【第16夜⑨ ~王妃になるということ~】
【前回より】
「さあ、莉羽、あなたの番です。」皇子はそう言って前に出るよう促すが、つないだ手を離すことはない。
そして、私は何百万という民衆を前に、深呼吸して話始める。
「ここに来てくださった皆さん、今日は本当にありがとう。まさかこんなにもたくさんの人が、私たちの結婚のために集まってくれるなど、思ってもみなかったので…、本当に…、嬉しいです…。」ここまで言うとまた涙があふれてしまう。
その様子を見ている民衆が皆、声を上げる。
『莉羽さま~』
『莉羽様頑張って~』その声はなかなか止まない。
皇子は、そんな民衆の様子に微笑みながら、涙が止まらない私のことをしばし抱きしめ、心を落ち着かせようとしてくれる。すると、それを見た民衆はさらに盛り上がり、その場はますますテンションが上がっていく。私は民衆の前で抱きしめられた恥ずかしさと、皇子の優しさと、民衆の温かい歓声に何とか心を落ち着け、話を続ける。
「皆さんの温かい祝福に胸がいっぱいで…、本当にありがとう。私はこの星に生まれ、この国で育ち、常に皆さんに愛されてここまでまいりました。私はこの星、この国、ここにいる皆さんが大好きです。だからこの星を守りたい、そう思っています。
ですから今ここで、私からも皆さんに、必ずやこの星の未来を平和に導くという約束をさせてもらいたい、そう思っています。エルフィー皇子と共に、私は必ず皆さんを守ると。」
その言葉に大歓声が沸き起こる。皇子は大役を果たした私を抱き上げ、
「莉羽、素敵でしたよ。また惚れ直してしまいました。」笑顔で皇子は話す。
そして私を下すと、皇子は真顔になって、
「さあ。」と私の手を取り抱き寄せ、いよいよ誓いのキスへと。
『あ~、いよいよだ。私のファーストキス…。』
皇子の顔を見つめる。するとふと目に入る、皇子の後ろの凱の姿。凱は私の思い違いか、目を背けているように見える。
『えっ?凱…なんでこんな時に視界に入ってくるの?』
私は微妙な気持ちで皇子に身を委ねる。
皇子の唇と私の唇が触れるか触れないか…、ドキドキも最高潮…。その瞬間、私と皇子の間に闇の空間が現れ、私たちを引き込もうとする手が伸び、その闇へと引き込んでいく。
真っ先にその事態に対応した凱が、その闇から私たちを引き戻そうと手を伸ばす。だが引き込む力は想像以上だ。私も皇子も「異能」の力を使おうとするも、その力が無力化されているのか何も発動しない。
それを悟った皇子が、悲し気な笑顔で、繋いでいた私の手を何とか凱に預け、
「姫を頼む…。」そう言い残し、闇の奥深くに吸い込まれていく。皇子の姿が完全に見えなくなったところで闇が消えてなくなる。
「皇子!皇子!エルフィー!」と泣き叫ぶ私を懸命に抱きかかえる凱。
あまりに一瞬の出来事に私は呆然とし、凱もその場に立ちすくむ。




