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【第16夜① ~結婚にあたって~】

【前回までのファータ】


「ああ。…待って…。」凱は私の手を引っ張り、振り向かせる。私は顔を合わせることが出来ず、うつむくが、凱は私の頬に両手を当てて、強制的に見つめ合わされる。こらえ切れず涙が零れ落ちる。その涙にうつむく凱。そして2人に沈黙が流れる。


「何すんのよ…。気持ちがどうにもならなくて、辛くて、苦しくて、痛くて…、でもそんな中でも決めたの。この国のために結婚するって、もう…、諦めようって。それなのに、何で引きとめるの。もう中途半端な優しさなんて見せないでよ…。もうこれ以上、私を苦しめないで…。」我慢の限界だった。


 私は凱の前でもしっかり立っていられるように、何とか気持ちを奮い立たせてきた。それなのに…凱のこの行動が、今にも壊れそうな心に追い打ちをかける。そしてその心が深い闇に取り込まれそうになるのを感じながら気を失う。





 ファータでは、私が凱との話で気を失ったあと、目覚めるまで時間がかかったらしい。その間、エルフィー皇子が何度も私の様子を見に部屋を訪れてくれていたと、ヴァランティーヌが嬉しそうに話してくれた。それを聞き、私は身なりを整え、急いで皇子の部屋に入る。


「おお、目覚められましたか!良かった!気を失ったと聞いて、居ても立っても居られずに何度もお部屋の方に…。姫の侍女もおそらく困惑されていた事と思います。」それまで椅子に座っていた皇子は、私の顔を見るなり傍に来て、手のキスをする。私はにこっと笑い、


「次女から聞いております。私を心配して、何度も私の部屋を訪ねてくださって、ありがとうございます。疲れがたまっていたようで…、ゆっくり休んだおかげで、すっかり良くなりました。」そう言って、皇子の手を取りソファに座る。隣に座るエルフィー皇子はまるで、飼い主の隣にちょこんとお行儀よく坐るワンちゃんのように、嬉しそうに私の顔を見ている。


『眼福!!!』とても美しい皇子の可愛らしい表情で目の保養をしながら私は切り出す。


「侍女の件ですが、くれぐれも咎めることのないようにお願いします、皇子。」私は彼女と自分を重ね合わせて自分の思いを伝える。


「私たち王族には、どうしても身分や立場といったものがまとわりついてきます。それ故の不自由さというものを、どうしても感じてしまうことがあります。でも彼女の気持ちは純粋で嘘偽りのないもの。嘘や駆け引きに満ち溢れた王宮内で、そういった気持ちを持ち続けていた彼女の心は純粋で、そのように慕われている皇子も本当に魅力あふれる方だと思います。」


私は、内心『ほんとはこんな事したら、牢屋行きか、気の短い主だったらすぐさま殺されてしまうんだろうな』と思いながら、そう伝える。すると、皇子は初め驚いたような表情をしていたが、そのあと納得したように頷くと、


「そのようなもったないお言葉、痛み入ります。彼女のように私を「皇子」として信頼してくれる者たちを大切にしなければと、気持ちを新たにしたところです。」皇子の話す声色から、優しさと決意を感じる。


「皇子、それはこれから私たちが作っていくこの国にとって、とても必要な思いですね。」私はほほ笑みながら話す。それを見た皇子は満面の笑みで、


「姫、それは…、そういうことでよろしいのですか?形式ではなく、姫のお心と思ってよろしいのでしょうか?」さっきまでとは打って変わって、子供のような笑顔ではしゃぐ皇子。


「皇子。ここまで式の準備が進みながら、わたくしの口からちゃんとお返事をせずに申し訳ありません。」私は言葉を選ぶため、少し間を置く。


「皇子、これからお話しすることは私の正直な気持ちです。不快に思われることもあると思いますが、私たちの未来のために聞いてください。」


改まった口調で話す私の真剣な眼差しに、皇子もまた落ち着きを取り戻して、


「わかりました。ぜひ聞かせてください。」そう言って、膝の上の手を合わせ、私の目を見る。



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