【漆黒の結界】
【前回より】
そこでお母さんは最期の回生を行った。
その時、お母さんは凱に向かってこう言ったの。
『私は今回の件の処罰を受け、この回生を全うした後、神遣士の資格を失う。でも、あなたはバートラルを継承するはず。だから、次の神遣士にこう伝えて。次の回生までに、この世の理と人々の真の幸せをしっかり見極めてほしいと…。
今まで私のため、世界のために尽力してきてくれたこと、心から感謝しているわ。本当にありがとう。次の世でのあなたの幸せを祈っています。』ってね。
そして、お母さんの想い人である王は、お母さんに向かって、
『この回生が行使された後、あなたも私も全ての記憶を失う。あなたの事はもちろん、あなたへの愛もはかなく消えていくでしょう。でも、回生後、全ての記憶を失おうとも…、私はこの5つの星の中から必ずあなたを見つけ出し、そしてあなたをこの手で幸せにします。必ず…、必ず…。』と言い残して、回生の渦に巻き込まれていったの。
お母さんもその直後、回生の渦に巻き込まれたわ…。
そして、回生前の記憶を取り戻し、また再び凱には出会うことができた。」
「その彼…アースフィア王には会えたの?」
「いいえ…。会いたい気持ちはあるけれど、まだ記憶が戻っていない時に、お父さんに出会って結婚したから…。どの星にいるかさえ分からないし、最悪その回生で命を失った可能性もある。でも、お母さんにはあなたたちがいる。だから、記憶は記憶として残っているけれど、今更どうこうしようとは思っていないわ。」
「お父さんがその彼って可能性はないの?」
「…ショックを受けないで聞いてほしいんだけど…。」母は意味ありげな物言いで続ける。
「お母さんが神遣士の記憶を取り戻してからしばらくして、この家の中で不可思議な事が何回か起きたの。お母さんは、あなた達を守るため、家と凱の家の周りを囲むように結界を張ったんだけど、それから数年後にお母さんの結界の周りに、漆黒の結界が張られ始めたの。その結界の力によってお母さんの結界が弱くなったり、破られたりを繰り返していて…。それは必ず単身赴任のお父さんが帰ってくるときに起きるの。
それに関係あるかは分からないけど…、それと同じ時期から莉奈の体調に変化が表れ始めたの。莉奈の周りに怪しい気配を何度も感じて、その度にその呪縛を取り払おうとしていたのだけど、あまりに強力で、お母さんの力でも解けないの。だからお母さんはお父さんの監視、凱は莉奈の護衛と監視役として近くにいてもらっているの…。」私は母の衝撃的な告白を聞いて、顔から血の気が引くのを感じる。
「まさか…、お父さんがそんなこと…。なんのために?莉奈に何をしようとしているの?」




