【回生】
【前回より】
「争いを繰り返し、大地を汚し、破滅していく人類」に絶望した神が、元々霊力のある清き魂を持つ【神遣士】に自分と同等の力を授け、自然の維持と、戦争のない世の中を創るよう命じられた。その神遣士は、考えた末、神より強大な力を授かり、世界の仕組みを作り替えたことに始まったの。
それまでの歴史を紐解くと、人類は約二千年に1度、必ず、世界を巻き込むほどの、大規模な戦争を巻き起こし、破滅への道を歩んできた。人間にとって、二千年が平和を維持する限界なのだと考えた彼は、約二千年前後に、世界の情勢から戦争が起きる直前で、すべての星の歴史、環境を、それぞれの惑星が生まれた状況に戻す。つまり、人間の記憶、社会、環境全てをリセットし、0からスタートさせる仕組みを作ったの。だから、それまで人間が作り上げてきたもの全てが消滅し、ゼロになる。全ては争いのない世界、穢れなき世界を維持していくためと。
そして、ここからがあなたに関わることね…。」
母は一度咳ばらいをして、再び話し始める。
その神遣士は自分の理想を完遂するために、自分の眞守り人1人、自分とバートラルの従者として10人の神使徒、2人の神士教を選び出し、世界を見守る務めを与える。彼らは、世界に争いの火種を見つけると、その火種が大きくならないように導くことを使命とし、常に世界を見守っていた。
でも結局、どの星においても、二千年を目安に人々は、私たちの手に負えないほど負の感情を蓄積させ、大規模な戦争を巻き起こそうとするの。憎しみ、妬み、嫉み、恨み、悲しみ、あとお金への執着や悪い意味での欲、例えば攻撃欲求とか支配欲求などの感情が、人間を凶器に変えていく。リセットしては、戦争へ、リセットしては…。私たちは、幾度となく戦争の直前に回生を発動し、破滅を回避させてきた。それを繰り返してきたのがこの星域の歴史よ。これはもちろん秘密裏で行われているものだから…、5つの惑星で暮らす人間は知らない事。
回生が定着した世の中で、また戦争の気配がこの世界を暗闇へと誘わんとしている中、私たちが回生の発動を余儀なくさせられていた時、「破壊神」と後に呼ばれる事となる、1人の男が現れるの。
その男はただの人間だったけれど、人間の恨み、妬み、怒り、憎しみ、殺意、嫉妬などの「負」の感情に心を支配され、その感情を取り込み、自分の力とするという特異な能力を持つことになるの。人間の負の感情が、その男に与えた力は絶大で、10人の下僕と共に、自ら神と名乗り、全世界を掌握しようとするまでになっていくの。そこから500年に渡る神遣士vs「破壊神」の戦いが始まり、これが5星戦争とよばれるもの。これももちろん限られた者しか知らないこの惑星の歴史。
その戦いにかろうじて勝利した神遣士側は、それぞれの星で生き残った人々を救済し、また0からそれぞれの惑星再建に尽力し、そして再び「回生」による「世界平和」を目指す世の中が形成され、今に至るというわけ。
そして、それ以降10人の使徒、2人の神士教を率いて、その回生を主導してきたのがお母さんなの。でも…、神の意のままに回生を何度か経験したお母さんには、疑問があったの…。人類の全ての記憶を消し、ありとあらゆる状況を0にしてまで作る「平和」は真の「平和」なのか…、そして一番の疑問は…。
『人々が歴史を刻んでいくと、必ずと言っていいほど、世界に戦争の危機を招く。私たち12人は、戦争に導くような不穏分子を見つけたら、その火種を取り除くことを使命としてきた…。それを私たちは粛清と呼んでいたわ。初めはそれが、自分に与えられた使命だからと、当然のように行ってきた。でも戦争の危機が訪れようとする二千年に近づくにつれて、人々の不平不満、憎悪がどんどん増していって、粛清対象が急激に増えていくの。だから、その都度私たちは、粛清を行わなければならなかった。でも、どうやっても戦争の危機が生まれ、人類は滅亡への道を選ぼうとする。
平和のための粛清。でも戦争は回避できない。結果、回生を発動。私はそれが、本当の平和な世界といえるのか…回生を重ねる度、その疑問が大きくなっていった…。その都度神様にお伺いを立てても、その件に関してだけは答えをいただけない。果たしてそれが正しいのか、そうでないのか…。この仕組みを考えたのも、人間。結局は私たち、人間の意志に委ねるという事なのかと。




