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【第3夜④ ~謎の拉致事件~】

~前回より~

『私さえいなければ、家族は平穏な日々を過ごせていたに違いない。そして、ドリーも。それなのに私は両親、そして凱、ドリーに多くの不幸を味合わせてしまった。私はその罪を償わなければならない。この家を出よう…。』

 そんな事ばかり考えていたある日、私の思いつめたような表情を見て、全てを悟った凱が、

「お前、ここ最近、またつまらない事考えてるだろ。」と怒った口調で話しかけてきた。

「…。」何も言えなくなっている私に、母が手を取り、ゆっくりと話し始める。


「莉羽。ごめんなさい。あなたにとって一番近い存在でありたいと思いながら、一番遠い存在になっていたわよね…。いつかはあなたに本当の事を話さなくちゃいけないって思っていたのに、タイミングばかりを気にして、考えているうちに時間ばかりが過ぎてしまって…。でもその間に…、真実を誰からか聞いてしまったのね…。それなのにずっと自分の胸にしまい込んで…、辛かったわよね…。あなたの気持ちを思うとお母さん、あなたに謝らなければならない…ごめんなさい、莉羽。」そう言う母の目から涙がこぼれ落ちる。


「でも、あなたは何があっても私たちの家族よ。血なんか繋がってなくても関係ない。だから、私たちに何も負い目を感じることなんてないの。お父さんも、お母さんも、凱も、あなたを心から愛してるわ。」大粒の涙が流れるのをそのままに、母は私を抱きしめる。そんな母の様子を見ていた父が、母の肩に手を置き、

「そうだぞ。初めて家に娘が出来たあの日の朝、玄関の前に置かれたかごの中で、毛布にくるまれているお前を見た時、父さんは、天使が我が家に舞い降りたと思ったんだ。本当に愛らしくて、にこにこ笑ってなぁ…母さん。」父も目に涙を浮かべている。

「そうそう、あの日のことはよく覚えているわ。凍えるような寒い朝、真っ赤なほっぺで、にこにこ笑って。指を口元に持っていくとね、それをおっぱいだと思って一生懸命吸おうとして…。その様子が本当にかわいくて愛おしくて。ここだけ一足先に、春が来たみたいになったのよ。」

「そうだな。ちょうど凱が生まれて2週間だったから…、母さんのおっぱいを二人で争うように飲んで、なんだか懐かしいいなぁ…。涙が出てきそうだ、母さん。」父の目に涙が溢れている。

「もう、お父さんったら、すぐに泣いちゃうんだから…。」

「そういう母さんだって…。」2人は、家族が4人に増えた大切な日を思い出し、胸を熱くしていた。

「莉羽。もう一度言うわ。私たち家族は、心からあなたの事を本当の子供だと思っているわ。今まで周りの人たちが、何を言おうと何をしてこようと、私たちは家族だから何も変わらなかったし、それはこれからも一生変わらない。だから、あなたは自分のせいでとか、自分さえいなければとか、もう二度とそんなことは考えないでほしいの。愛してるわ、莉羽。だから形式だけじゃない。あなた自身の心も、私たちの家族になってほしいの。私たちはそう願っているわ。そしてここからいなくなろうなんて馬鹿な事、二度と考えないでね。」そう言うと、母は私をさらにぎゅっと強く抱きしめ、父もそれに続く。そして少し照れながら、恥ずかしそうに顔を赤らめた凱も加わる。私は3人の温かい思いに満たされ、この上ない幸せを感じていた。


 この日、私たち家族は本当の家族になった。それからというもの、私はさらに愛情に満ちた日々を送り、自分自身の幸せだけでなく、私を支えてくれる人々の幸せを願えるようになった。


 その事件で私を忌々しい噂から解放してくれたのが、当時の調査班班長であり、現騎士団団長のロイと副団長のフィンである。彼らは、娘の為に真犯人の調査を必死に依頼する父の姿に心打たれ、何としてでも解決すると動いてくれたのだ。騎士団の中で、赤目の私の噂が情報としてすでに挙がっていたので、私自身に興味があったのも事実だろう。もし悪魔の片鱗でも表せば、大事になる前に私を処分できると…。


 しかし、今回の事件の調査結果から、シュバリエ全域で起きている魔物急増と、連れ去り事件も、今回の事件に関係はあることが分かったが、私は完全に無実であると判明したため、彼らの態度は一遍する。


 特に団長と副団長の二人は、私の超人的能力に個人的興味を持ち、この村に予定を延長して滞在していた。その関わりの中で、私が人に危害を与えるような人間ではない事、また噂通りの能力を持ち、潜在能力も未知数であること、また今回のいじめの経験で得た正義感の強さを確認した彼らは、赤目の私と、ずば抜けた剣術の才能を持つ兄の凱を、未来の騎士団を担う人材になるだろうと、騎士団の訓練に招くことを約束してくれた。そしてそれ以降、私たちの事を弟と妹のように可愛がってくれた。

 しかし、フィン副団長は、女である私が騎士団の中に出入りしている事を、あまりよくは思っていないようだったが、私の身体能力には相当興味と期待をもってくれているようだった。


 そんな経緯もあり、16歳になった私と凱は、騎士団団員と見習いになった。凱の身体能力も、もともと人並み以上ではあったが、騎士団の訓練を始めてから2週間で驚異的な成長を見せ、剣技も各班の班長レベルの実力まで上がっている。だがやはり、私は女であることがネックになっていて、なかなか高レベルの訓練には参加させてもらえない。

「団長…、私も早く凱レベルの訓練がしたいです(泣)。」と縋り付いても、

「お前は基礎をしっかり固めないとな。男とは体格も体力も違うから、まずは基礎体力だ。」優しく微笑みながらも、許可してはくれない。長身で細身ではあるが引き締まった体格のロイは、少しウェーブのかかったベージュの髪を一つにまとめ、瞳の色は神秘的な濃い紫色。右目は前髪で隠れている。切れ長の目と目元のほくろが何ともセクシーさを醸し出している。理知的で常に冷静さを失わない、そんな優男である。そんな彼は、各地方の町や村に遠征に出ると、必ずその土地の女性を魅了してしまうらしく、彼に近づきたいばかりに、騎士団地方部隊の看護班への入隊を希望する女性が殺到するとの事だった。


 そんなロイとは対照的に、

「そうだよ、莉羽。まだまだ先は長いよ!ほら僕と一緒に行くよ!おいで。」フィン副団長は、女が騎士団なんて…と言いのけるので、古い考えの持ち主かと思っていたが、実は女性に戦わせたくないとの優しさから出ている言葉なのだと後になって知ることになる。素直に言えばいいものを、なんだかんだ言って、素を出せない、ある意味不器用な部分も持ち合わせた、優しさにあふれた男である。そして、妹のアラベルとのやり取りから、結構世話好きな良いお兄ちゃんであることも分かる。


 身長は172センチと、さほど大きくない代わりに、機動力があり、常にちょこまか動いている感じである。走るのも早く、速さには自信がある私でも、そうは追いつけない。

「副団長~。待ってください~!」と走り出す私。猫っ毛のイエローブラウン系の髪をなびかせ、ぱっちりとしたエメラルド色の目を輝かせながら、まるで少年のように無邪気に逃げる姿はなんとも可愛らしい。マントの隙間から見える筋肉質な上腕筋から、細マッチョな体であることが想像される。

 

 妹のアラベルは髪の毛こそ、肩より少し長い位で、他の特徴は兄のフィンと同じ、明るめのイエローブラウンの髪色に、エメラルドの瞳を持つ、チャーミングな15歳の少女で、兄に対してはかなり手厳しいが、心根は優しく、騎士団の救護班の癒し担当として絶大な人気を誇っている。

フィン副団長を追いかける私が、

「凱に早く、追いつきたいんです~!」

「ほら、早く、早く。そんなんじゃ、いつまで経っても本訓練に入れないぞ!」そう笑いながら走るフィンを追いかける私の姿は、この班の日常となっていた。それは、日々厳しい訓練を受ける他の団員に、ちょっとした笑顔をもたらしていた。とりわけこの班の雰囲気は他の班よりも良好だと噂が広まり、他の班の団員もこっそり見に来ているようで、ロイは私と凱を入団させたことに間違いはなかったと感じていたと、ずいぶん後になってから本人に聞くことになる。


 訓練が終わり、立っていることも難しいほど疲労困憊な状況の中、班長に呼び出される私と凱。ここ数日、立て続けに起こっている、不可解な事件についての会議に出席するようにとのことだった。私たちのような下っ端が呼び出されたことに違和感を覚えながらも、

「突然いなくなったっていう花屋の娘さんの事件の聴取かな?」

「そうかもしれないな…。とりあえず行こう。」


 私と凱は、王宮内の騎士団専用の大会議室に向かう。そこには500は下らないと思われる数の、騎士団の各地方部隊の隊長、班長が集っていた。

「ものすごい数!これだけの団員をまとめているなんて、ロイ団長は本当にすごい人なんだね。」

「そんな人のすぐそばで訓練できる俺たちは幸せ者だな。しっかり訓練こなして、この国を魔物から守れる立派な団員になろうな。」凱は私の肩にポンと手を置く。

「うん。」私は目をきらきらさせてロイ団長が入ってくるのを待つ。


 すると、それまでざわついていた室内が、ロイ団長の登壇で静まり返り、一気に緊張感が増す。ロイは一度咳ばらいをして話し始める。

「連日起きている『魔物による連れ去り事件』だが、昨日、西地区レファで男性19人、女性21人、子供10人、東地区カジームで男性15人、女性23人、子供8人が連れ去られた。これまでの総件数は、西地区だけで321人、東地区525人、北地区226人、南地区151人になっている。日に日に件数は増えており、危惧すべきは「魔よけ石」の包囲網内では今まで1件も起きていなかった連れ去りが、ここ数日は内でも起き始めているということだ。さらに問題なのは人目がない場所で事件が起きているわけではない。つまり、白昼堂々、大勢の前で人が突然消える事例も報告されているのだ。これは…魔物が直接人を連れ去るだけでなく、何かしら、妖術的な力が働いているのかもしれない。とすると、我々が警備をしているまさに目の前で、事件が起きる可能性があるということが考えられる。」

「僕たちは為す術なしってことか…。」フィン副団長が報告書を見ながらボソッとつぶやく。

「そういうことだ…。しかし、昨日の報告で一つ不可解なことがあった。連れ去りが始まった3週間前に姿を消したうちの1人が戻ってきたというのだ。」

「どういうことですか?」場内がざわめく。

「北地区のサジエルの住民一人が昨日、村に戻ってきたというのだ。今、本人から話を聞いているとのことなんだが…。」

「何かあるんですか?」東地区の班長が尋ねる。

「記憶がないというんだ。だから、何を聞いてもわからない。でも帰るべき家は覚えている、と先程報告を受けた。あと…、かなり衰弱して、無気力状態なため、聴取が進まないとも…。」眉間にしわを寄せて話すロイ団長。

「それはつまり…帰る家以外の記憶がないということですか…?」

「そういうことになる。我々は今まで『食用として魔物が人を連れ去っている』と推測してきた。しかし今回の件で、実は全く違う目的で拉致し、それが魔物を操る者も関与している事件である可能性が高いと…。我々の思い込みで取ってきた対策は、全く無意味だったのかもしれない…。まあ、戻ってきた者が、ただ運が良かった…、のだとしたら話は別だが…。」

「そうだね。たまたま戻ってこれたのだとしたらね。でもそうじゃない場合、事件はもっと大きくて、複雑だってことだね。」フィン副団長の顔が曇る。

「ああ。」

「魔物たちだけの犯行なのか、もしくはその背後にいる何者かが関与しているのかは分からない。そのため目的も何も全く分からない。がしかし、その中で分かっていることが一つだけある。それに照準をあてて作戦を練ろうと思うが…。」ロイは室内を見回し、団員の反応を確認する。

「いいよ、言ってみて。」フィン副団長が何か思い当たる節でもあるのか、小悪魔的な笑みを浮かべている。ロイはフィンの顔を見て軽く頷き、

「ああ。連れ去りが始まった当初よりも、一日に連れ去る人数がかなり増えていることが調査で分かっている。そこから考えても、奴らは人間を大量に拉致しようとしているのではないか。だとすると、奴らが次に狙うのは人間がたくさん集まる場所。」

「…祭りかい?」ニヤッとしながら話すフィン団長。

「ビンゴだ。」確信を持った、自信に満ち溢れる目で言い切る団長。そして、私と凱の顔を見ながら、

「凱、莉羽、君たちをここに呼んだのはそういうことだ。おそらく奴らは10日後に君たちの村で開かれる祭りも標的にしていると思われる。二人には協力してもらうつもりだ。よろしく頼むぞ。」


 突然名前を呼ばれたことに私は驚き声が出なかったが、常に冷静沈着な凱は、

「はい!」落ち着いた様子で返事をする。ロイはうんと頷くと、会場に響き渡る声で、

「その祭りで私たちは大規模な作戦を実行する。失敗は許されない。全力で村人を守り、敵の正体と目的を暴くぞ。」全員の心を鼓舞するように檄を飛ばす。そのロイの檄に応えようとする会場中の男たちの、

「おお~。」という怒号にも似た声が会場を揺らす。


 そんな中、

「莉羽、それまでにとことん鍛えてやるから覚悟しといて!女だからって容赦しないからね!」にやにやして、からかうようにフィン副団長が言う。大勢の前でご指名をうけたことで、これが噂の女団員かと、会場がざわつき、その目が一斉に私に向く。私は500人の目に驚き、引きつつも、

「わっ、わかりました。」フィン副団長のしごきの恐ろしさを思い出し、うんざりしながら返事をして、そそくさと凱の陰に隠れる。そこに追い打ちをかけるように、妹アラベルが、

「お兄ちゃん、莉羽のこと、いくらお気に入りだからって、厳しくしすぎちゃだめだよ~。」そう言うと、副団長のお気に入りなのかと、さらに会場はざわつく。私は、いてもたってもいられない気持ちで、早く会場を出たかったが、そうもいかず泣きたい気分でそこにいるしかなかった。思わぬ場面で暴露されたフィン副団長は、

「何言ってんだよ、アラベル。お前は口出すな!」と顔を真っ赤に焦った様子でそっぽを向く。凱はフィンの様子を見て少し首を傾げ、

「そうかお前…、副団長の…そういう事か。」凱が私の頭に手を置く。

「えっ?何?どういう意味?とにかく早くここを出たい。」半泣きの私を見て、

「お前はどこでも人気者だな。人気者の(さが)だな。」凱が私の頭をぐしゃぐしゃにしながら言う。私はその手をどけようとしながら、

「いじられてるだけじゃん!そういうの要らない!」そう半べそをかいて話す私を見た凱は、私の心中を察し、その手で私のぐしゃぐしゃになった髪を直してくれる。そんな凱の気遣いに私は、

「でも…、フィン副団長がここまで面倒見てくれるっていうのは…、少しは期待してもらえてるのかもしれないって思ってるから…、明日からも頑張るよ。」見下ろす凱に笑顔で応える。

「ああ。そうだな。」凱もにこっと笑う。

「うん。」



『夢の中の世界だけど…、みんなの為、この世界を守るために力を尽くそう。』私は心に誓う。

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