速つけて鏡で見る。すると心なしか片方の石の色が変わったような気がする。


「今、右の石の色が…。」私が言いかけると、


「どんな色になるか楽しみね!」母は意味ありげに言う。


「?」母の言った意味が分からず、不思議そうな顔をしていると、莉奈が凱に腕を絡ませてリビングに入ってくる。観覧車での一件から、私は凱と心の奥で思いが通じ合ったように感じていたが、目の前でいちゃいちゃされると、むかつく以外の何物でもない。


『凱は莉奈の監視のために一緒にいる』


そう思えば気も楽になると思ったが、感情はなかなかそう思うようにはいかず、嫉妬で胸が苦しくなり、今すぐにでも莉奈を凱の隣からどかしたい気持ちに駆られる。





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