【第16夜⑤ ~挙式直前~】【改】
結婚式当日。
その日は、澄み渡る青空に、雲一つない快晴で、まるで私たちの結婚を祝っているかのように思えた。
私は、【結婚式】という初めての経験……、しかも人生最大のイベントを前に、緊張のあまり、なかなか寝付くことが出来ず、気づいたら朝を迎えていた。
「姫様!姫様!
起きてください!
今日は寝坊など……、
許されませんからね!」
寝起きの悪さでは有名な、お寝坊常習犯である私を叩き起こそうとする、侍女ヴァランティーヌの声が、私の部屋に近づくにつれて大きくなる。
いつもなら、まだ夢の中…の私は、今日初めて気づいたのだが……、ヴァランティーヌは毎朝、私の部屋に向かって、廊下を歩いている時点ですでに、私を起こす声掛けを始めていたのだった……。
私は今更ながら、恥ずかしくなる……。
ここまでしてもらわないと、私は起きられないのか……と。
しかし、今日ばかりはそんな事を考えている暇はない……。
気持ちを切り替えて……、おそらく生まれて初めてだろうと思われる…、朝、起きた状態でヴァランティーヌを迎える私。
「おはよう!ヴァランティーヌ。」
私は少し、わざとらしく、晴れやかに、声をかける。
すると、鳩が豆鉄砲を食らったような顔で驚くヴァランティーヌの時が、一瞬止まる。
いつもなら、起こすのに一苦労する私が、すでにベッドから出て、窓の外を眺めていたのだから、仕方のない事だ。
私はそんなヴァランティーヌを見て、
「何をそんなにびっくりしてるのよ?
失礼よ、ヴァランティーヌ。」
腕を組み、上から目線で、高圧的に、からかう様に声をかけてやろうと思った私だったが、堪えきれず、体を震わせ、フフフと笑いながら、ヴァランティーヌに声をかけると、ヴァランティーヌは、
「あ~、はいはい。
おはようございます、姫様。
今日はお日柄もよく……、
お目覚めも最高に晴れやかで……、
よろしゅうございますね……。」
無表情で、全く気持ちの入っていない棒読みの言葉を発して、私に対抗する。
しかし、侍女となって初めて、起こさずとも、自ら起きた…という私の行動で、結婚に向けた私の覚悟を悟ると、
「姫様……。
本日は、おめでとうございます。」
深々と頭を下げるヴァランティーヌ。
私は、少し涙ぐみながら、彼女に近づく。
そして、ギュッと力強く抱きしめ、
「ヴァランティーヌ……。
今まで、私の傍にいてくれて……、
尽くしてくれて、本当にありがとう。」
私のその言葉に、ヴァランティーヌも目に涙を浮かべ、
「姫様…。
わたくしは、心から……嬉しいです。
幼きころから、その成長を見守ってきた、
あなた様が……、
とうとうこの日を迎えられた事……。
しかも、あのような立派なお方…。」
途中まで言いかけたところで、とうとう涙が溢れ出すヴァランティーヌ。
それを見た私も、精一杯我慢していた涙が、大粒の雫となって、頬を流れる。
「ヴァランティーヌ。
私…、幸せになるね。
だから……、
これからも近くで、見守ってね。
大好きよ、ヴァランティーヌ。」
それまで、涙を流しながらも、何とか保っていた顔が、私の愛が溢れた言葉に、一気に顔面崩壊?とばかりに、ぐしゃぐしゃな顔になってしまったヴァランティーヌは、これだけは何とか伝えねばと、呼吸を整えながら、一生懸命に話す。
「ひ、姫様。当たり前です!!!
さっき、まるで、
今生の別れ…みたいな言葉を、
吐きましたよね?
わたくしは、ですね……。
この命が尽きようとも……、
莉羽様、
あなた様に、何が何でも、
ついて行きますからね。
覚悟なさってください!
だ、だって姫様…、
私以外に、一体誰が、
どうやっても起きない姫様を、
起こすことができましょうか?
……。
誰もおりません、よね?」
ここまで話してきたヴァランティーヌは、いつもの調子になって、恩着せがましい感じで、少し微笑みながら続ける。
「それに……、誰が、
肌もボロボロ、クマ全開、
毛穴開きっぱなしのダメ顔に、
完璧メイクを施し……、
このファータ「1」とも称えられる、
美女に、化かす事が出来ましょうか?
……。
そう、あなた様には……、
私しかおりませんのですよ!」
興奮のあまり語尾がおかしくなりながらも、どや顔でそう言い放つヴァランティーヌ。
そんな彼女の顔を、私は涙を流しながらも無言、真顔でしばらく見つめる。
そこから数秒間、見つめ合った私たちは、大笑いをして抱き合う。
「ちょっとさぁ~、
今のは、いくら何でも……、
馬鹿にし過ぎでしょ~。
ヴァランティーヌ。」
私が泣きはらした顔で笑いながら、そう伝えると、
「フフフ、すみません、姫様。
わたくし、一度で良いから、
言ってみたかったんです。
わたくしという存在が、
どれだけ姫様にとって、
必要不可欠であるかを……。
多少の【おイタ】は、お許しください!
姫様!」
茶目っ気たっぷりに言い放つヴァランティーヌに、
「多少のおイタって……、
今のは、多少どころじゃないわよ。
許すわけないじゃない!!!
一生かけて償って!」
私は、ヴァランティーヌとの、いつも通りのやり取りに、安心感と喜びを感じながら伝える。
そんな私に対して、ヴァランティーヌも、
「はい、もちろんでございますよ。
一生お仕えさせていただきます。
でも……、明日もちゃんと、
一人で起きられるように……、
せいぜい頑張ってくださいね。」
ふざけて意地悪な言葉をかけつつも、ヴァランティーヌの目から、再び大粒の涙が零れ落ちる。
そして、
「本当に、本当に、
おめでとうございます…。
姫様。」
私たち二人は、それからしばらく抱き合いながら、過去から現在に至るまで、共にした時間を振り返り、幸せに浸る。
そして私は、このかけがえのない、姉のような存在の侍女、ヴァランティーヌとの出会いを神に感謝する。
その後、私はウェディングドレスに着替え、ヴァランティーヌの最高の仕事により、この国一番、いやこの星一番の美女に化け?最高の花嫁となり、全ての準備を終える。
すると、ドアを叩く音が聞こえ、皇子と凱が入ってくる。
皇子は、ヴァランティーヌの最高の仕事により、普段の1.5倍増し程美しく、ウェディングドレスを纏った私の姿に、しばらく見惚れているようで、彼だけ時が止まったかのように動けない。
そして、その後ろの凱も、私の気のせいか?顔を少し赤くして、私を直視できないでいるように見える。
「姫様、おはようございます…。」
私のウェディング姿に、胸がいっぱいの皇子は、その後の言葉が続かない。
私は、少し照れながら、いつもより品を意識した微笑みで、
「エルフィー様、
今日の空を見ましたか?
雲一つない、晴れやかな晴天が、
どこまでも広がる、
最高の結婚式日和ですね。
数多の神様方も私たちの結婚を、
祝福してくださっているかのように……。
こんな素敵な日に、
式を挙げられること、
心から、嬉しく思います。
…………。
こんな最高の日であるのに、
大変申し上げにくいのですが……、
実は……、
緊張してなかなか眠れず……、
クマが出来てしまって……。
でも、侍女のヴァランティーヌが、
見えないようにしてくれたのですが、
大丈夫…でしょうか?」
朝、鏡を見て、あまりのクマの酷さに、ここまでのクマは、どれだけ腕のあるヴァランティーヌでも、なかなか隠すことは難しいだろうと、内心落ち込んでいた。
『人生最高の晴れ舞台なのに……。
緊張やいろいろな思いが溢れて、
寝れなかったのは、
今さら言っても仕方ないとして……。
でも……、
いたって平均値の顔面とはいえ、、
自分史上最高の状態で、
この日を迎えたかった……。』
式の準備に入り、ヴァランティーヌは期待以上の仕事をしてくれて、ほとんどクマは確認できない状態であった。
しかし、絶世の美男子とも言える、エルフィー皇子の隣に立つ身としては、最高以上の私でないと釣り合わない……、いや…釣り合うわけもないのだが……。
とにかく、一番近くに立つエルフィー皇子に、確認してもらうのが一番だと、私は恥ずかしさでいっぱいながら…、お願いしたのだった。
エルフィー皇子は、少し照れながらも、私の顎に手を当てて、かなりの至近距離で私の顔を確認する。
『顔が近い……。
ドキドキが溢れて…、
顔から火が出そう……。』
皇子は普段、私を気遣い、控えめに接してくれているのだが、時に、人が変わったように大胆に、強引になる事を、今更ながら思い出し、自分で振りながら、だいぶ恥ずかしくなって、顔を真っ赤にさせる私。
そんな私の心情を知る由もなく、確認せねばとしっかり私の顔を見つめると…、にこっと笑いながら、皇子は私に優しく語りかける。
「よく確認しましたが、
全く見えませんよ、姫様。
安心して下さい…、本当に、
この上ないくらい美しい…。
そして、今日は特に……、
輝いていらっしゃいますよ。」
そう言ってから、突然ハッとして、私との顔がかなり近い事に気付き、照れる皇子。
そんな二人のやり取りを見ている、対照的な二人…ヴァランティーヌと凱。
ヴァランティーヌは、私たちの微笑ましいやり取りに、自分の頬も赤らめたり、キャっと小さな声を上げたりと、自分の事のように喜んでいた。
一方の凱はといえば……、私と皇子のやり取りを、極力見ないようにしているのか、視線を外しながらも、たまに、こちらをチラッと確認しているのが、私の立ち位置からも見て取れる。
従者として、主のプライベートなやり取りに、干渉しないようにとの配慮なのか、他の意図があるのかは、分からない。
でも、もうこの世界の私には、関係ない事だ……。
気持ちを取り直して、私は皇子をはにかみながら見つめる。
そんな私たちの時間をずっと見ていたいと熱望しているヴァランティーヌだったが、時間を確認して、
「凱様。」
呼びかけ、促す。
「ええ。」
凱は、ヴァランティーヌの呼びかけの意図を察して、咳払いをしてから、
「殿下、お話中、失礼いたします。
本日の挙式の段取りですが、
もう一度確認されますか?」
皇子は、少し考えて、
「いや、もう大丈夫だよ。
それより……、分かるよね?」
エルフィー皇子は、少しわざとらしく、にこにこしながら、凱に目配せする。
すると、
「はっ。申し訳ございません。
気が利きませんで…。
時間になりましたら……、
また参ります。」
そう言って、そそくさと、ヴァランティーヌと共に部屋を出る。




