【回生 ~前世での母の記憶と疑問~ 】
【前回より】
平和のための粛清。でも戦争は回避できない。結果、回生を発動。私はそれが、本当の平和な世界といえるのか…回生を重ねる度、その疑問が大きくなっていった…。その都度神様にお伺いを立てても、その件に関してだけは答えをいただけない。果たしてそれが正しいのか、そうでないのか…。この仕組みを考えたのも、人間。結局は私たち、人間の意志に委ねるという事なのかと。
お母さんは、そんな世界の中でいろんな事を考えさせられたわ。
特に「私たちの力」のもとに作られた平和の中で生きることが、どういうものなのか…。
「回生」により全てを失うことが、お母さんには理解を超えるものだったから。
なぜなら、お母さんは、現世で初めて家族を持ったの。だから神遣士だったころは、人並みの感情はあるにせよ、家族を、大切な人を失うことがどれほどの事か分からなかった。
そこである日、お母さんは天空界…お母さんや他の12人の仲間たちの拠点となっているところから、今でいうシュバリエに降りて、そこに住む人々の暮らしをこの目で確かめてみようと思った。この回生という仕組みの中で生きる人々の想いに触れてみようと。
そしてお母さんは人の愛を知り、自分の疑問に間違いがなかった事を確信したわ…。
神遣士が「誰か特定の相手に特別な感情を抱く」という感情はもとより持ち合わせてなかったし、万が一にも禁じられていた。その万が一ということもあって、天空界を降りて、人間に混じって生活するなんて論外だった。もし遣士がその万が一を犯して、人間を好きにでもなったらどうなるかってことは…、誰も知らなかったけれど、監視がつく位だから、それは相当なことが起きる事は軽く理解できたわ。そこでお母さんの監視をしていたのが…、お母さんの眞守り人、通称バートラルの…、凱よ。」
「え?」私は驚きのあまり、絶句する。
「驚いて当然ね。まさか、凱が?って感じよね?凱とお母さんは、神とバートラルという主従関係にあった。その関係は魂の契約により成立するのだけれど、一度契約するとその関係は、一生拘束力を持ち破棄することが出来ない。
そして、遣士とバートラルはその契約により、計り知れない力を与えられると言われていた。でも、お母さんの時代にはこの力を行使する機会がなかった。なぜなら、回生による平和が保たれていたから、その力を行使する必要性がなかったの。その当時は、回生を脅かすような存在が現れなかったから…。
結局、お母さんが遣士として世界を護っているときは、その力を見ることはなかったの。」私は母の意味ありげな言い回しが気になって、
「お母さんの時代には無かったってことは…、ここ最近はあったってこと?」思わず聞いてみる。母は少し考えて、
「それはまた別の機会に話すわね。」意味ありげに笑う。
「うん…。」あっさりはぐらかされたが、おそらく2人には、とてつもない力があるのだろうと推測される。
「それでね、さっきの話に戻すけれど…。今まで積み上げてきたもの、培ってきたもの、作り上げてきたもの、全てを失う「回生」による操作が、本当に人々を平和に導くのか…の疑問で、シュバリエに降りたお母さんは、そこである男女と出会った。2人は心からお互いを思い合い、いかなる試練が訪れても愛を諦めなかった。
お母さんは、そんな2人が付き合い始めてから結婚、そして新しい家族が生まれて幸せな家庭を築くまでの時間を、監視の目を掻い潜って共有してきたわ。でも、その幸せな家族を…、よりによって、戦争の危機が生じて、お母さんは自分の手による「回生」で…、引き裂こうとしている現実を突き付けられたの。
その家族を見守りながら「回生」について考えている中、お母さんはまた別の星に降りて1人の男性に出会った。とても優しく、みんなに愛され、そして周りを大切にしているその人に魅かれてしまった。そんな感情は持つことは、有り得ないはずなのに…。
そこからさらに頻繁に、凱の目を盗んでは、その人のいる星アースフィアに降りて、その男性と会うようになったの。




